本記事は、佐藤敦規の著書『リスクゼロでかしこく得する 地味なお金の増やし方』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています

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(画像=PIXTA)

もらえる年金額の増やし方

収入によって金額が決まるイメージの年金ですが、収入を上げる以外にも増やす方法がいくつかあります。

年金を払う期間を長くしよう

会社員が年金を増やすための確実な方法は、年金を長く払うことです。国民年金は収入にかかわらず保険料が一律で、20~60歳の最長40年の加入期間のうち、加入していた年数によって年金額が決まります

一方、厚生年金は収入に応じて保険料が決まり、納めた保険料と加入期間によって年金額が決まります。なおこれまでは「特別支給の老齢厚生年金」といって、60歳から年金を支給されていた人は月収が28万円を超えると年金が減額されてしまいました。2022年4月からはこの減額制度の適用額が47万円にアップし、収入をセーブしようと考えずに働けます。

収入アップが難しい人は、長く払いましょう。正社員の定年は60歳で、以降は契約社員やアルバイトの形態で雇用される会社が多いと思います。契約社員、パート、派遣社員など非正規雇用の場合は、社会保険に加入できないと思っている人もいますが、それは誤りです。厚生年金は下記の条件を満たすと、契約社員やアルバイトでも70歳まで加入できます

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この条件は、2022年10月からは週20時間以上、従業員数101人以上、2024年10月には同51人以上に拡大されます。2ヶ月以上勤務していて、先ほど挙げた時間数働いている人は、厚生年金に加入できます。

要件を満たしているにもかかわらず、厚生年金に加入させてくれなかったら、その会社はすぐに辞めたほうがよいでしょう。社会保険への加入の取り締まりが厳しくなっているにもかかわらず加入させないというのは、相当なブラック企業といえます。社会保険料の負担分を払ったくらいで経営が行き詰まるのでしたら、将来性はありません。

地味な解決策ではありますが、できるだけ長く働き続け、年金を払い続けることが、安心できるリタイア後のために最も堅実な方法です。

正社員以外も「社会保険」には入ろう

被扶養者で働いている人が社会保険に加入すると、毎月、厚生年金保険料や健康保険料が給料から引かれるようになります。つまり月々の手取りは減ってしまいます。一方で、第3号被保険者という立場でいれば、上記の社会保険料は支払わずに済みます。1円も払わずに、配偶者の健康保険証を使って病院で診てもらえるのです。こうした事実を考慮して、被扶養者でいるために、月20時間以内、年収130万円未満に収まる働き方を希望し、賃金アップを歓迎しない人もいると聞いたことがあります。

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しかし私は、たとえ収入が減っても、社会保険には加入するほうがよいと考えています。それは、社会保険加入者しか享受できない以下のような優遇制度があるからです。

社会保険のメリット1「傷病手当金を受け取れる」

社会保険加入の最たるメリットが、傷病手当金です。万が一の事態によって働けなくなるなどした際、報酬日額の3分の2が最大で1年6ヶ月、支給される制度です。日額が6,000円なら、4,000円がもらえるのです。1年以上、社会保険に加入していた記録があれば、退職後も受給できます(ただし退職時に傷病手当金をもらえる状態であった等の条件がある)。この制度は国民健康保険にはないため、社会保険の加入者(加入者であった人)でないと受給資格がありません

非正規雇用とはいえ、その収入は住宅ローンの返済計画や教育費などの大きな割合を占めるのではないでしょうか? 万が一働けなくなった場合、被る影響は大きなものがあります。傷病手当金で3分の2が補填されるのはかなり役立ちます。

社会保険のメリット2「老齢年金を上乗せできる」

また第3号被保険者の期間が大半ですと、65歳以降、もらえる年金は月額で10万円を大きく下回ります。以前は、定年まで勤めた配偶者の年金や退職金などで余裕がある生活を送れたかもしれませんが、終身雇用の慣習がなくなった現在、転職やリストラなどで年金や退職金が減る恐れがあります。老齢年金の支給額を1万円でも上乗せしたほうが安心でしょう。

社会保険のメリット3「障害年金の判定基準が緩くなる」

さらに病気や怪我をしたときにもらえる障害年金の判定基準が緩くなるというメリットもあります。厚生年金の被保険者には、国民年金と同じ1級、2級に加え、3級と障害手当金という制度があります。国民年金対象の障害基礎年金2級の判定基準は「仕事ができない状態」であるのに対して、障害厚生年金の3級の判定基準は「労働に制限があるかどうか」で、2級よりも軽い症状で該当することもあります。労働制限があるというのは一日のうち、短時間しか働けない状態を指します。うつ病にかかってしまい今までと同じように働けなくなったとき、障害厚生年金の3級なら認定される可能性も出てきます

「 加給年金」の請求はお忘れなく

厚生年金に加入している夫婦には、お得な制度があります。ひとつは加給年金という制度。例えば夫より年下の妻で、厚生年金の加入期間が20年未満、年収が850万円未満の要件を満たしている場合は、65歳からもらえる夫の年金に加給年金が加算されます。支給金額は、年間約39万円。届け出をすれば、夫が65歳になった時点から妻が65歳になる時点まで毎年、加給年金が夫の年金に加算されます。夫が年下で同様の要件を満たしている場合も同様です。

また昭和41年4月1日以前に生まれた妻は、65歳になると加給年金の支給が停止する代わりに、振替加算がプラスして払われるようになります。金額は生年月日により変わり、昭和36年4月2日~昭和41年4月1日生まれの人は、年間で約1万5,000円程度です。これらの制度については、ねんきん定期便にも載っていないため支給漏れも多いようです。厚生労働省は2017年、事務処理のミスなどで、公的年金の支給漏れが見つかったと発表。年金加入者の配偶者が65歳になると年金額に上乗せされる「振替加算」が、約10万人に対し総額約598億円が未払いだったと公表しています

年金は請求しないともらえません。日本年金機構のホームページで制度について紹介されていますが、正直、わかりづらいです。お近くの年金事務所や、社会保険労務士などの専門家に相談し、忘れずに申請しましょう。

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海外で働いていた人は、その国の年金をもらおう

仕事で海外に赴任していたことのある人もいるかと思います。社会保障制度が厚い欧州などでは、勤務先の企業などに年金を納めていた期間があれば、外国人にも年金を支給してくれる国があります。過去に赴任していた国の制度を確認し、請求手続きが可能な期間に申請をすれば、日本の年金に加え、その国の年金がもらえるようになります。

◉フランス

受給開始時期は62歳の誕生日の翌月からとなります。請求手続きはその4ヶ月前から可能です。

◉ベルギー

受給開始年齢は65歳です。請求手続きはその1年前から可能です。

◉イギリス

受給のための最低加入期間は10年。日本での加入期間との通算は不可ですが、加入期間10年未満の人は保険料追納により受給可能になります。

こうした情報はねんきん定期便には載っていません。海外年金の申請を専門に扱っている社会保険労務士もいるので相談してみるとよいでしょう。

年金が少ない人は「年金生活者支援給付金」を

消費税率10%への引き上げに合わせて、2019年10月から、所得が一定基準を下回る公的年金の受給者には「年金生活者支援給付金」が支給されるようになりました。次の条件を満たす人に支給されます。

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支給される金額は、年金の納付月数や免除期間によって異なります。請求方法については、お近くの年金事務所にご相談ください。厚生労働省にも相談窓口が設けられています。

リスクゼロでかしこく得する 地味なお金の増やし方
佐藤敦規(さとう・あつのり)
社会保険労務士。中央大学仏文科卒後、印刷会社に勤務。40代まではお金に対する知識はゼロ。株式投資を始めるがリーマンショックで約100万円損してしまう。お金についての知識を持つ必要性を痛感し、社会保険労務士試験の勉強を始める。合格後は、生命保険や年金についての正しい知識を持ってもらおうと三井住友海上あいおい生命保険のセールスパーソンに転職。現在は社会保険労務士法人に勤務。法人企業の助成金の申請代行や賃金制度の作成に携わっている。お金の知識を活かして、セミナー活動や、「週刊現代」「マネー現代」「THE21」などの週刊誌やウェブメディアの記事も執筆している。著書に『おじさんは、地味な資格で稼いでく。』(クロスメディア・パブリッシング)『「働き方改革」対応・助成金 実務のポイント』(同友館)などがある。

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