本記事は、坂上雅道氏の著書『世界最先端の研究が教える すごい脳科学』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
天才アインシュタインの脳と私たちの脳は何が違うのか?
天才といわれている人の脳と一般の人の脳は何が違うのでしょうか? アインシュタインの脳と一般の人の脳の違いを研究した論文があります。
1980年にカリフォルニア大学バークレー校のマリアン・ダイヤモンド博士が、アインシュタインを検死したトーマス・ハーヴェイ医師から、アインシュタインの脳の大脳皮質の切片を受け取って、11人の男性の大脳皮質のサンプルと比較検討をしました。
ニューロンとグリア細胞(アストロサイトとオリゴデンドロサイト)を分けて染色し、比較し、顕微鏡でその数を確かめました。
グリア細胞とは、神経系を作り上げている細胞のうち、ニューロン(神経細胞)ではない細胞の総称です。ニューロンを支え、栄養を供給したり、ニューロンの信号伝達に関与したりする重要な細胞です。解析した結果、アインシュタインの脳のニューロンとグリア細胞の比率は、比較した一般の男性の脳と比べて、圧倒的にグリア細胞が多かったことがわかりました。
一般的にはニューロンとグリア細胞の比率は、ニューロンが少なく、グリア細胞は多いものです。アインシュタインの脳では一般の人と比べグリア細胞はさらに多かったことがいえます。
ニューロンのネットワークがシナプスを介して情報伝達をしているとお話ししましたが、実はこの情報伝達効率は一定ではなく、状況に応じてしなやかに変化することが知られています。このことを「シナプス
グリア細胞がシナプス可塑性を進めることで、より脳の情報伝達の効率化を高めているのです。
理化学研究所脳科学総合センターの神経グリア回路研究の高田則雄博士らの研究チームでは、記憶や学習の能力にグリア細胞が直接、影響を与えていることを発見しました。この研究では、生きたままのマウスの大脳皮質にシナプス
つまり、アインシュタインの脳では通常の人よりもアストロサイトが多かったということは、脳全体でシナプス可塑性が進んでいた可能性が高いということです。
アルベルト・アインシュタインは相対性理論を構築した天才的な物理学者です。しかし、アインシュタインの最もすごいところは、それまで一般的に信じられていた古い物理学の考え方を一新して、全く新しい方向から物理学の理論体系を作ったことです。しかも、天才的にそのことを発想したわけではありません。周囲の常識に惑わされることなく、常に最新の科学の情報を自分で分析して、自分の理論を補強していったという姿勢がすごいのです。
私たちは、日常的に習慣に基づいて行動したり、考えたりする癖がついています。このため、既存の理論体系やしくみの中から新しいものを探すことが苦手とされています。アインシュタインのような脳になるためには、脳の中でグリア細胞を刺激して、シナプス可塑性を進めなければいけません。そのためには、常識を疑うではありませんが、既存の理論や枠にとらわれず、自由に発想していくことが大切だということがわかります。
ちなみに、シナプス