富裕層が金融商品でポートフォリオを組むときに、必ずといってよいほど組み込むのが債券だ。しかし、債券は株式と並ぶ2大金融商品であるにもかかわらず、株式に比べて、メディアで特集されたり、議論の的になったりすることは少ない。
そこで今回は、20年以上のファンドマネージャー経験を持ち、バークレイズ・ウェルスのISSヘッドとしても活躍したFund Garage代表の大島和隆氏に、債券のパラダイムシフトの可能性、プライベートバンクが超富裕層に提案している債券投資、2022年以降の相場環境などについて聞いていこう。
「債券は安全なもの」ではなくなる可能性がある
第1回では、多少の変動はあるものの、米国10年債利回りは40年かけて約14%も低下してきたことを見てきた。金利の低下は債券単価の上昇につながるため、ここ40年ほどの債券投資は、買う銘柄を間違えない限り、時間の経過とともに利益が出た。しかし、金利がゼロに近づいてきているため、そのような天国の時代は終わりを迎えつつあるようだ。
大島氏も「これまでのクオンツモデルにおいては『債券は安全なもの』という前提のもとで運用されてきた。しかし、金利の低下余地があまりないということは、債券価格は横ばいで推移するか、もしくは値下がりするしかない。パラダイムシフトが起こる可能性がある」と警鐘を鳴らす。
改めて金利の長期チャートを確認しておこう。2年債、5年債、10年債、30年債、FFレートのすべてが右肩下がりになっている。マイナス金利が正当化されれば、「ゼロ以下の世界」に向かって金利が下がり続ける可能性はあるが、大島氏は「人口が増え続ける米国でマイナス金利が常態化することはないだろう。人口が増え続ければ経済が拡大し、インフレが起こりやすくなる。その結果、金利には上昇圧力がかかりやすくなるためだ」と見る。
仮に金利が上昇し始めると、債券投資家には逆風が吹くことになる。個別銘柄は満期まで持てば元本が毀損することはないが、債券ファンド(投資信託やETF)を保有している人は特に注意が必要だ。なぜならば、このような運用商品はほぼ例外なく、ポートフォリオで保有する債券について「時価」で評価損益が計算されるためだ。金利が上昇すると債券単価は下落するので、ファンドの基準価額には下落圧力がかかりやすくなる。
「自分は個別銘柄も債券ファンドも持っていないから大丈夫」という人でも、実は間接的に債券を保有していることがある。たとえば、ファンドラップやバランス型ファンドを保有している場合だ。ファンドの運用方針にもよるが、このような運用商品は債券比率が高くなりやすい。「ただでさえ信託報酬が高いことが多いので、金利が上がってくると、債券価格の評価損が発生する。そのため、信託報酬さえも賄いきれなくなる『逆鞘』の恐れがある」と大島氏は指摘する。