本記事は、茂木健一郎氏の著書『脳は若返る』(リベラル社)の中から一部を抜粋・編集しています。

朝,日光
(画像=ah/stock.adobe.com)

「脳のゴールデンタイム」を有効活用する

「早起きは三文の徳」ということわざがあるように、朝目覚めてからの約3時間は脳がもっとも効率よく働く「ゴールデンタイム」だということをご存じでしょうか。この脳のゴールデンタイムを、シニアの皆さんにもぜひ有効に利用してほしいというのが私の提案です。

そもそも、なぜ朝目覚めてからの約3時間が脳のゴールデンタイムと呼ばれているのか。まずはそれを解説しましょう。

私たちは日中の活動を通して、目や耳からさまざまな情報を得ています。

その情報は大脳辺縁へんえん系の一部である海馬かいばに集められ、短期記憶として一時的に保管されます。その後に大脳皮質の側頭連合野そくとうれんごうやに運ばれますが、この段階では記憶は蓄積されているだけです。

脳は若返る
(画像=脳は若返る)

それが睡眠をとることで記憶が整理され長期記憶へと変わります。すると、朝の脳は前日の記憶がリセットされるため、新しい記憶を収納したり、創造性を発揮することに適した状態になります。この脳の仕組みが、朝の3時間が脳のゴールデンタイムだといわれる所以ゆえんです。

また、朝に運動や学習をすると、脳は次第に睡眠状態から覚醒状態にシフトしていき、ドーパミンなどの脳内物質が分泌されやすくなるので、脳を健康に保つうえでも効果的だといえます。多くの人にとって、起きたばかりの脳というのは「ボーッとしている」というイメージがあるかもしれませんが、大脳の扁桃体へんとうたいという部分が活性化し、運動能力や記憶力が高まる時間だといわれています。だからこそ、朝の時間にランニングをしたり勉強したりするには最適だというわけです。

私自身、もう長いこと、朝の時間の、脳のゴールデンタイムを運動や学びに有効活用しています。それによって感じているメリットのひとつに、朝は誰にも邪魔されない静かな環境で、どんなことでも集中して取り組むことができることが挙げられます。シニアの皆さんも、脳のコンディションがいい朝の時間を大切に使えば、脳はいつまでも若々しくいられるというわけです。

こういった脳科学の観点からも、朝の3時間といわず、たとえ1時間でも2時間でもいいので、何か集中して取り組めるものを見つけてみてはいかがでしょうか。「朝はどうしてもやる気が起きない」という方もいるかもしれません。

それを気にする必要はありません。朝の活動を習慣化するのに、やる気は必要ないというのが私の持論だからです。実際に、私は何十年も朝型生活を続けていますが、朝からやる気満々の日なんてほとんどありません。やる気がなくても、習慣になっているからできているだけです。

私がよくいっているのは、やる気というのは贅沢ぜいたく品だということ。人生のなかでやる気に満ちあふれているときなど、そう起こることではないですから。逆をいえば、いつもやる気がある状態だと脳は疲れてしまいます。そうではなく、やる気がなくてもやれるように、習慣化することが大事なのです。

特に、朝が苦手な人にとって早起きをするのは、もっとも高いハードルとなることかもしれません。睡眠時間を削ってしまうと、せっかく何かに取り組んでも効果が薄れてしまいますので、早起きをするためには早寝を心がけることが重要です。

普段はしない手や指の動きを日常生活に取り入れてみる

脳は若返る
(画像=脳は若返る)

いきなり、奇妙なイラストが飛び出してきましたね。

これは、カナダの脳神経外科医ワイルダー・グレイヴス・ペンフィールドらによって描かれた「ホムンクルス」という、脳内地図のようなものです。脳のさまざまな部位を電気刺激することで、脳の機能がまるで地図のように場所によって働きが決まっていることがわかったのです。

このホムンクルスで着目してほしいのは、体の各部分の大きさは大脳皮質運動野の活動領域に対応するように描かれているところです。例えば、手は大きく、親指は長いことがわかります。もともと人間は手先を使って文明を築いてきたわけですから、手や指に対応する脳の面積が大きいのもうなずけます。

実は、私たちの手というのは「第二の脳」とも呼ばれ、脳と深いつながりがあります。

手や指先などを動かすことで脳の血流量が多くなり、認知症予防に効果があるとされています。これは、以前からテレビ番組や書籍でも多く取り上げられているので、ご存じの方も多くいると思います。

ただし、脳に刺激を与えるという点では、いつもおこなっている日常的な動作、例えば食事で箸を使う、何か物をつかむという程度では脳への刺激にならないこともわかっています。つまり、普段はしない手や指の動きを意識する必要があるのです。そこで、普段はやらない手先の運動として、私がおすすめしたいのは次のようなことです。

  • 楽器を弾いてみる
  • 絵を描いてみる
  • 料理をつくってみる

楽器を弾いてみるというのはなかなかハードルが高いと思われるかもしれません。ですが、「何歳になっても新しいチャレンジはできるんだな」と感じたエピソードがありました。

先日、元首相の安倍晋三さんが亡くなったことは非常に残念でしたが、亡くなる少し前に妻の昭恵さんの還暦パーティーがあり、私も出席しました。

そこで安倍さんが東日本大震災の復興を応援するチャリティーソングである『花は咲く』のピアノ演奏を披露されていたのが印象的でした。安倍さんの67歳という年齢を考えれば、皆さんが何かに挑戦するときに「歳だから」という言い訳はできませんね。

また、絵を描くということにしても、鑑賞するだけではなく、実際に描くほうが圧倒的にアンチエイジングの効果が高かったという研究結果もありますし、料理をすると前頭葉が活性化することも明らかになっています。

運動を取り入れると効果がアップします。例えば、水泳やダンスなどは手先を使うので効果が期待できます。

幸運なことに、日本にはカルチャーセンターというものがあります。カルチャーセンターにはさまざまな講座があります。新しいことを学んだり、覚えたりすることで、脳が刺激されて認知症予防になりますし、手や体を動かすことで健康促進にもつながります。また、好きなことや興味のあることを習うことで、新しいコミュニティに参加できるという点でもおすすめです。

このようなきっかけをつくって、普段はしない手や指の動きを意識した取り組みを日常生活の習慣にしてみてはいかがでしょうか。

脳は若返る
茂木健一郎
1962年東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。脳科学者。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職はソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。専門は脳科学、認知科学。主な著書に『ストレスフリーな脳になる! 茂木式ごきげん脳活ルーティン』(学研プラス)、『緊張を味方につける脳科学』(河出書房新社)、『脳がめざめる「教養」』(日本実業出版社)など多数。

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