本記事は、赤岩茂氏、鈴木信二氏他3名の著書『資金調達力の強化書』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています
資金の確保・調達、財務経営力の向上をはかるには 戦略的経営力を向上させられる経理人財を育てる
「4つの戦略的経営力」を強化しよう
会社を取り巻く環境は刻一刻と変化しています。新型コロナウイルス感染症、AIの進展、地球環境変動など、会社は様々な事象に対処していかなければなりません。このような環境の変化に対応し、会社を存続させるためには、戦略的経営力が不可欠です。
戦略的経営力として強化すべきものは、4つあります。
【4つの戦略的経営力】 (1)成長のための知恵・知識・ノウハウ (2)資金の確保・調達力 (3)財務経営力(財務状況を把握し、的確な経営方針を構築する力) (4)国際競争力に耐えうる技術・人材(人財)
これらは、経済産業省の「中小企業政策審議会・企業力強化部会」が2011年12月に公表した今後の中小企業政策の方向性を示す中間のまとめの中で指摘されたものですが、現在の状況下でも、その重要性は変わりありません。戦略的経営力は、経営者一人だけではなく、すべての従業員の力を引き出し、結集することにより発揮されなければならないものです。
経理人財に求められる「6つのこと」
戦略的経営力を向上させるスキルをもつ経理責任者・担当者を、「戦略的経理人財」と呼ぶことにします。
会計情報の自動生成ができると、経理事務が省力化・合理化されるので、経理担当者に新たな役割を担ってもらい、会社の戦略的経営力を向上させていくことも可能です。
戦略的経理人財は、前述した4つの戦略的経営力の中でも、とくに、(2)資金の確保・調達力と(3)財務経営力(財務状況を把握し、それにもとづいた的確な経営方針を構築する力)の向上に寄与できる人のことをいいます。戦略的経理人財に求められるのは次の6つのことです。
その1 管理会計や財務分析の基礎知識がある
戦略的経理人財には、第一に決算書を読み解く力が必要なため、管理会計や財務分析の一定程度の知識が必要です。さらに経営戦略やマーケティングの基礎知識があると、財務情報を多面的な視点から分析できるようになります。
自己研さんも含めて、このような分野の継続的な知識習得は不可欠になるでしょう。
その2 自ら考えて実行することができる
戦略的経理人財には、正確かつ適時に会計情報を作成するスキルに加えて、課題を発見し、関係者と一緒になってそれを解決する道筋を立て、実行できる力が求められます。
また、経営者の目線で物事をとらえ、経営者が意思決定を行うために有益な会計情報を集約・整理して、わかりやすく提示しなければなりません。
会社の目的を果たすために、今何が必要なのか、自ら考えて実行する力をつけ、戦略的経営力の向上をサポートします。
その3 財務状況をわかりやすく説明できる
会社の会計情報は、事業年度ごとに集約され、 (1)貸借対照表 (2)損益計算書 (3)キャッシュ・フロー計算書
などの決算書にまとめられます。巻末資料でも説明しますが、これらは相互に関係しており、その関係性がわかると、企業活動の結果をより深く理解できるようになります。
戦略的経理人財は、会計情報のもつ意味をしっかりと理解し、経営者はもちろん、管理層、金融機関などの外部関係者などに、会社の財務状況についてわかりやすく説明する力が求められます。
自分で理解できていないことを、誰かに説明することはできません。経理責任者・担当者自身の理解を深めさせ、戦略的経理人財としての成長を促すためには、企業業績の変化の理由、たとえば、前期と比較して売上高が増減した理由についても、取引先の変動によるものなのか、商品構成の変化によるものなのか、価格面での変動によるものなのかなど、具体的に説明する機会を設けて経理責任者・担当者の成長を促すとよいでしょう。
その4 重要な会計情報がわかる
会計情報は膨大となることが多いため、経営者は、経理責任者や担当者から決算書を項目ごとに一つひとつ説明されても、要点をつかむことができません。
戦略的経理人財は、経営者の目線に立って、経営の意思決定に影響を及ぼす重要な情報に的を絞って説明する必要があります。
具体的には、次の内容についてはつかんでおくべきです。
【必ずつかんでおきたいこと】 ●当期と過年度との比較で重要な増減が生じている場合には、その理由 ●当期と計画(予算)との比較で重要な増減が生じている場合には、その理由 ●資金が不足していないか、不足の兆候がある場合は、いつ、どの程度不足するのか ●必要資金の調達方法
その5 数字という共通言語を正しく使える
会計情報は、経営成績などを同一の尺度で測るためのモノサシです。「おおむね」「だいたい」「たくさん」といった抽象的な言葉は、人によってとらえ方が様々です。たとえば、経営者から予算に対する実績を質問された時に、管理者が80%程度達成している状況を踏まえて「おおむね順調です」と返答としても、経営者は95%程度の達成であるととらえるかもしれません。
しかし、会計情報というモノサシを使えば、「今月の実績は○○万円で、予算対比○○%となっております」という具体的な返答ができます。これで経営者と現状認識を共有でき、理解の齟齬もなくなります。
一方で、経営者もモノサシを上手に使いたいものです。たとえば、「経常利益を上げるために、固定費の削減を進めてほしい」という指示を受けても、受け手側はどの程度削減すればよいのかがわかりません。
しかし、「経理部とも話したが、10%程度の減少が必要だ」という指示であれば、削減の規模や具体策などを検討することができるでしょう。
このように業績改善を進めるうえで、会計情報というモノサシは大変有効です。とりわけ戦略的経理人財には、このモノサシを使うスキルが求められます。
その6 経営者が自社の状況を語れるようサポートできる
中小企業が金融機関から融資を受ける際には、自社の業績などについて質問をされます。
その時に、「会計事務所に任せている」と言ったら、財務経営力は乏しいと判断されるでしょう。
まずは、社内で、できれば経営者自らが数字をもとに自社の業績を語れるようにしなければなりません。もっとも、このための材料は経理責任者・担当者などが用意するわけです。
従来、経理担当者に必要とされるスキルは、各種取引を仕訳する力、それを正しく入力し、会計情報の誤りを発見できる力でした。
しかし、会計データの入力自動化が進むにつれ、「作成する力」から「読み込む力」へ、情報から問題や課題を「発見する力」へと経理責任者・担当者に必要とされるスキルが大きく変わろうとしています。
COLUMN 「うちの会社は赤字なの?」
いろいろな会社を見ていると、社長のタイプは大きく2つに分かれます。自社の数字にあまり興味のない社長の場合。
「今月の売上はすごいですね。20%も上がっていますが、何でこんなに売上が上がったんですか?」
との質問に、
「何でだろうね?」
と社長。
「今月は固定費が通常の月よりも10%ほど高いですが、何かありましたか?」と質問しても、
「何かあったかなぁ?」
と社長。こうした会社の場合、たまに銀行から税理士事務所に電話がかかってきます。
「○○社の今月の試算表について教えてください。社長に聞いたら
数字のことは会計事務所に聞いてくれと言われましたので」
先日、ある社長からうちの事務所に電話がありました。銀行でまさに借入れの申込みをしている最中みたいでした。
社長からの第一声は、
「前期、うちの会社は赤字だったの?」
それもご存知ないですか。融資審査の結果はやはり……。
その一方で、数字の変動についての質問に対して即答してくれる社長もいます。あなたはどちらのタイプでしょうか?
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