リスキリング推進事業の活用事例
厚生労働省の委託事業である「キャリア形成・リスキリング支援センター」では、企業のリスキリング推進サポートを行っている。2024年現在はジョブカードやセルフキャリアドッグの支援がメインではあるが、活用事例を紹介する
株式会社ニデック
株式会社ニデックは、社員間のコミュニケーション活性化と業務効率向上を目的にジョブ・カードを導入した。具体的には、若手社員と管理職を対象に2回のジョブ・カードセミナーとキャリアコンサルティングを実施し、研究開発部門の社員が自己理解を深め、相互に業務や価値観を理解することで、信頼関係の構築とコミュニケーション力の向上に寄与した。
烏山信用金庫
烏山信用金庫は、キャリア形成支援センターから提案されたセルフ・キャリアドックを導入し、中堅社員のマネジメントスキル向上と若手職員の定着率向上を目指した。33名の中堅職員に対してキャリア研修とキャリアコンサルティングを実施し、自己理解を深めるとともに、コミュニケーションスキルを習得させた。これにより、職員のモチベーションが向上し、職場全体のコミュニケーションが活性化している。
リスキリングに取り組む際の3つの注意点
リスキリングの教育プログラムを決めて実行したとしても、その効果を高めるために注意すべき点がある。ここでは、リスキリングに取り組む際の注意点3つについて解説する。
1.リスキリングに取り組みやすい環境を整える
まず、リスキリングに社員全員が不安なく取り組めるように、環境を整えることが肝要だ。
リスキリングの対象となる社員が在籍する部署では、研修などの参加により一時的に人手不足となりがちだ。他の社員の業務負荷が増えたり他部署との連携が取りにくくなったりして、社内では不平不満が出るかもしれない。周囲の理解がない状況では、リスキリング対象者の学びにも悪影響を与える恐れがある。
リスキリングを始める際にはプロジェクトチームを作って制度設計を行い、社内全体に目的や制度内容を共有した上で、全社共通のテーマとして取り組めるような環境整備が必要だ。
2.社員の自己啓発のサポートが重要
リスキリングを行う際には、社員の自主性やモチベーションの維持が欠かせない。特に社員の自主性は重要であり、自分から積極的に学びたいと考えている社員の自己啓発をサポートすることはもちろん、処遇に反映することでモチベーションを向上していけるだろう。
内閣府の『働き方・教育訓練等に関する企業の意識調査』によると、「自己啓発を支援する制度がない」「制度が活用されていない」企業が半数近くに上っており、処遇に関しても4割ほどが反映されていないという現状がある。
リスキリングを機に、社員の自己啓発に対する支援や評価に関する制度を見直すことも重要だ。
3.育成目的に合わせた教育コンテンツの選択
リスキリングの効果を最大化するためには、まず従業員が必要とするスキルや知識を明確にし、適した教育プログラムを提供する必要がある。例えば、デジタル化を推進する企業であれば、データサイエンスやAIに関する講座、リーダーシップやマネジメントスキルの向上を目指す場合には、これらの能力を磨くための研修が必須だ。
教育コンテンツが育成目的と一致していなければ、従業員のスキルアップやモチベーション向上につながりにくくなる。組織全体のパフォーマンス向上には、企業の成長戦略や従業員のキャリア目標を考慮し、最適な教育プログラムの選定が欠かせない。