本記事は、⼩倉広氏の著書『常勝チームの鬼100則』(明日香出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

信頼,チーム
(画像=itchaznong/stock.adobe.com)

信頼の法則をチームのルールにする

リンゴを手から離すと自然と落下していく万有引力の法則のように、人と人との信頼関係にも自然の法則が働いています。昔も今もそして未来も。北海道でも九州でも。変わらず作用するこの自然の法則をチームのルールとして共有するのは、とても有意義なことなのです。

「信頼の基本法則」。シンプルだがパワフルなこの法則をぜひあなたのチームでも共有していただきたいと思います。

この法則は、大きく分けて次の3つから成り立っています。

1つ目は「相手を大切にする」ということ。

自分の都合を優先するのではなく、目の前の相手の立場を優先する。そうすることで信頼を獲得することができ、逆を行えば信頼を失うというわかりやすい法則です。

2つ目の法則は「自分を指さす」というもの。

問題の原因を自分以外に求め相手を変えることで問題を解決しようとするアプローチを「相手を指さす」と言います。そしてその逆である、問題の原因を自分の中に求め自分を変えることで問題を解決しようとするアプローチを「自分を指さす」と言います。「自分を指さす」人は相手から信頼され、「相手を指さす」人は相手から信頼を失っていくのです。

3つ目の法則は「誠実である」というもの。

嘘偽りがなく私利私欲がない状態が「誠実である」ということ。言行一致で嘘をつかない。約束を守り自慢やひけらかしをしない人は相手から信頼され、その逆ばかりを行っている人は信頼を失うというものです。

「信頼の基本法則」の内容は聞けば誰もが納得し、そんなことは知っているよ、というものばかり。しかし、言うとやるとは大違い。

単純だが行うのは難しいこの法則を信じて行動していけば、メンバーから信頼されるリーダーに近づくことができるでしょう。そして、この法則を共有することで強いチームをつくることができます。

あなたのチームでもこれを合言葉にしてはいかがでしょうか。

信頼の法則(1) 相手を大切にする

チームに百人メンバーがいれば百人百様、全員違う。それが価値観というものの正体です。なぜならば生まれも育ちも全員それぞれまったく違うから。価値観は違って当然。一緒のわけがありません。

そして大切なのは、価値観にたった1つの正解はない、ということです。リーダーの価値観が正しくメンバーのそれが間違っているわけではない。価値観はすべて正しいのです。

だからこそ、リーダーはメンバーひとりひとりの異なる価値観を大切にしなければなりません。「俺流が正しいんだ」とばかりに自分の価値観をメンバーへ押しつける、ジャイアンのようなリーダーでは誰もついてきてはくれません。

同様にリーダーだけでなくメンバー同士も、互いが互いの価値観を大切に尊重する。そうすればメンバー間の信頼関係は飛躍的に高まることでしょう。

相手を大切にするためには、相手そのものを大切にするだけでは足りません。相手が大切にしているものを大切にするのです。

たとえば、夫が妻を大切にするだけでは足りません。妻が大切にしている義理のご両親や妻の価値観、趣味などを大切にするのです。

簡単なことではありませんがそれが相手を大切にする、ということ。

このような話を聴いたことがあります。

ある父親が長期休暇をとって小学生の息子と2人旅に出ました。そして、特定のプロ野球チームを追いかけて全国を旅しながら試合を観戦し続けたというのです。

たまたまスタジアムで隣に座った人が父親に言いました。「あなたはよほど野球が好きなのですね」と。

すると父親はこう言いました。「いいえ、私はまったく野球に興味がありません。息子が野球が大好きなのです」と。

相手の大切を大切にする、とはこのことです。

親子でするのも難しいこの行い。しかし、それを会社で実現できたなら、リーダーとメンバーの信頼関係は変わることでしょう。それがチーム運営の土台となっていくのです。

信頼の法則(2) 自分を指さす

テレビドラマにもなった『下町ロケット』(池井戸 潤・小学館)のモデルになったのが、従業員わずか18名の町工場・植松電機です。同社は世界に1つしかない技術でロケットづくりに貢献し、高い技術力を誇ります。

その社長である植松努氏はボランティアでロケット教室を開催し、年間1万人にのぼる子どもたちへ夢を与えている、ということです。教室が終わると子どもたちが植松社長へ感謝の言葉を伝えます。「教えてくれてありがとうございました!」そして必ずこう言うのです。「あれれ? そういえば何も教えてもらっていないぞ……」

植松社長は答えます。「みんな、自分の力でロケットをつくれたんだよ!」

種明かしをするならば、これ、実は植松社長は子どもたちに気づかれないようにこっそりと教えている、気づきを与えるファシリテーションをしているのです。

ティーチングで教えられた答えを人はすぐに忘れます。しかし、自分で見つけた「気づき」は生涯忘れません。それを知っているからこそ、植松社長はあえて教えない振りをして気づきへと誘導するのです。これこそが一流の教育だ、と私は思いました。

一方で私たちはどうでしょうか。「私の言った通りやればうまくいくだろう!」とティーチングで教え込んでいないでしょうか?

それは三流の教育でしかありません。もしも「何度教えても覚えてくれない」と嘆きたくなるメンバーがいたとしたならば、メンバーを責めるのではなく自分の教え方を振り返ってみる。それが「自分を指さす」ということなのです。

相手を変えることはできない。だが、自分は変わることができる。

過去を変えることはできない。だが、未来は変えられる。

だから私たちは過去を振り返らず、相手のせいにせず、自分ができるこれからの未来だけに100%集中することが大切なのです。そういう人が相手から信頼を受ける。逆を行う人は信頼を失うのです。

全員が「相手を指さしている」チームと、全員が「自分を指さしている」チーム。どちらのチームが強いでしょうか? あなたにはもうおわかりですね。

信頼の法則(3) 誠実である

嘘をつかない、約束を守る、言行を一致させる、謙虚である、利己ではなく利他。

私たちが定義する「誠実」の内容です。

「そんなこと言われなくてもわかっているよ、あたりまえだろう」そう話すリーダーたちの多くはこの大切さに気づいていません。

「自分はできていますよ」自信満々に話すリーダーに1つ1つ事例を話していく度、その表情が崩れ、急に目が泳ぎ始めるのです。つまり「食事などのささいな約束を守っているか?」「経理への提出期限を守っているか?」「同僚へ仕事の大変さを不幸自慢していないか?」「遅刻するメンバーを叱ったが自分も会議に遅刻してしまっていないか?」などなど。

もしもあなたが相手から誠実でないという判断を下されたなら、あなたはその人から生理的に拒絶され、受け付けてもらえなくなるのです。

しかも、これらの内容は人間の根源に触れる部分であるがゆえに、気になることがあったとしても誰も指摘をしてくれないのです。これは恐ろしいことです。もしかしたらあなたはすでにチームのメンバーから生理的に拒絶されているかもしれないのです。

ノブレスオブリージュ」という言葉があります。

日本語で「高貴なるものの義務」と訳されるこの言葉は、身分が高い人ほど一般人よりも厳しく高い責任と義務を負わなければならない、という意味です。1人の部下を持つ上司は1人の倫理感にOKをもらえばいい。しかし100人の部下を持つ上司は、1人ずつ異なる倫理感の100人全員からOKをもらわなければならない。つまり、あらゆる人に受け容れられるだけのとてつもなく高い倫理感が求められるのです。

倫理感に代表される「誠実」であることは、リーダーだけに限ったことではありません。

チームのメンバーひとりひとりがこの基本的だが大切な事柄を守ろうと努力し続けることは、強いチームをつくる上で最も大切なことかもしれません。

あなたのチームのメンバーは「誠実」であることに自信がありますか?

=常勝チームの鬼100則
⼩倉広
公認心理師
”経営に心理学を” 株式会社小倉広事務所 代表取締役

青山学院大学卒業後、新卒でリクルート入社。就職情報誌の事業企画、商品企画、営業企画、編集部、組織人事コンサルティング室課長など主に企画畑で12年過ごす。
その後、現東証プライム上場のソースネクスト常務取締役、コンサルティング会社代表取締役などを経て現職。自らの失敗を赤裸々に語る体験談と心理学の知見に裏打ちされた論理的内容、さらにはオンライン研修を知り尽くした飽きさせない腹落ちのカリキュラムで人気を博し、年300回を越える講演、研修に登壇。「一年先まで予約が埋まっている」講師として依頼が絶えない。
また著作46冊、累計発行部数100万部超のビジネス書作家であり、同時に心理カウンセラー・セラピストとして経営者、管理職、個人事業主を中心に個人面接を行っている。

東京公認心理師協会正会員、日本アドラー心理学会正会員、日本ゲシュタルト療法学会会員

おもな著書に『コーチングよりも大切な カウンセリングの技術』(日本経済新聞出版)、『アルフレッド・アドラー 人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)、『もしアドラーが上司だったら』(プレジデント社)、『あたりまえだけどなかなかできない 33歳からのルール』(明日香出版社)。

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