この記事は2022年12月8日に「第一生命経済研究所」で公開された「2回目の為替介入、次のタイミングを占う」を一部編集し、転載したものです。


携帯料金
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携帯電話通信料のデフレーター推計方法見直しでGDPデフレーターが大幅上方修正

本日内閣府より2022年7~9月期のGDP2次速報が公表されたが、本稿で注目したいのは、同時に公表された2021年度の年次推計値である。これによると、2021年度の名目GDP成長率は+2.4%と、従来の+1.3%から1.1%Ptもの上方修正となった。

一方、2021年度の実質GDP成長率は+2.5%と、従来の+2.3%から0.2%Ptの小幅上方修正にとどまる。この差をもたらしたのはGDPデフレータであり、2021年度は前年比▲0.1%と、従来の▲1.0%から+0.9%Ptもの上方修正となっている。年次推計において数値が変わることはよくあるとはいえ、デフレーターがここまで修正されることは通常あり得ない。果たして何が起こっているのか。

答えは「携帯電話通信料のデフレーター推計の見直し」である。図1は、改訂前と後で家計最終消費デフレーターの前年比を比較したものだが、2021年4~6月期から2022年1~3月期にかけて大幅に上方修正されていることが確認できる。

内訳をみるとさらに鮮明であり、サービス消費デフレーターは、改訂前は2021年4~6月期に急低下し、2022年1~3月期まで大幅マイナスを続けていたのに対して、改訂後にはそうした落ち込みは見られない(図2)。この乖離のほとんどは、携帯電話通信料におけるデフレーター推計方法の見直しによるものとみられる。

第一生命経済研究所
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消費者物価指数において、新料金プランを反映したことにより2021年4月に携帯電話通信料が大幅に下落し、CPIに大きな影響を与えていたことは記憶に新しい。

もっとも、肥後(2022)、西村・肥後(2022)等では、こうした携帯電話通信料の大幅下落が実勢を反映できておらず、落ち込み度合いが過大に算出されているのではとの指摘がなされていた。

具体的には、2021年までの消費者物価指数では、新プランに移行した契約数を考慮しない形で指数を算出していため、実際に移行した契約は4分の1程度にとどまるにも関わらず、あたかもすべて移行したかのような形になっていた。その分、実勢と比べて低く出ることになる。

こうした状況を受け、内閣府は今回、携帯電話通信料におけるデフレーター推計方法の見直しを行った。具体的には、「業界情報を活用し、2021年以降、低廉な料金プラン(以下「当該プラン」という。)を導入した大手通信事業者における当該プランの利用者割合を計算し、その割合を同年4月以降のCPIの下落率に乗じることで、同年12月までに当該プランに移行した割合分だけ価格が下落したものとみなして当該デフレーターを計算する。」ことになった。

新プランに移行した割合を考慮した形で2021年4月以降のデフレーターを算出し直したと理解すれば良いだろう。

この変更が反映された結果が前述の図1、図2で見た2021年度の個人消費デフレーター大幅上方修正である。これにより2021年度のGDPデフレーターが0.7~0.8%Pt押し上げられたとみられる。

すなわち、従来は、携帯電話通信料の影響でデフレーターが実勢対比で低く算出されていたことの影響で、実質GDPが実態よりも大きく押し上げられる形で計算されていたものが、今回の改定で是正されたということになる。

冒頭で述べた、名目GDPが大幅上方修正となった一方で、実質GDPが小幅上方修正にとどまったことには、こうした背景がある。より実勢に近い形に修正されたと考えられ、今回の推計方法の見直しは大いに評価できるだろう。

実は、総務省も2022年1月分の消費者物価指数から、携帯電話通信料のモデル式を見直している。具体的には、従来は同一通信事業者での利用パターンにおける最安価格を採用していたものを、2022年1月分以降は、同一通信事業者であっても、格安プランをそれ以外のプランと異なる「ブランド」として扱うことにし、ブランド別に価格を採用することになった。

これにより、格安プランの影響はそのブランドのみにとどまる形になる。従来の方法では格安プランを利用していない契約者も、あたかも格安プランに加入したかのように算出されていたものが是正される形になっており、2021年に生じた事態の再発防止が図られている。

問題なのは、こうした対応が、あくまで2022年1月以降に限られたものになっていることである。すなわち、2021年度については指数の遡及改定は行われておらず、2021年度のCPIは実勢と比べて低いままの状態となっている。

ちなみに、2021年度のCPIコアは前年比+0.1%にとどまるが、携帯電話通信料の寄与は▲1.3%Ptにも達する。前述の個人消費デフレーターの改定度合いを踏まえると、仮に携帯電話通信料を実勢に近付ける形で算出し直せば、2021年度のCPIコアは前年比で+1%以上になっていた可能性もあるだろう。

消費者物価指数では、指数の遡及改定は行わないのが原則とはいえ、こうした状態を放置することには問題があるのではないだろうか。遡及改定のあり方について今後検討を進めることを期待したい。


(参考文献)

  • 肥後雅博(2022)「SNA推計ならびにSNA推計に用いる基礎統計に関する課題」総務省統計委員会・企画部会第1ワーキンググループ説明資料
  • 西村清彦・肥後雅博(2022)「統計改革になお残る課題 物価・GDP推計、一層精緻に」日本経済新聞・経済教室(2022年8月29日)
第一生命経済研究所 シニアエグゼクティブエコノミスト 新家 義貴