本記事は、坂上雅道氏の著書『世界最先端の研究が教える すごい脳科学』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
思春期にうつ病になったり、薬物に依存したりするのは脳のせい?
身体的にも最も健康で、体力やスピード、記憶力も抜群で、頭の回転が速くなる思春期。しかし、その一方でうつ病になったり、薬物の乱用やアルコールへの依存、摂食障害や自殺をしたりするなど、ほかの年齢に比べてそうした問題が多くなる時期でもあります。
このような問題に対して、近年の神経科学ではニューロンとそれをつなぐシナプスに問題があるのではないかと考えられています。実は1歳から3歳の間に、脳の神経伝達物質を流すシナプスの統廃合が大規模で行われます。それと同じことが実は思春期にも起こっていることがわかったのです。
しかしながら、脳の各領域のシナプスの統廃合はすべての脳の部位で行われるのではありません。シナプスの統廃合は感情や報酬に関する領域、新奇性や脅威、仲間の期待などに敏感に反応する領域が集まった
なお、16歳以降の成人の脳の中では、ニューロン同士のつながりは、広範囲に広がっていても、脳のさまざまなところで異なっています。しかし、10歳から16歳の思春期の脳のニューロンはそのような広がりは見られず、偏って成長していることがわかりました。
例えば、「中二病」という、思春期の自分の世界に没頭してしまう言動や妄想を表すような言葉があります。思春期時代に考えていたことや言動などを思い出して、思わず赤面してしまう人も多いのではないでしょうか? 自分勝手な妄想にとらわれる一方で、そういう自分を冷静に判断できないのも、情動に関する部位がアンバランスに成長するためではないかと考えられます。
また、男子よりも女子のほうが、こうした思春期の脳の変化が1年から1年半早いとされているのです。女子の仲間意識がこの年齢で急に高まるのは、脳の急激な成長によるものとといっても過言ではありません。
死の直前に見る「走馬灯」は本当に存在する?
「人は死ぬときに、これまで生きてきた人生のパノラマである走馬灯を見ることがある」そんな話を聞いたことがないでしょうか? 臨死体験については、さまざまな人がその体験の状況を証言しています。しかし、そのしくみは科学的に明らかになっていませんでした。
ただし、マウスを使った動物実験では、心肺が停止し、脳の血流が停止した後、脳活動が活発になり、特に脳が夢を見たり、記憶を再生したり、集中力を上げたりする時に生み出されるガンマ波といわれる脳波が出ていることがわかっています。
ところが、近年、人間でも同じような反応があることがわかりました。
トロント大学のゼマール博士らの研究チームは、2016年、87歳のてんかん患者の脳波を調べていました。ところが、その患者はまもなく心臓発作を起こして亡くなってしまったのです。こうして、図らずも死ぬ瞬間の人間の脳波が記録されてしまいました。
心肺が停止し、脳への血流がなくなった後、デルタ、ベータ、シータ、アルファの脳波は、すべて減少しました。しかし、マウスの実験の時と同じように、夢を見ているときや記憶を呼び起こしているときと同じガンマ波は増えていたのです。
臨死状態にある人が、実際に夢で何を見ているのかは確認しようがありません。しかし、私たちは、死ぬ直前にその人が体験したり、経験したりした映像を見ていることは確かなようです。
そうした映像を見ることができるのは、偉大なる神様のなせる業なのか、それとも脳の単なる反応なのか、現在はよくわかっていません。論文を発表したゼマール博士によると、悪い記憶よりも良い記憶を再生しているのではないかと予測しています。
しかし、単純に死ぬのではなくて、人生の終わりに素晴らしい映像が見られるようであれば、死ぬのも怖くなくなるかもしれませんね。