この記事は2022年3月2日に「株式新聞」で公開された「海外株式見通し=米国、香港」を一部編集し、転載したものです。


株式新聞220412
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[米国株]ロシア制裁で浮上する銘柄は?

資産運用会社ブラックロックのラリー・フィンクCEO(最高経営責任者)が直近株主にあてたレターに次の3点を記した。

第1に、ロシアのウクライナ侵攻がグローバリゼーションに終止符を打った点。「脱グローバル化」は、前米トランプ政権時の米中経済摩擦、2018年10月のペンス前副大統領による中国批判の演説によって始まっていた側面も大きいものの、ロシアとの経済戦争に突入することで決定的となったといえるだろう。

第2に、各国がエネルギーの脱ロシア依存を模索する中で、温暖化ガス削減に向けた取り組みが短期的に軌道修正を余儀なくされるが、長期的には今回のエネルギー危機が再生可能エネルギーへのシフトを加速するとした点。

第3に、国際決済システムからの排除といったロシアへの経済制裁を踏まえ、各国で従来の通貨に依存することを再考する動きが加速し、デジタル通貨の役割が拡大する可能性に言及した点である。

銘柄選定の観点では、脱グローバル化による米国への生産回帰、短期的な石油・エネルギー関連銘柄の復活と中・長期での再生可能エネルギー関連銘柄へのシフト、さらにはデジタル通貨とその経済圏のメタバース(巨大仮想空間)に絡むフィンテック(金融のIT化)企業への再注目といったポイントが示唆される。

一方、EV(電気自動車)のテスラが4月2日に発表した1月~3月世界販売は前年同期比68%増の31万48台で、生産が同69%増の30万5,407台に伸びた。しかし、中国・上海市が3月下旬に都市封鎖に踏み切ったことから同市郊外のEV工場の操業を一時停止したことが響き、前四半期比では販売台数が0.5%増、生産台数が0.1%減にとどまった。

1月~2月のテスラの販売台数に占める中国割合は52%に上ることから、同国の新型コロナウイルスの動向が短期的に株価の重しとなりやすいものの、3月のドイツ・ベルリンのギガファクトリー稼働などにより中国依存度は低下が期待される。

株式新聞20220412
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[香港株]通信大手3社の決算

中国国有通信大手3社の香港上場子会社の前12月期決算はいずれも増収増益で着地した。最大手の中国移動(チャイナモバイル)は、売上高が前々期比10%増の8,482億元、当期利益が同8%増の1,161億元。携帯電話の契約件数は増加に転じ、1件あたり月間平均収入(ARPU)も同3%伸びた。クラウドサービスは同2倍に拡大し、データセンター事業も好調だった。

中国電信(チャイナテレコム)は、売上高が同12%増の4,395億元、当期利益が同25%増の259億元。中国聯通(チャイナユニコム)は、売上高が同8%増の3,278億元、純利益が同15%増の143億元。いずれも企業・政府向けのサービスを今後の成長の柱と位置付けている。

一方、中国政府が普及に注力してきた5G基地局整備はピークを越える。3社の合計投資額は前期が前々期比2%増の3,393億元で、5G向けは、中国移動が同11%増に伸ばした一方、中国電信は同3%減に圧縮した。今期の投資額は、中国移動が全体で同1%増を見込むも、5G向けは同4%減に抑える見通し。中国電信も投資全体は同7%増やす半面、5G向けは11%減らす計画だ。

5G向けの投資額減少は、中国通信企業にとっては利益面でプラスに作用するとみられる一方、世界の株式市場で物色の柱だった5G通信インフラ整備関連市場ではマイナスが大きい面もある。3社ともに米国の制裁対象になっているものの、中国国内での事業に影響するものではない。2022年の市場予想の増益見通しからすれば、増配の可能性もある。

フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘