遺言書・遺産分割は納税資金も考えて
ただ、相続税の納税資金捻出という観点からは、遺産に不動産と預貯金がある場合には注意が必要となります。公平な内容の遺言を作成したり遺産分割協議書をしただけでは思わぬ落とし穴が生じる可能性がありえます。
具体例で考えます。
今、2億円の土地建物と5000万円の預貯金があるとします。相続税は税理士に計算してもらったところ4000万円、相続人はX・Yのお二人とします。(かつて「核家族」と言われたご家族の相続です)
この事例で、遺言書あるいは遺産分割の結果、Xが2億円の土地建物を相続しYが5000万円の預貯金を相続するとした場合、Xには3200万円・Yには800万円の相続税がかかることになります。この際に、土地建物を相続したXは現金として3200万円を工面しなければ土地建物を売却しなければならないことになってしまいかねません。つまり2億円の価値のある土地建物は、現金のように一部を支払うということができないためです。
このようなケースは実は「ありがち」なのです。例えば、Xが配偶者で比較的ご年配、Yが壮年の40代の方などで住宅ローンや教育資金が必要なケースなどでは、Xには住み慣れたご自宅、Yには現金預金という遺言書や遺産分割をされがちです。生活の実態を考えれば非常に良い分割方法ということができます。
しかし、納税資金という問題を忘れてしまうと突然多額の納税を求められ「どうしよう」ということになってしまいます。(しかも相続税の納付期限は先ほど書きましたとおり10ヶ月です)
専門家の欠点!?
遺言書作成や遺産分割協議書作成にあたっては、私たち行政書士や弁護士、司法書士等が相談を受けることが多いのですが、はっきり申しまして弁護士・行政書士・司法書士は税金には疎いというのが正直なところです。そのため、相続のご相談にあたっては税理士との提携をしていますが、そのような点をつい忘れてしまい、法的(主として民法)な問題点ばかりに意識が行ってしまうのが私たちの「欠点」です。
もちろん、東京などの行政書士は税理士を招いて勉強会をしたり、(弁護士さんも同じことをしているようですが)税金については税理士の意見が必要不可欠です。遺産に不動産がおありになる場合や、遺産分割の協議や遺言書で遺産分割の方法を指定する場合には、納税資金のことも考え遺言書作成・遺産分割協議書を作成されるようにしてください。
また弁護士や行政書士等へ遺言書作成や遺産分割の相談される際には、「この遺言(遺産分割)で相続税は問題ないか」ということを明確に相談するようにしてください。良心的な専門家であれば、自分自身は相続税に疎くとも、提携税理士に意見を求めるなどしてから必ず税務についても念頭に置いた手続きをしてくれます。遺言書作成や遺産分割では納税資金も念頭に置いて「土地持ちの現金なし」になってしまわないように法務と税務双方に配慮することが大切なポイントです。そのため、専門家を利用するにあたっては、相続税対策も含めて考えてくれる専門家を選ぶことがとても重要なポイントとなります。
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