本記事は、坂上雅道氏の著書『世界最先端の研究が教える すごい脳科学』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
思春期に脳は二度目の生まれ変わりをする
皆さんは、脳がどのように成長するのか知っていますか? 多くの人は、生まれてから20歳ぐらいまではニューロンがどんどん増殖し、ある一定の年齢になったら、徐々に減っていくだろうというイメージを抱いている人も少なくないかもしれません。
実はそうではなく、ニューロンは生まれてから、数が増えることはないと考えられているのです(ただし、リザーブ細胞といってニューロンになり損ねた細胞が、新たにニューロンへと成長したことで増えるという論文もあります)。
脳の機能は、ニューロンの多さではなく、ニューロンのつなぎ目を増やす「シナプス」によって生み出されています。しかし、そのシナプスも無限に増えるというわけではありません。人間の場合3歳までに、不要なシナプスが減少する「シナプスの刈り込み」が行われるのです。
ニューロンのシナプスは最初に大きく広く成長して、後で過剰生産された広がりを減らしていくという戦略を取っています。このほうが、周囲の環境の変化に敏感に対応できるためだと
考えられています。近年の研究では、刈り込みで残されるシナプスは、一気に減るわけではなく、段階的に減少することがわかりました。第1段階では、神経伝達物質をより多く放出できるシナプスを残し、第2段階では、神経伝達物質をより早く放出できるシナプスを残しているようです。この刈り込みは生後8カ月から10歳の間で起きるとされていましたが思春期でも起きるのです。
ニューロンにはシナプス可塑性という機能があり、さまざまな環境に合わせて、ニューロン同士のつなぎ目のシナプスがより効率的につながることを繰り返していくのです。
なお、脳が重いと頭がいいなんてことも聞いたことがあるかもしれません。脳の重さは頭のよさとは全く関係がありません。
ヒトが生まれたときの脳の大きさは平均すると約400グラム。しかし、1歳になると倍の800グラムまで成長します。4〜5歳のころには大人の脳の約80%に到達し、重さは約1,200グラムにもなります。
脳の重さが増えるのは、ニューロンを支えるグリア細胞が増えるためです。ニューロンの数が増えることはなく、軸索や
思春期にうつ病になったり、薬物に依存したりするのは脳のせい?
身体的にも最も健康で、体力やスピード、記憶力も抜群で、頭の回転が速くなる思春期。しかし、その一方でうつ病になったり、薬物の乱用やアルコールへの依存、摂食障害や自殺をしたりするなど、ほかの年齢に比べてそうした問題が多くなる時期でもあります。
このような問題に対して、近年の神経科学ではニューロンとそれをつなぐシナプスに問題があるのではないかと考えられています。実は1歳から3歳の間に、脳の神経伝達物質を流すシナプスの統廃合が大規模で行われます。それと同じことが実は思春期にも起こっていることがわかったのです。
しかしながら、脳の各領域のシナプスの統廃合はすべての脳の部位で行われるのではありません。シナプスの統廃合は感情や報酬に関する領域、新奇性や脅威、仲間の期待などに敏感に反応する領域が集まった
なお、16歳以降の成人の脳の中では、ニューロン同士のつながりは、広範囲に広がっていても、脳のさまざまなところで異なっています。しかし、10歳から16歳の思春期の脳のニューロンはそのような広がりは見られず、偏って成長していることがわかりました。
例えば、「中二病」という、思春期の自分の世界に没頭してしまう言動や妄想を表すような言葉があります。思春期時代に考えていたことや言動などを思い出して、思わず赤面してしまう人も多いのではないでしょうか? 自分勝手な妄想にとらわれる一方で、そういう自分を冷静に判断できないのも、情動に関する部位がアンバランスに成長するためではないかと考えられます。
また、男子よりも女子のほうが、こうした思春期の脳の変化が1年から1年半早いとされているのです。女子の仲間意識がこの年齢で急に高まるのは、脳の急激な成長によるものとといっても過言ではありません。