本記事は、茂木健一郎氏の著書『脳は若返る』(リベラル社)の中から一部を抜粋・編集しています。

孤立
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

社会的孤立は脳を老化させる

日本は、先進国の中でも「社会的孤立」状態にある人の割合が高い国だといわれています。

社会的孤立という言葉について明確な定義はありませんが、一般的に家族や社会との関係が希薄で、他者との接触がほとんどない孤独な状態のことを指します。たとえ同居する家族がいても、家族との交流が乏しければ社会的孤立に陥ってしまう場合もあります。

人間の脳というのは、人との会話で神経細胞同士のやりとりが盛んになり、活性化していきます。

若返る
(画像=脳は若返る)

その一方で、会話がなく長期間過ごしていると、使われていない脳の神経細胞が少しずつ衰えてしまいます。つまり、社会的に孤立して、他人との交流がない孤独状態になると脳が老化し、認知症のリスクが高まってしまうのです。

この社会的孤立によるリスクについて、高い数字を挙げる研究機関があります。

スウェーデンのカロリンスカ研究所が、ストックホルム在住の75歳以上の高齢者1,203人を3年間追跡した研究があります。

この研究では、家族や友達が多い人に比べ、他人との交流が乏しい人は認知症の発症率がおよそ8倍になるという結果が出たのです。

社会的な接触の度合いを4段階に分けて、最大のグループと最小のグループを比較した結果、こうした大きな数字が出てきました。いずれにしても、社会的な孤立は認知症の大きなリスクであることは間違いありません。

それに、こうした社会的孤立は、認知症のリスクだけではなく「クオリティ・オブ・ライフ」(単に生きるだけではなく充実した生活を送ること)を下げてしまうのです。

友達からの誘いはなるべく断らない

「人付き合いは面倒くさい」
「でも、断ったら断ったでストレスを感じる」

かつては社交的だったという方でも、歳を重ねるにつれてこのような気持ちになってしまうことが多いようです。たしかに、シニア層は環境の変化から、自然と他者との付き合いや交流が少なくなってしまうことがあります。

また近年は、コロナ禍によってリモートワークや巣ごもり生活が一般化したため、意識しないと人付き合いの機会はさらに減っていってしまいます。

でも、シニアにとって人と関わりがある生活を送ることは、脳科学的にも極めて重要なことなのです。人付き合いが極端に少なくなると認知症リスクが上昇することは、先に述べたとおりですが、いつまでも若々しい脳を手に入れ、セカンドライフを楽しむためにも、人付き合いを増やすことが肝要です。

というのも、人付き合いが不足してしまうひとつの要因として「意欲の低下」が挙げられるからです。この意欲の低下は、明確な要因がひとつではない場合も多く、さまざまな要因が複雑に絡み合っていることが多いといえます。

ただ、はっきりいえることは、脳の前頭葉による認知機能の低下を自覚して気持ちが落ち込むことで、人と会うことが億劫おっくうとなってしまっていることが多いのです。だからこそ、適度な人付き合いは意欲や好奇心などを司る前頭葉の老化予防だけではなく、意欲の向上にも役立つのです。

どの程度の人付き合いが適切かについては個人差がありますが、無理のない範囲で人付き合いできる友達を増やしてみてください。

きっかけは、趣味のグループや習い事を楽しんだり、老人会やサークル、ボランティア活動に参加したりするのもいいでしょう。

同じ悩みを共有したり、不安を理解してくれたりするような友達がいれば、不安や悩みを打ち明けることができます。私たちの脳は、人に不安や悩みを口にすることで気持ちは前向きになり、「ひとりではない」という心強さが精神的な安定になります。

気持ちが安定すれば、もっと会話を楽しみたい、旅行や買い物といった同じ目的意識で楽しみたいと人付き合いの機会も増えます。脳と体を動かし、さまざまな環境から刺激を受けることで、いつまでも若々しい脳でいられるのです。

そこで、脳科学者としての私のアドバイスは、「友達からの誘いはなるべく断らない」ということ。フットワークの軽さこそ、まさにアクティブシニアなのです。

私の周りのアクティブシニアの方たちの特徴のひとつは、フットワークが軽いという点が挙げられます。とにかく誘われたときの返事がはやい! 即断即決で「わかりました! 行きます!」という人が多いのです。やはり誘ったほうも、「どうしようかな」「ちょっと検討する」と返事を濁されるよりも、すぐに返事をもらったほうが気持ちいいので、またお座敷がかかるというわけです。

できるだけ複数のコミュニティを持っておく

内閣府の調査では、過去1年間に参加した社会活動を回答した人(1,237人)のうち、参加してよかったと思う理由をみると、「生活に充実感ができた」(47.9%)が最も多く、次いで、「新しい友人を得ることができた」(36.5%)、「健康や体力に自信がついた」(33.1%)が続いています。ここで着目したいのは、「新しい友人を得ることができた」というもの。ひとり暮らしのシニアが増え続けるなか、孤立や孤独は脳にとっても大敵だといえます。

アクティブシニアとして、社会参加活動などを通じて人と関わり合う機会をつくることは、心の豊かさや生きがいが得られるため、脳の健康にもつながるというのが脳科学者としての私の考えだからです。

「急に人とつながれって言われても……」

そう嘆くシニアも多いのではないでしょうか。

私が見ている限りで、シニアが絶対に若者に勝てないこと。そのひとつが社会や他者との「つながり力」です。ソーシャルメディアが発達し、複数のSNSを使いこなす現代の若者たちは、スマホひとつで簡単に社会や他者とつながることができています。

ところが、シニアは、そうしたソーシャルなつながりをつくるのが難しいと考えてしまいがちです。

問題は多々あるようですが、ひとり暮らしや夫婦だけのシニア世帯が増えたことや、昔は自然につくられていた地域でのつながりが希薄になっていることなどが挙げられます。そのような時代だからこそ、自らが求めて行動しなければ、ソーシャル・コネクションを構築することはできません。

脳は若返る
茂木健一郎
1962年東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。脳科学者。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職はソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。専門は脳科学、認知科学。主な著書に『ストレスフリーな脳になる! 茂木式ごきげん脳活ルーティン』(学研プラス)、『緊張を味方につける脳科学』(河出書房新社)、『脳がめざめる「教養」』(日本実業出版社)など多数。

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