この記事は2022年2月10日に「テレ東プラス」で公開された「破天荒社長が手がける!~ワクワク雑貨チェーン~」」を一部編集し、転載したものです。
目次
1. 美食、腹巻、生活雑貨…… ―― すべてオリジナルの格安商品
東京・渋谷に2年前にオープンした話題の店「オーサムストアトーキョー」。「オーサムストア」は全国に62店舗を展開する生活雑貨のチェーン店だ。コロナ禍のおうち需要で雑貨チェーンは軒並み好調だが、中でも「オーサムストア」は、すべて自社で開発したオリジナル商品で人気を呼んでいる。
卸を通さないのでどれも格安。だが魅力は安さではない。どの商品も思わず手にとってみたくなる遊び心が満載だ。
たとえばマリリンモンローをイメージしたしゃもじ「しゃもじレディー」(429円)。蓋の部分を上下させると爪楊枝が出てくる「爪楊枝ホルダーマン」(649円)。毛糸のパンツ「もこもこ腹巻パンツ」(429円)や「もこもこ腹巻」(385円)もポップな部屋着として冬場の人気商品だという。
▽マリリンモンローをイメージしたしゃもじ「しゃもじレディー」
使いやすさも機能性もおさえている。たとえば「タオルホルダー」(319円)は、裏の吸盤で壁にくっつけてタオルを差し込むだけ。場所を選ばないと重宝されている。
アルミが編みこまれた「アルミニウムスポンジ」(55円)は汚れがよく落ちると主婦に人気。「コンパクトヘアアイロン」は長さ15cmとカバンに入るサイズ。旅行に便利で759円という安さも人気だ。
オーサム社長・堀口康弘さん(66)には「商品のデザイン性では絶対に他社には負けない」という強いこだわりがあった。クッキーに見えるのは実は食品用の「ラップ」(162円)。缶ビールかと思ったら「ボトルウエットティッシュ」(209円)だ。
「キッチンであまり主役にならないもの。使った後にしまわれてしまう。彼らにも息を吹きかけて、テーブルに置いておいても画になるようにするという考え方です」(堀口さん)
キッチンの脇役スポンジも「寅年なんで(寅のデザインのものを)使おうかと。スポンジではなく飾り用で」というデザイン。使えればいいというものに独自のデザインを加えて、ワクワク感を生み出しているのだ。
コロナ禍でも絶好調の「オーサムストア」だが、中でも人気なのが「原宿ラーメン」などのオリジナルの食品群。スイーツ、スナック類は全品105円。食品も目を引くパッケージデザインだが、中身にも並々ならぬこだわりがあった。
オーサムストアの食品を作っているのはすべて国内の協力工場だ。そのひとつ栃木県宇都宮市の「宮島醤油」は、創業140年の食品メーカーだ。
オーサムがここに依頼しているのは韓国の薬膳スープ「参鶏湯」(サムゲタン)。通常のものより具材が多く、蒸し鶏のほぐし身をはじめ、生姜の千切りやシメジなど、5種類の食材をたっぷり詰め込んでいる。しかも「全部別々に入るので非常に手間がかかる」という。切れやすい食材が多いため、それぞれを手作業で扱う。だから人手が必要なのだ。
手間をかけた商品は「ごはんにかけるだけ!」シリーズの「かけるだけサムゲタン」(246円)に。手軽に本格的な味が楽しめると、コロナ禍のお家需要で重宝されている。
アイデアを武器に雑貨業界で独自の輝きを放つ「オーサムストア」。
「他社にないものがないと大手に飲み込まれてしまう。我々の生活雑貨の業界で唯一無二の業態をブラッシュアップしていかないと生き残れないと思っています」(堀口さん)
▽「他社にないものがないと大手に飲み込まれてしまう」と話す堀口さん
2. デザイン性&機能性商品の裏側に ―― 美大卒! 物申すデザイナー集団
オーサムストアでは生活用品から食品まで、すべてのアイテムを自社で開発する。それを可能にしているのが女性を中心としたデザイナーの開発部隊だ。
彼女たちにはひとつの共通点があるという。武蔵野美術大学、多摩美術大学、東京藝術大学……。美大の出身者を多く採用してデザインのクオリティを高めているのだ。
あるデザイナーが作っていたのは「シリコンツールキーパー(ブタ)」(319円)などのキッチンツール。「おたまなどを使っていて、ちょっと置きたいけれど液だれとかが気になるという時に、隙間にはめて置くと、浮いているので垂れずに衛生的」と言う。
浮かせて置けるだけでなく、シリコン性なので熱に強く鍋のフチに引っ掛けることもできる。切れ込みのサイズや角度に微妙な調整が必要なため、細かい設計図を作っている。
しかも、デザイナーの仕事はデザインを上げたら終わりではない。「この会社は1人がイチから商品を作って全部の行程が任されるんです」という。デザイン後の試作から完成まで一貫して責任を持つ。中国の提携工場とも、納得いくまでやりとりして、品質を守っている。
そんなデザイナーたちが一番緊張するのが、仕上がった試作品のデザインをひとつの部屋に集めたプレゼン。ここで社長の堀口さんから「ゴー」が出なければ先に進むことはできない。
▽プレゼンの様子
この日は今年のハロウィンに向けたテーブルクロスのデザインが披露された。ハロウィングッズは「オーサムストア」の稼ぎ頭のひとつ。堀口さんの表情が険しくなった。
「少しインパクトに欠ける。色味もそうだがコントラストがなさすぎ。落ち着いた感じになりすぎている」
「オーサムストア」の売りであるデザインに「インパクトが足りない」と言う。だが、スタッフも黙ってはいない。「食器の下に引くものなのでぶつかりすぎないような色味にしました」と答えた。
「デザインの意図はわかるけど、パッと見た時に何を言いたい柄なのかわからない。文字に目がいってしまい他のものがサブになっている」(堀口さん)
「コントラストをあえてつけずに、白も目立たせないように落としました」(デザイナー)
周りのデザイナーたちも議論に参加していく。「こうした自由な意見のぶつけ合いが、いいものづくりにつながる」と堀口さんは言う。
「自分は経験でほとんどやっているのですが、その経験が今の社員や消費者と同じではない。だから私の意見にも『違う』と、今は周りのスタッフははっきりと言えるようになっています」(堀口さん)
3. 公園で生活&スラム街で倉庫番 ―― ポジティブ社長の波乱万丈記
堀口さんは1955年、佐賀市で町工場を営む家に生まれた。子どものころから絵を描くことが好きで、画家を志し、東京藝術大学を受験するが、2度失敗。大きな挫折感を味わった。
「最終学歴が高卒なので、普通の人生では大卒にかなわないと思ったんです。で、とりあえず日本を出るぞ、と」(堀口さん)
海外へ出るには資金が必要だ。そこで堀口さんはとんでもない行動に出る。資金をためるため、渋谷区の代々木公園で野宿生活を始めたのだ。
「アパートはお金がかかるから引き払い、そこから肉体労働の仕事へ通いました」(堀口さん)
そんな生活を半年続け、なんとか50万円を貯めると、1976年、一番安いチケットでアメリカ・ロサンゼルスへ。だが、着いたものの英語は話せず手に職もない。
たどり着いたのが危険エリアで知られるスラム街。何とか酒屋の倉庫番として雇ってもらえることになった。勤務の初日、店のオーナーが拳銃を手に「お前、これを使ったことはあるか?」と言ってきた。
「ここってこんなに怖いんだと。カウンターの下にいろいろな武器がありました。なるべくそれを見ないようにしていました」(堀口さん)
▽アメリカのスラム街で働いていた堀口さん
「いつか独立したい」と思っていた堀口さんは、やがてオーナーから寿司職人を紹介してもらい、料理の修業を始める。1年後にはテイクアウト専門店を持つまでになり、その2年後に帰国すると、さまざまな商売に手を伸ばしていく。
「たまたま二子玉川のある店に入って、そこの商品のデザインはすごいと思った。こんな商品があったんだ、と」(堀口さん)
それは当時流行り始めていた陶器でできた密封容器だった。
「普通といえば普通です。今はみんなもう見慣れているから。当時は見たことがなかったし、密封容器を陶器で作ることは至難の技でした」(堀口さん)
その容器に惚れ込んだ堀口さんは、すぐさまメーカーの社長に連絡を取り、1982年、そこの商品を専門に扱う卸しの会社「レプビイハウス」を創業。これが雑貨ビジネスとの出会いだった。
滑り出しは好調で、売り上げは2年間で3億円。しかし、その食器メーカーも流行の波に乗り遅れ、徐々に失速していく。ならば今度は自分で目利きした商品で勝負しようと、1990年、雑貨の輸入商社を立ち上げた。
「ただ、商品を仕入れてきても、売るのは他力本願。卸しなんです。少し売れなくなると返品されることもある。どうせやるんだったら、自信がある商品を直接お客さんに見てもらいたいとう気持ちがありました」
卸しより小売で勝負だと考えた堀口さんは、1998年、千葉県松戸市に雑貨のセレクトショップをオープンする。するとセンスのいい品揃えが評判を呼び、郊外の商業施設を中心に80店舗にまで拡大していく。
ようやく成功をつかんだかに見えた堀口さんだったが、そこに思いもよらぬ巨大な敵が現れる。2000年代初頭、海外資本のファストファッションが続々と日本に上陸、一大ブームを巻き起こす。
「ファストファッションの勢いはすごかった。黒船でした」(堀口さん)
ある日、自分の店が入っている商業施設の担当者から「来季の契約の更新はできない」と告げられる。ファストファッションの店が広いスペースを求めているから、というのだ。
そんな逆境からの転機となったのが、デンマークの低価格雑貨店「フライングタイガー」の上陸だ。2013年、表参道に東京一号店を出店すると爆発的な人気をよぶ。ライバルの出現を、堀口さんはチャンスだとポジティブに捉えた。
「『フライングタイガー』がウケるのなら『フライングタイガー』のような業種に変えればいい。真っ向勝負しようと思いました」(堀口さん)
対抗するため商品は仕入れから自社開発にシフトし、デザインを重視しようと美大出身者を大量に採用。出店場所も「フライングタイガー」と同じ表参道に決めた。
▽表参道のオーサムストア外観
2014年に出店すると、初日から店の前に行列ができるほどの大成功を果たす。堀口さんは波乱の人生をポジティブに生き抜き、全国62店舗の人気雑貨チェーンに成長させたのだ。
4. 彩り豊かなトッピングが映える ―― 人気のオーサム流ベーグル
東京・池袋の「オーサムストア」で新たな試みが。ワクワク感をさらに高めるためのカフェの展開だ。メニューもすべて自社で開発しているという。
カフェの売りはベーグル。ベーグルというとドーナツ状のちょっと硬いどっしりしたパンというイメージだが、オーサム流のベーグルは具材が上に乗っかっている。
「ガーリックカプレーゼ」(396円)はバジルやレモン、トマトが乗った色鮮やかなもの。見た目がまるでチョコのドーナッツのようなものは「クレイジーホットチョコレート」(396円)だ。
▽オーサム流のベーグル
「ニューヨークではベーグルがポピュラーに売られているけれど、日本になじんでないと思い、ベーグルに要素を加えてオリジナリティがあれば浸透するのではないか、と」(オーサム・堀口周作さん)
そこで具材をはさまず、上にトッピングした新たなベーグルを生み出した。すると女性客が次々と写真をSNS上にアップ。デザインを食にも取り入れて新たなファンをつかんでいる。
▽ベーグルは女性客に好まれた
※価格は放送時の金額です
5. ~ 村上龍の編集後記 ~
HPに載っている沿革は興味深い。「1982年2月従業員3名で有限会社レプビイハウスを世田谷区深沢に創業」からはじまる。その後「直営小売業への進出を決意」があり、「新業態ブランドをオープン」が続く。野心的な沿革だが、攻撃的な視線は感じない。どこかを潰すというような姿勢はない。堀口さんは、静かに絵を描くような態度で、事業を拡張してきた。商品を選び、売るのが好きなのだろう。いうまでもなく商品を売るのは快楽だ。その快楽に、忠実なのだ。
<出演者略歴> 堀口 康弘(ほりぐち やすひろ) 1955年、佐賀県生まれ。1973年、県立佐賀東高校卒業後、大学受験に失敗。1974年、渡米。1982年「レプハウス」設立。2014年「オーサムストア」開業 |
金融業界の新着情報をメールマガジンでお届け
厳選された有料記事を月3本までお試しできます