本レポートは三菱UFJ信託銀行で公開された「シリーズ:DX 時代の企業不動産(CRE5.0)『第2回 つながる不動産、デジタル時代の上空利用』」を一部編集し、転載したものです。
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つながる不動産、デジタル時代の上空利用
Andy Dean/stock.adobe.com

• ドローン配送の実用化を前に、航路を登録するプラットフォームが生まれている

• ドローン航路ネットワークにより、不動産に新たな結びつきが生まれ、価値にも影響

• 未活用の資源(空間)から新たなつながりを生む発想は、DXの本質でもある

ソラシェアで作る航路が空中のパイプラインとなって空間をつなげる

ドローンは、デジタル技術の活用により高精度の自動飛行が可能になり、荷物の運搬等に本格的に活用される時代を迎えようとしています。ドローン航路(*1)の登場は、地上に広がる不動産に、空からの新たなつながりをもたらすことになるでしょう。

株式会社トルビズオン(*2)は、土地所有者等の同意を得てドローンが通過できる空間をドローン航路(空路)として構築する、スカイシェアリングサービス「ソラシェア」を開始しました。現在、自治体と組んで実証実験を重ねていますが、民間企業の発案で空の輸送インフラとも言うべき航路が構築されることに、期待が集まっています。

今回のレポートでは、同社の事業がもたらす不動産利用の未来について、同社の増本衛代表取締役 CEO(*2)と早稲田大学大学院の川口有一郎教授(*2)が対談した内容から一部抜粋・再編して、ご紹介します。


*1:ドローンは航空機と異なり、150m 以下の低空を飛行するため、民法207条が規定する土地の所有権が及ぶ範囲との関連で調整が必要との議論がある。
*2 :末尾にプロフィール


ドローン上空飛行のためのプラットフォーム「ソラシェア」

増本代表 「航空法の改正により、2022年は、ドローンを操縦者の目の届かないところで(目視外)、市街地などの上空を(有人地帯)、補助者なしで飛ばすことができるようになります。ドローンを用いた配送などが可能になると期待されています。しかし、事業者が市街地でドローンを飛ばそうとしても、直下の住民が承諾するとは限りません。民法207条には「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ」とあります。」

「そこで「ソラシェア」は、ドローンの飛行空間にスカイドメインと言う住所のようなものを割り当てます。そして、土地所有者からの合意を登録することでドローンの航路をつなげていく仕組みを作り、ビジネス特許を取りました。ドローンを用いた事業は、物流にはじまり、やがて人が乗るドローンも実現するでしょう。高齢者や交通弱者への支援、担い手不足の解消、災害緊急避難に、空が活用される時代が来ると認識しています。」

上空シェアリングサービス「sora:share」
(画像=出所 株式会社トルビズオン)

川口教授 「配送事業者などは、ソラシェアが結んだ航路でドローンを飛ばすための使用料を支払い、それが土地所有者に渡るわけですね」

増本代表「事業者が支払う料金は、通行料と言うよりは、合意情報、リスク情報、保険を合わせたサービスへの対価として頂くことにしています。また、土地所有者に対しては、土地に何らの権利があるように言ってしまうと他の権利とコンフリクトが生じるかもしれないので、ソラシェアでは合意情報のプラットフォームという言い方をしています。地権者等が合意しているという情報を、空路としてドローン事業者に提供する建付けです。」

川口教授 「金融的には、ドローンが上空をわずかな時間通過するのも土地に関する賃貸借だと言うことができ、その観点からプライシングを考えることは、研究としては興味深いテーマです。しかし、ビジネス上では、合意情報というような形で扱う方が、理解を得られやすいのでしょう。」

ドローン航路は利便施設か迷惑施設か

川口教授 「ドローンの航路は利便施設なのでしょうか、迷惑施設なのでしょうか。ドローンに関する英語の文献を読んでも、NIMBY(Not In My Back Yard:総論は賛成だが自分の庭には持ちこまないでくれ)、つまり迷惑施設としての指摘が多く見られます。」

増本代表 「佐賀県多久市での実証実験では、イチゴ農家から県道に向けて畑や川をつたって空路を作り「イチゴの道」と名付けました。他には、「買い物の道」や「薬の道」など、分かりやすいルートを象徴的な名前を付けて設定しています。どこを飛ぶかわかって安心できて、地権者にはインセンティブを払うということで、歓迎されています。」

「しかし、住宅街の方からは反対もありました。庭で休んでいるときに上を飛ばれたらくつろげないというのです。受け止め方は人や属性によって変わると思います。ソラシェアでは、そういう違いも含めてインセンティブの調整が効き、地権者側の合意を形成してゆけると思います。」

川口教授 「ドローンは電線のような距離感で視界に入ってくるのでしょうか?」

増本代表 「いえいえ、おそらく配送ドローンは 50mから100m以上の高さを飛ぶので、電線よりはかなり遠いです。とはいえ、一般に飛行機やヘリは300m以上を飛んでいるのに対し、航空法上ドローンが飛ぶことのできる 150m以下の空域は地上への影響が大きいため、民法の207条の適用がある、つまり私権が及ぶ可能性があります。」

ドローンポートを起点に土地の価値が変わる?

川口教授 「空路は、道路の代替として考えることもできそうです。その場合、幹線道路と枝道路のような違いは出てくるでしょうか。」

増本代表 「空の幹線道路には、河川とか車が少ない町道、市道の上空が使われると想定しています。自治体の収入増になるかも知れませんし、無料開放もあり得ます。ラストワンマイルは、枝の空路として民有地の上空にかかります。また、空路が整備されるとドローンポートができます。河川の付近など、いままで利用方法があまりなかった土地の中から、ドローンポートとして価値が上がるものが出てくる可能性があります。」

「また、従来は鉄道駅+周辺という開発事業が多く行われていましたが、今後ドローンポート+周辺開発という動きが起こるかもしれません。買い物代行の商圏のペイする範囲が2.5km と言われているので、そのぐらいの規模のハブ&スポークが地上を埋め尽くしていくことをイメージしています。」

川口教授 「旅客ドローンの実用化まで考えると、人や物の行きかう場所が、江戸時代のように河川に戻る未来を想像します。その際、東京の日本橋の欄干越しに見えるのは、船ではなく、川面の上空を飛ぶドローンになるのでしょうが」

ドローンが加速する「つながる不動産」

川口教授 「私は、ビジネスにおいて「つながる不動産」の時代がさらに前進したと考えています。つながる不動産については、10年ほど前から、つながる工場というムーブメントがありました。これは、バリューチェーン全体を見渡し、複数の工場をつなぐなど、企画・開発から製造、販売、アフターサービスまでのプロセス全体をエンドツーエンドで見直そうとする取り組みです。」

「そして、最近ではコロナのパンデミックの影響で、インターネットを介して、オフィスと住宅までが日常的につながるようになりました。そして、ドローンが飛行するようになると、不動産のつながり方が敷地の上空まで拡大されることになります。」

つながる不動産
(画像=三菱UFJ信託銀行)

増本代表 「つながる不動産という言葉で連想すると、ソラシェアで作り上げられる空路は、ガスのパイプラインのようなものが空中にできるイメージだと思います。空間をつなげるインフラです。」

川口教授 「ソラシェアは、利用されていなかった空という資源を、革新的に変えようとしています。情報の利用方法を変えるイノベーションによって、地上に新しいネットワークを提供します。これは、個々の企業のDXのヒントにもなると考えます。一般に、企業には内部資源があります。内部資源とは、組織、カルチャー、不動産であったりするわけですが、DX時代は、利用方法にイノベーションが起こり、成功事例になります。」

「利用されていなかったものをイノベティックに使い方を変えるとあらたな形を生む。それは、企業の中にすでにいろいろ入っているはずなので、それに気が付けば変わることができるのです。DXのアイデアは、本来ボトムアップで生まれてくるものだと思います。そのアイデアを大きく育てていくことを、企業経営や国の政策には期待したいです。」

増本代表 「バリューチェーンのどこからでもビジネスをつなぐことができる。ソラシェアの利用でその可能性を感じます。空路は機動的なインフラです。いままでの地上インフラは、鉄道会社などの事業者が主となってそこに配置していく感じでした。しかし、空中では、どんなプレーヤーでもアイデア次第で機動的にビジネスを創造していけます。そのプラットフォームを構築していきたいと思います。」


脚注 *2

株式会社トルビズオン
2014年設立。ドローンを用いた空撮、災害調査やドローン教育事業、コンサルティングを手掛けるほか、ドローンの完全自動航行時代を見据え、ドローンの上空通過に関する土地所有者の合意情報をスカイドメインとして登録してローン航路を構築する、スカイシェアリングサービス「ソラシェア」を開始。「ソラシェア」を活用して佐賀県多久市等とドローン物流の実証実験を重ね、全国での展開を目指している。

株式会社トルビズオン代表取締役 CEO 増本衛氏
九州大学経済学部卒業(MBA)後、日本テレコム(現ソフトバンク)入社。2014年起業。2015年からドローン事業開始。2018年にソラシェアのビジネスモデル特許を取得。

早稲田大学大学院経営管理 研究科 教授 川口有一郎氏
防衛大学校卒業、日本大学工学修士、東京大学工学博士。英国ケンブリッジ大学留学中に新しい実学「不動産金融工学」を創始。2005~2015年、日本不動産金融工学学会会長。近年は、不動産金融工学から「アルゴリズム・ファイナンス(Algorithmic Finance)」および「地理的ファイナンス(Geographical Finance)」への展開を試みている。


大溝 日出夫
三菱UFJ信託銀行 不動産コンサルティング部