NDAによって保持される秘密情報の範囲
「秘密情報」の定義は、法律上で明確に定められているわけではない。そのため、NDAによって保持される秘密情報の範囲は当事者間で決めることになる。
しかし、契約書に保持すべき情報をすべて記載することは難しく、さらに情報漏えいのリスクも高まってしまう。そこで一般的なケースでは「秘密情報には技術上、営業上の一切の情報を含む」のように、抽象的な文面を契約書に記載することが多い。
では、実際の契約ではどのような秘密情報が対象になるのか、以下で一例を紹介しておこう。
このように秘密保持契約の対象にはさまざまな情報が含まれるが、以下に該当するものは原則として秘密情報には含まれない。
・受領者がすでに知っていた情報
・契約の前にすでに公になっていた情報
・受領者の過失や故意によらず公になった情報
・受領者が正当な方法で第三者から手に入れた情報
・受領者が独自に開発または入手した情報
(※受領者は情報を提供される側のこと)
ちなみに秘密保持契約の対象に含まれていても、必要に応じて従業員や弁護士、会計士などに情報を共有するケースも多く見られる。こういったケースでは「従業員等が秘密情報を漏えいした場合、受領者自身がその損害を補償する」のように、責任の所在を契約書上で明らかにしておく必要がある。
秘密保持契約(NDA)はいつまでに締結すべき?
前述の通り、受領者がすでに知っていた情報は秘密保持契約の対象外となるため、秘密保持契約は情報を提供する前に締結しなければならない。仮に昔からの取引先であったとしても、秘密保持契約を結ばない限りは情報漏えいのリスクが確実に存在する。
中には「最初から秘密保持契約の話はしづらい」と感じる経営者もいるが、秘密保持契約に応じない取引先はそもそも信用に値しないだろう。また、最近では秘密保持契約を結ぶことに慣れた企業が多いので、締結すべきタイミングできちんと相手方に提案することを心がけたい。
契約書の作成方法は?秘密保持契約に含めるべき7つの条項
秘密保持契約に決まった形はないが、必要な内容を記載し忘れると効力を発揮しなくなる恐れがある。そこで次からは、秘密保持契約書に記載すべき条項をまとめた。
ケースによっては別の条項が必要になるケースもあるので、あくまで参考程度にチェックしていこう。
1.契約の対象者と目的
まずは契約の対象者と目的が明確になる形で、以下のような頭書きを記載する。
○秘密保持契約書の頭書き(一例)
株式会社○○(以下「甲」という。)及び株式会社△△(以下「乙」という。)は、甲乙間の技術提携(以下「本取引」という。)の検討を目的(以下「本目的」という。)として、互いに開示する秘密情報の保持に関して、以下の通り秘密保持契約(以下「本契約」という。)を締結する。
頭書きにおいて注意しておきたいポイントは、「誰が義務を負うのか」を明確にしておく点だ。上記では「互いに開示する」と記載したが、もしいずれか一方の企業のみが守秘義務を負うのであれば、「甲が開示する秘密情報の保持に関して」のように内容を調整する必要がある。
2.秘密情報の定義
前述の通り、秘密保持契約によって保持される情報はケースごとに異なる。したがって、どのような情報が対象になるのかが分かる形で、秘密情報を定義しなければならない。
対象を広くするのであれば「営業上・製造上・技術上」といった文面がよく使用されるが、細かい情報を開示する場合は定義をさらに細かくする必要がある。「○○分野において」や「○○の場で」などの文面も使いながら、保持したい情報がきちんと含まれるように定義しよう。
3.目的外使用の禁止
受領側による情報の悪用や漏えいを防ぐために、秘密保持契約書には「目的外での使用を一切禁止する」といった文面を記載することが多い。ここでいう目的とは、頭書きで記載した内容(※前述の例では技術提携が該当)のことだ。
また、メールやデータの流出を防ぎたい場合は、「コピー(印刷)の制限」も加えておくと安全性が高まる。
4.保持義務の内容(範囲)
保持義務の内容とは、「どういった形で情報を保持するのか?」を明示する条項のこと。簡単に言い換えれば「保持すべき範囲」のことであり、どの人物まで秘密情報を公開できるのかが分かる形で記載しておく。
保持の範囲は最小限に設定すべきだが、あまりにも範囲を狭めると業務に支障を来す恐れがあるので注意しておきたい。
5.契約違反時の措置
秘密保持契約の違反があった場合は、損害賠償や契約解除で対応することが一般的だ。したがって、契約書には「契約違反があった場合、提供側は受領側に対して賠償請求・契約解除ができる」といった文面を記載しておく必要がある。
また、情報漏えいがさらに広がらないように、「秘密情報の使用差止を請求できる」の一文も加えておくことが望ましい。
6.契約の有効期間
契約の有効期間は、年月日が分かる形で明記しておく。また、契約期間が終了した後も秘密情報を保持させたい場合は、「○○に関する秘密情報に関しては、契約終了後も契約条項の効果を持続するものとする」といった残存条項を記載する。
7.管轄の裁判所
秘密情報が漏えいした場合は、損害賠償等に関して裁判で決着をつけることもある。トラブルに発展すると事態がスムーズに進まなくなる可能性もあるので、秘密保持契約書には管轄の裁判所も記載しておこう。