本記事は、坂上雅道氏の著書『世界最先端の研究が教える すごい脳科学』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
他人の不幸は蜜の味は、脳内でどう起こっているのか?
「いいなあ、あんなに大きな家に住めて」
「あんなにお金持ちだったら、どんなに安心か!」
金銭的なコンプレックスを持っている人は、相手をうらやんでしまうかもしれませんね。
恋愛でも、他人を羨むことでも、嫉妬の感情は同じ脳の部位である
ではここで、唐突ですが質問です。もし、あなたがうらやましいと思っている相手が、うらやましい存在でなくなってしまったら、あなたはどのような反応を示しますか?
前述した発言でいえば、次のようなことが起きたらあなたはどう感じるでしょうか?
「大きな家に住んでいる人が大火事に見舞われてしまった」
「大きな家に住んでいる人が、破産して自宅を取り上げられてしまった」
「お金持ちの人が株式で大損してしまった」
「お金持ちの人が破産してしまった」
などです。金銭的なコンプレックスを持っている人は、きっと、すっきりした感情を抱くと思います。まさに、他人の不幸は蜜の味なのです。ねたみと痛みは脳内では同じ部位が反応するので、痛みが消えたような感覚になるのでしょう。
では、このようなねたみの感情から、他人の不幸を見て快適な感情に移り変わる脳のしくみは、どのようなメカニズムになっているのでしょうか?
放射線医学総合研究所分子イメージング研究センターの高橋秀彦博士らの研究チームでは、人がねたみを持つ感情の脳内メカニズムをfMRIで明らかにしています。
実験では健康な大学生19人に、あるシナリオを読んでもらいます。
シナリオには、主人公と3人の人物が登場します。主人公は男性で平均的な学力で、普通の会社員の家庭に生まれ、異性からの人気もそこそこの人です。
一方、登場人物Aは、主人公と同じ男子大学生ですが、主人公と進路も趣味も人生の目標も同じです。ところが、学力が高く、異性に人気があり、さらに実家は大金持ちです。もちろん、乗っている車は外国の高級車です。
登場人物Bは女子大学生。主人公と進路や人生の目標、趣味は異なります。才女でお金持ち、さらに美女であるため、男性からモテる人です。所有する車は外国の高級車です。
登場人物Cは女子大学生。主人公と進路や人生の目標、趣味は異なります。しかし、主人公と同じ程度の経済力と学力を持ち、特にモテるわけではなく、恋愛状況も普通の人です。
まず、実験協力者が登場人物の設定を読んだときに、登場人物A、B、Cに対して、どのように感じるのかをfMRIで計測をしました。その後、6段階で登場人物に感じるねたみの強さを評価してもらいました。1が「全く感じない」で、6が「非常に強く感じる」という評価です。
A→B→Cの順番でねたみの度合いが強いことがわかりました。AとBについては、前部帯状回に大きな反応がありました。この部位は痛みを処理する部位でもあります。またねたみの強い実験協力者ほど、帯状回の前のほうの活動が活発になっていることがわかりました。
次に男性で実家が金持ちで、頭も良くて、異性にもモテて、高級な車に乗っている登場人物Aと、女性で普通の学力と経済力を持っている登場人物Cが、自動車にトラブルが発生したり、恋人が浮気するなどの不幸が起こるシナリオを見て、脳がどのように反応するのかをfMRIで計測しました。すると、登場人物Aに対しては、うれしい気持ちがあらわれました。
人を罰したいという気持ちは
それはつまり、嫉妬心の強い人ほど、処罰感情も強いということがいえるのです。