市況の変化が激しい時には、焦ってつい投資判断を誤りがち。「適切な投資判断」は「正しい情報(知識)」に基づいて行われるべきですが、それこそ、言うは易(やす)く行うは難(かた)し、です。特に「オルタナティブ投資アセット」については、その情報の少なさが仇になります。投資に関する正しい情報、あるいは正確な知識を身につけるにはどうすればよいのでしょうか。まずは普段、みなさんが使っている投資用語の定義を見直すことからはじめてみてはいかがでしょうか。

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米国のFRB(連邦準備制度理事会)がコロナ禍で継続してきた超金融緩和の出口戦略を模索しはじめたのが2021年末頃。その後の急激なインフレに対応するため、金融引き締め政策に舵を切ったことは周知の通りだ。(日本を除いた)世界中の中央銀行がFRBに右へ倣えで金融引き締め政策を断行したことも記憶に新しい。2022年2月にはロシアがウクライナに侵攻、天然ガスや原油の供給逼迫が世界中にさらなるインフレの波を呼び起こした。各国中央銀行の利上げなどと相まって、世界的なリセッション懸念が沸き起こっている。

当然、こうした流れは世界中の金融資産価格に影響し、伝統的な資産クラスとしての株式や債券価格は下落した。インフレヘッジの代表的な資産クラスとされているはずの金や原油、小麦などの穀物価格も、残念ながらリスク分散に役立つような右肩上がりの価格上昇とはなっていない。総じて金融市場はボラタイルな状況が続いている。このような展開になると、伝統的な資産クラスに代わる、代替投資手段としての「オルタナティブ投資戦略」もなかなかうまく機能しなくなる。ポートフォリオのリスク分散のために(オルタナティブ資産の)アロケーション(配分)を増やすという投資判断がしづらくなるからだ。

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第10回 「『暗号資産』はオルタナティブ投資の資産クラスといえるのか?」で取り上げた「暗号資産」について、「現時点では『オルタナティブ投資』という観点から捉えるのは時期尚早だろう」と結論付けたものの、「オルタナティブ投資」としての期待値が高かったのは事実。暗号資産交換業大手FTXトレーディングが破綻するという事態となって、著名なヘッジファンドや投資銀行が悲鳴をあげる事態にまで発展した。こうなると、ますますオルタナティブ投資の選択肢が狭まってしまう。

本来こうした局面においては、デリバティブ取引を駆使した「ヘッジファンド」が、「絶対リターンを追求する」というその投資目標に則って、伝統的な資産クラスに対する「オルタナティブ(代替)」としての大役を担うことになる。しかし、「ヘッジファンドが良好なパフォーマンスをあげている」という話は、いまのところ、少なくとも筆者の耳にはほとんど入ってこない。むしろその逆に、「FTXの破綻に絡んで大きな損失を出した」という報道の方が先に耳に入ってきてしまう。ならば「株式や債券などの伝統的な資産クラスと相関性が低い」と謳う「オルタナティブ投資戦略」は実際にワークしない絵空事でしかないのだろうか。

正直な話、現在のような足許の状況で「いえいえ。今、『こういう投資戦略』を取ったら投資収益があがりますよ」というような一般論化したソリューションを提示することはまず無理だ。もしそういう話を聞いたことがあるとすれば、それは、超人的な先見性の持ち主による奇跡的なアドバイスか、「ほら吹き男爵」の戯言か、2つに1つだろう。「全天候型の投資ソリューション」などというのは存在しないのだ。

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ただ、それは投資のタイムホライズン(時間軸)を極めて短く区切って捉えた場合の話であり、「(投資を中断しない)長期投資の成果は、間違いなく右肩上がりにポジティブな結果となる」ことを歴史は証明してくれている。この場合に重要なことは、「正しい情報の選択」と「適切な投資判断」の存在が必須であるということ、である。親身にアドバイスしてくれる誠実な助言者がそばにいればそれに越したことはない。

現在と同じような相場の局面は、過去に何度も訪れた。記憶が新しいところでは「リーマン・ショック」だ。当時は、すべての「リスク・アセット」、すなわち金融商品が信用収縮によって価格が下落、「結局何に投資しても儲からない」と言われた。確かに「充分にリスク分散されたポートフォリオ」でさえ、定説とは異なり、いったんは何もかもが大きく凹んだ。だが、真っ先にその凹みを取り戻し、その後、膨らんだのはリスク分散されたポートフォリオだった。わたしたちはこのことを忘れるべきではないだろう。