この記事は2022年9月12日に「第一生命経済研究所」で公開された「新たな物価高対策のポイント」を一部編集し、転載したものです。
追加の物価高対策を決定
2022年9月9日に政府で「物価・賃金・生活総合対策本部」が開催され、「足元の物価高騰に対する追加策等」を決定した。資源価格の上昇や円安によるコストプッシュインフレに対する財政面での支援を強化する。財源にはコロナ・物価高対策の予備費が充てられる。
現時点で額については公式発表はなされていないが、予備費5兆円のうち3兆円強程度が充てられる見込みのようだ。一連の施策は食料・エネルギー・電気ガス代等の価格抑制を通じて家計や企業の負担軽減につながるが、限界消費/投資性向を加味すると、GDPへの影響という観点では限定的なものにとどまろう。
また、岸田首相は2022年9月8日の記者会見において、2022年10月に総合経済対策を取りまとめることを表明。物価高対応のほか骨太方針で掲げられた官民投資拡大の方策が盛り込まれるとみられ、経済対策としてはこちらが「本丸」となる。裏付け予算である第2次補正予算の議論も今後具体化されていくことになるだろう。
小麦売渡価格据え置きは上昇分の純粋な政府補填ではない
今回の物価高対策の全体像をみると、輸入小麦価格の抑制をはじめとした食料品、燃料油価格の激変緩和事業などのエネルギー、地方創生臨時交付金を通じた電気、ガス、食糧費などの価格抑制などがメニューとして並んでいる。
内容はおおむね前回8月の同対策本部で示されていた通りとなっているが、当初方針からの変更点として、1兆円とされていた地方創生臨時交付金の追加額が0.6兆円に縮小した一方、住民税非課税世帯への5万円給付(0.9兆円)が盛り込まれた点が挙げられる。
政府の小麦売渡価格は通常のルールに従えば、2022年10月からおよそ2割の価格上昇になっていたが、これを据え置く。なお、この措置については、燃料油価格の上昇抑制措置のように値上がり分を政府がそのまま補填するわけではない点に留意。
通常ルールでは、政府による小麦の売渡価格は通常4月と10月の年2回、それぞれ9月第2週~3月第1週、3月第2週~9月第1週の直前半年間の輸入小麦の円建て価格をもとに算定される。今回の措置は10月の価格改定を実施せずに、次期価格改定(2023年4月)において「2022年3月第2週~2023年3月第1週」までの1年間の価格を基準とすることとして、今年10月の改定を見送るものだ。
小麦の国際価格は足もと落ち着きを見せているほか、価格改定時の基準は1年間の平均価格に平準化されることから上昇率は一定程度抑えられることになりそうだが、次回の来年4月の価格改定で今回のウクライナ危機の値上がり分は売渡価格に反映されることになる。
燃料油の価格抑制対策については、年末までの3か月間を同内容で延長され、年明け以降は「原油価格の動向を見極めながら引き続き検討」されることとなった。11月以降の段階的縮小も議論されていたが、現状のまま年末まで延長された形だ。年明け以降に一挙に価格抑制策を取りやめるとは考えにくいことから、年末に再度延長や段階的な縮小が議論されよう。財源として、コロナ原油高予備費の残額からの支出や10月決定の総合経済対策(第2次補正予算)で再度予備費を積み増す可能性もあり得る。
電力、ガス料金の価格抑制は地方創生臨時交付金を通じたものとなり、実際の施策は地方自治体が決定する形になる。対策本部の資料では事業者向け給付金や困窮世帯への支援が例示されているほか、「推奨事業メニュー」として低所得・子育て世帯への支援などが挙げられている。家計向け支援は全世帯にあまねく、というよりは困窮世帯へターゲットを絞った形が想定されているとみられる。