前回は「超富裕層のためのオプション取引入門」と題してお届けした。今回はオプション取引を上手に活用する方法を論じてみたい。

たとえば、オプションを組み込んだ債券の代表的な商品の1つにEB債がある。EB債の正式名称は「期限前償還条項・ノックイン条項・他社株転換条項付 デジタルクーポン社債」だ。ひと言で言うと「特定の株価」などを参照し、その株価が一定の範囲に収まれば高い水準のクーポン(利息)がもらえるように組成した債券のことだ。

EB債は「特定の株価」のほか、株価指数や為替などを参照することも可能である。マス・リテール向けにも公募の仕組債として販売されているが、プライベートバンクが取り扱う富裕層・超富裕層向けの仕組債は「投資家の意図を汲んだ」テーラーメイドのものとして私募債形式で発行される。ただし、通常は最低3,000万円から投資可能といった制約がある。

富裕層・超富裕層の好みに応じて柔軟なアレンジが可能

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(画像=imageteam / pixta, ZUU online)

上記の通り、富裕層・超富裕層向けのEB債のポイントは「投資家の意図を汲んだ」という部分にある。つまり、テーラーメイドのお好み生産なので、投資する富裕層・超富裕層の個別のニーズや相場観を十分に反映した形のものとして組成できるということだ。

もちろん、テーラーメイドでも「リスクとリターンのトレードオフ」という基本は変わることがないので、市場見通しが外れると元本割れとなったり、早期期限前償還となって終了するリスクを負うことになる。早期期限前償還の場合、元本部分は100%返金されるので富裕層・超富裕層の中にはリスクと認識していない人も多い。だが、「当初設定日に予定した満期までの期限が失われる」こともリスクと考えるべきである。

ちなみに、EB債とは「参照銘柄のプットオプションの売り+債券」という形で提供される金融商品である。

そもそもEB債のようなタイプの仕組債が優れているのは、ハイリスク・ハイリターン志向の投資家向けにも、ローリスク・ローリターン志向の投資家向けにも、好みに応じて柔軟なアレンジが可能ということだ。中身がオプション取引なので当然であるが、ここでEB債をセールスするプライベートバンカー(以下、バンカー)が注意しなければならない点が2つある。

1つはお客様(富裕層・超富裕層)の投資特性やニーズ、あるいは市場見通しを把握していること。2つ目はバンカー自身がEB債の仕組みを十二分に理解していることだ。この2つをなおざりにすると「とんでもなく怪しげな金融商品」をセールスすることにもなりかねない。筆者がバークレイズ・ウェルスISSヘッドを務めていた頃、実はこの2つが最も悩ましい問題であった。

筆者が思うに、何事も十分理解している人の説明はわかりやすいものだが、そうでない人の説明はわかりづらい。それは、お客様である富裕層・超富裕層にセールスするバンカーにも同じことがいえる。たとえば、富裕層・超富裕層の中には高齢者も少なくない。デリバティブ系の商品に慣れていない高齢者にも、わかりやすく説明して理解していただくことが大切なのだ。下手をすると「こんな商品性のものだとは知らなかった」とトラブルを招くことにもなりかねないので注意が必要である。

富裕層・超富裕層がEB債に求めるニーズは多様である

前回「超富裕層のためのオプション取引入門」でも述べた通り、オプション取引は保険にたとえると理解しやすい。オプションの値段、すなわち何かのための保険料というのは、その担保したい事態の発生確率が高ければ高いほど当然(保険料が)高くなるのはご想像の通りだ。「起こりそうもないこと」に保険をかけようとするならば、当然その保険料は安くなる。逆に「起こりそうなこと」に保険をかけると、その保険料は高くなる。オプションの値段にも同じことがいえる。

一例として、自動車保険で考えてみよう。免許取立ての人が多い若い世代の自動車事故を担保するようなケースでは保険料は高くなる。また、無事故が何年も続けば続くほど「このドライバーは事故を起こしにくい」ということで(事故の発生確率が低い裏付けとなり)保険料が安くなる。