本記事は、坂上雅道氏の著書『世界最先端の研究が教える すごい脳科学』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

思考
(画像=Tierney/stock.adobe.com)

他人の不幸は蜜の味は、脳内でどう起こっているのか?

「いいなあ、あんなに大きな家に住めて」
「あんなにお金持ちだったら、どんなに安心か!」

金銭的なコンプレックスを持っている人は、相手をうらやんでしまうかもしれませんね。

恋愛でも、他人を羨むことでも、嫉妬の感情は同じ脳の部位である前帯状皮質ぜんたいじようひしつで生み出されます。この部分は体の痛みの感覚を扱う部分でもあり、心の痛みと体の痛みを感じる部分が同じところで生まれていることがわかっています。私たちは嫉妬しているとき、体に大怪我をしているような痛みをずっと感じているので、重い気分になってしまったり、憂鬱ゆううつな気分になってしまったりするのです。

ではここで、唐突ですが質問です。もし、あなたがうらやましいと思っている相手が、うらやましい存在でなくなってしまったら、あなたはどのような反応を示しますか?

前述した発言でいえば、次のようなことが起きたらあなたはどう感じるでしょうか?

「大きな家に住んでいる人が大火事に見舞われてしまった」
「大きな家に住んでいる人が、破産して自宅を取り上げられてしまった」
「お金持ちの人が株式で大損してしまった」
「お金持ちの人が破産してしまった」

などです。金銭的なコンプレックスを持っている人は、きっと、すっきりした感情を抱くと思います。まさに、他人の不幸は蜜の味なのです。ねたみと痛みは脳内では同じ部位が反応するので、痛みが消えたような感覚になるのでしょう。

では、このようなねたみの感情から、他人の不幸を見て快適な感情に移り変わる脳のしくみは、どのようなメカニズムになっているのでしょうか?

放射線医学総合研究所分子イメージング研究センターの高橋秀彦博士らの研究チームでは、人がねたみを持つ感情の脳内メカニズムをfMRIで明らかにしています。

実験では健康な大学生19人に、あるシナリオを読んでもらいます。

シナリオには、主人公と3人の人物が登場します。主人公は男性で平均的な学力で、普通の会社員の家庭に生まれ、異性からの人気もそこそこの人です。

一方、登場人物Aは、主人公と同じ男子大学生ですが、主人公と進路も趣味も人生の目標も同じです。ところが、学力が高く、異性に人気があり、さらに実家は大金持ちです。もちろん、乗っている車は外国の高級車です。

登場人物Bは女子大学生。主人公と進路や人生の目標、趣味は異なります。才女でお金持ち、さらに美女であるため、男性からモテる人です。所有する車は外国の高級車です。

登場人物Cは女子大学生。主人公と進路や人生の目標、趣味は異なります。しかし、主人公と同じ程度の経済力と学力を持ち、特にモテるわけではなく、恋愛状況も普通の人です。

まず、実験協力者が登場人物の設定を読んだときに、登場人物A、B、Cに対して、どのように感じるのかをfMRIで計測をしました。その後、6段階で登場人物に感じるねたみの強さを評価してもらいました。1が「全く感じない」で、6が「非常に強く感じる」という評価です。

世界最先端の研究が教える すごい脳科学
(画像=世界最先端の研究が教える すごい脳科学)

A→B→Cの順番でねたみの度合いが強いことがわかりました。AとBについては、前部帯状回に大きな反応がありました。この部位は痛みを処理する部位でもあります。またねたみの強い実験協力者ほど、帯状回の前のほうの活動が活発になっていることがわかりました。

次に男性で実家が金持ちで、頭も良くて、異性にもモテて、高級な車に乗っている登場人物Aと、女性で普通の学力と経済力を持っている登場人物Cが、自動車にトラブルが発生したり、恋人が浮気するなどの不幸が起こるシナリオを見て、脳がどのように反応するのかをfMRIで計測しました。すると、登場人物Aに対しては、うれしい気持ちがあらわれました。

人を罰したいという気持ちは線条体せんじょうたいにある尾状核びじょうかくという部位で感じると考えられていますが、実験でも線条体が活発に活動しました。しかも、線条体せんじょうたいがより活発に活動した人ほど、他人の不幸をうれしいと感じた人なのです。ねたみが強い人ほど帯状回の前のほうの活動が大きく、さらに線条体せんじょうたいの活動も活発であるということがわかりました。

それはつまり、嫉妬心の強い人ほど、処罰感情も強いということがいえるのです。

=世界最先端の研究が教える すごい脳科学
坂上雅道
玉川大学脳科学研究所教授。玉川井大学脳科学研究所所長。1985年東京大学文学部心理学科卒業。専門研究領域は思考と創造の神経メカニズムの解明。2000年順天堂大学医学部講師、2002年玉川大学学術研究所教授。2007年より玉川大学脳科学研究所教授。2021年同研究所所長に就任。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)