本記事は、坂上雅道氏の著書『世界最先端の研究が教える すごい脳科学』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

リスク回避
(画像=Gajus/stock.adobe.com)

昼寝をすると認知症の機能低下リスクが減る?

よく寝る子は育つといいますが、子どもだけでなく、大人も寝ることで認知機能の低下を防ぐことができるという研究成果があります。

それが、新潟大学大学院医歯学総合研究科環境予防医学分野の中村和利博士らの研究です。昼寝の習慣を持っている人は、認知症のリスクを低下させる研究はありましたが、横断研究がほとんどで、昼寝の習慣が本当に認知症のリスク低下と関係があるのかわかりませんでした。この研究では、同じ調査対象者を5年間追跡する横断研究の結果になります。

この研究では、新潟県小千谷市の3地域に住む介護保険を利用していない65歳以上の高齢者のうち、認知機能が正常と判定された509人(95.1%)を5年間追跡した研究です。追跡調査には371人(72.9%)が参加しました。昼寝の時間は男性より女性の方が有意に短かった。昼寝をしない人の割合は男性32.7%、女性43.9%、30分未満の昼寝をする人は同順に22.0%、27.4%、30分以上1時間未満は24.5%、15.2%、1時間以上は20.8%、13.5%です。

5年後の追跡調査で106人(27.3%)が、「認知機能が低下した」と判定されました。認知機能に影響を与える原因で調整すると、30分未満の昼寝の習慣がある人は認知機能低下リスクが有意に低いことが明らかになりました

ただし昼寝の習慣がない人と比較して、30分未満の昼寝の習慣がある人の認知機能低下のリスクは半分以下でしたが、30分以上になると、昼寝の習慣がない人と認知機能低下のリスクは変わりませんでした。

昼寝と就寝の時間については、特に関連性が見られませんでしたが、就寝時間が遅くなることで、昼寝の認知機能低下リスク効果はあまりないようでした。

短時間の昼寝がなぜ、認知症のリスクを低下させるのかについては、原因はわかっていませんが、睡眠中にアルツハイマー病の原因の一つである脳内のアミロイドβが脳内リンパ系を介して取り除かれるという報告が増えていることから、アミロイドβの除去と短時間の睡眠が影響しているのではないかといわれています。

しかしながら、寝過ぎてしまうと意味がなくなってしまいます。くれぐれも、寝過ぎないように注意しましょう。

=世界最先端の研究が教える すごい脳科学
坂上雅道
玉川大学脳科学研究所教授。玉川井大学脳科学研究所所長。1985年東京大学文学部心理学科卒業。専門研究領域は思考と創造の神経メカニズムの解明。2000年順天堂大学医学部講師、2002年玉川大学学術研究所教授。2007年より玉川大学脳科学研究所教授。2021年同研究所所長に就任。

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