本記事は、茂木健一郎氏の著書『脳は若返る』(リベラル社)の中から一部を抜粋・編集しています。
ソーシャルな刺激が脳をいつまでも若々しく保つ
アクティブシニアになる必須条件――。
その重要なキーワードのひとつが、「ソーシャル・コネクション」というものです。ソーシャル・コネクションとは、社会や他者とのつながりを持つこと。私たちの脳はいくつになってもソーシャルな刺激があることで活性化していき、いつまでも若々しさを保つことができるからです。
ところが、高齢化がますます進展する現代社会では、そうしたソーシャル・コネクションに対する問題を抱えている人も少なくないようです。
いくら現在、心身ともに健康なシニアであっても、社会的な孤立や他者とのつながりが極端に少なくなっていけば、脳が衰えて老化が進むのはもちろん、身体機能の低下や抑うつなどのリスクが高くなるという研究結果が出ており、シニア層の社会的孤立をいかに防ぐかが課題として提起されています。
内閣府が発表した「高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査結果」(令和3年度)によれば、過去1年以内に地域の社会活動に参加した高齢者は50.8%。その内訳は「健康・スポーツ」(26.5%)がもっとも多く、次いで「趣味」(14.5%)、「地域行事」(12.8%)、「生活環境改善」(9.8%)が続いています。
その一方で、「活動または参加したものはない」という回答者は41.7%にのぼりました。つまり、10人に4人はソーシャル・コネクションが充実していないということです。近年では、シニア層の町内会や自治会への参加率が低下し、地域コミュニティから孤立するシニアが増えてきています。特に定年退職をした後は、社会との接点がなくなり孤立するケースも珍しくありません。
健康に問題がある、生活が困窮しているなどの理由で地域コミュニティや社会との接触もほとんどなくなってしまっているようです。
皆さんは、「欲求5段階説」をご存じでしょうか。
欲求5段階説とは、人間性心理学の生みの親ともいわれているアメリカの心理学者アブラハム・マズローが「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生きものである」と仮定し、人間の欲求を5段階で表したものです。マズローは、人間には5段階の欲求があり、低次の欲求が満たされると、もうひとつ上の欲求を満たそうとする心理的行動を提唱しています。
第1段階は生きていくために必要な基本的かつ本能的な生理的欲求、第2段階は安心安全な暮らしへの安全欲求、そして第3段階は社会や他者とつながり、受け入れられたいという社会的欲求が位置付けられています。
第4段階に承認欲求、第5段階に自己実現欲求と続くわけですが、私たちがたとえ何歳になっても社会や人とのつながりを求めるのは、人間として自然な欲求なのです。
このように欲求5段階説でも示されているだけでなく、脳科学的な視点からも、脳をいつまでも若々しく保つためにはソーシャルな刺激を持つことが大事になってきます。人と会話をしたり、身体や手先を動かすことで脳の活性化につながるからです。
日本は今後も高齢化がさらに進行していきます。
もし、就労やボランティア活動、生涯学習などの社会活動への参加はハードルが高いということであれば、近所の老人クラブや地域の少数コミュニティへの参加活動を通じて生きがいを見つけてみるのもいいかもしれません。