株主代表訴訟の流れ
株主代表訴訟の流れを確認しておこう。株主代表訴訟は、6ヵ月以上株を保有する株主が起こせる。ただ思い立ったらすぐに訴訟が起こせるわけではない。まずは、訴訟の前に会社に対して、役員の責任を訴訟して追求してもらいたい旨の書面の提出が必要だ。60日間会社が問題解決のためのアクションを起こさなければ株主代表訴訟を起こすことができる。
では、株主代表訴訟の流れをさらに詳しく見ていこう。ここでは、公開会社の例を挙げて紹介していく。
※公開会社:発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社をいう
出典:会社法第二条 五
1. 提訴前
6ヵ月以上株を保有する株主が、会社に対して不祥事などを起こし会社に損害を与えた役員等の責任を追及してもらいたい旨を請求。請求の日から60日以内に会社が何も対策を講じなかった場合、株主代表訴訟が可能になる。
2. 裁判所について
株主代表訴訟は、会社の本店所在地の地方裁判所に提起することが必要だ。地方支社等で起こった問題についても本社所在地の裁判所に訴える必要がある。
3. 訴訟の手数料の納付
株主代表訴訟の場合、手数料は一律1万3,000円だ。これ以上訴訟の手数料を取られることはない。
4. 訴訟することの告知
株主代表訴訟を提起する株主は会社に対して訴訟することの告知を行う必要がある。
5. 判決
【株主側が勝訴の場合】
原告の株主が勝訴しても賠償金を原告が受け取ることはできない。会社側に支払うことを要求するのみとなっている。ただ原告の株主側は株主代表訴訟にかかった費用(調査費用など)や弁護士への報酬については、会社側に請求することができる。
【株主側が敗訴した場合】
悪意を持って株主代表訴訟を起こした株主側が敗訴した場合、会社に損害賠償を支払う責任を負うこととなる。
なかには、株主代表訴訟を起こす株主側と訴えられる役員側でなれあいが起こる可能性も否めない。それを防止するために会社法849条1項では「他の株主又は株式会社による訴訟参加」、会社法853条で「再審の訴え」も認められている。
株主代表訴訟の2つの事例
株主代表訴訟は、年々増加傾向にある。どのような訴訟が行われるのかを知るためにも過去の株主代表訴訟の事例を見てみよう。
1. ヤクルト本社株主代表訴訟事件(平成22年)
ヤクルト本社が1人の取締役にデリバティブ取引を担当させた。しかし取締役は、取締役会の承認を得ずに取引を行ったうえ会社で制限されていた限度を超える取引も行っていた。結果的に約533億円の特別損失を計上することとなる。株主側は、取引担当の取締役や他の役員の行為は「忠実義務違反」「善管注意義務違反」に当たるとし株主代表訴訟を起こした。
裁判の結果、取引担当の取締役には「善管注意義務違反」が認められ約67億円の損害賠償が認められた。しかし個々の取引で取締役会の承認を得なかった点は、取締役に決裁権限があったことなどを理由に違法ではないとの判決。また他の役員についても会社のリスク管理体制は相応のものだったとして違法取引を止められなかったが監視義務違反はないとされた。
2. アパマンショップ株主代表訴訟(平成22年)
株式会社アパマンショップマンスリー(以下、マンスリー社)は、株式会社アパマンショップホールディングス(以下、ホールディングス)が株式の3分の2、フランチャイズ事業加盟店が残りの3分の1の株式を保有するという会社である。平成18年、ホールディングスの取締役は完全子会社に主要業務を担当させマンスリー社を持株会社に再編する計画を行った。
それに伴いホールディングスはマンスリー社の株式を1株5万円で買い取る決定を行っている。この決定についてホールディングスの株主は「マンスリー社の株式の適正価格は1株8,448円程度である」と考え、不当に高額な買取価格を決めた取締役に「善管義務違反」があるとして株主代表訴訟を起こした。裁判では、取締役の善管義務違反が問われ最高裁まで争われることとなる。
その結果、株式の買取価格に不当なところはなく、決定の過程にも不合理な点はないとされ取締役に善管義務違反はないとされた。