この記事は2023年1月23日に「第一生命経済研究所」で公開された「コロナ分類の変更に関する経済効果」を一部編集し、転載したものです。


経済
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目次

  1. 5類への見直し
  2. サービス消費の改善
  3. 2023年の経済への影響

5類への見直し

政府は、新型コロナの感染上の分類を2類相当から5類に見直すことを決めた。2023年4~5月に実施する目途である。この変更は、今後の感染自体を減らすものではない。しかし、経済的には大きな影響をもたらす。本稿では、具体的にどんな効果はありそうかを定量化して考えてみたい。

現状の対応で経済的にインパクトが大きいのは、待機期間が設定されていて、感染者と濃厚接触者が就労できなくなることだ。感染者自身は、発症してから7日間の待機期間がある(8日間の就労できず)。濃厚接触者は5日の待機期間である。

政府が発表する新規感染者数は、2020年23万人、2021年149万人から2022年は2,722万人へと激増した(図表1)。まだ感染の波は終わっておらず、2023年も新しい変異株の出現が警戒される。変異株の感染力が強いほど、今後も新規感染者数は増えるだろう。そのとき、この人数と濃厚接触者が待機期間の分だけ働けなくなる。企業はその人たちが生産活動ができなくなることで、生産活動の停滞に直面する。こうした就労低下効果は、もしも、5類への変更がなかった場合、2023年の経済活動にも大きなマイナスを及ぼすことだろう。

第一生命経済研究所
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仮定として、新規感染者1人に対して、濃厚接触者が1人いたとする。1人の感染で、13日間(13人日)の就労ができなくなる。これが5類の見直しで待機期間がなくなるとどうなるだろうか。感染者自身の療養が4日間だったと仮定すると、1人の感染で4日間(4人日)の就労制限に変わる。1人の感染者当たりの就労制限効果は約▲7割減と軽減される(=4日÷13日-100%)。

今、2023年春以降に1,000万人※の感染者が増えたとしよう。現行の待機期間を適用すると、感染拡大が4か月であった場合、労働投入量は▲0.85%ほど減少する。一方、春先以降に感染者自身が4日だけ療養する場合には、労働投入量の減少は▲0.26%と小さくなる。

※第7波、第8波の新規感染者数を調べると、ともに1,100万人が感染している。従って、2023年春以降の感染者数を1,000万人と仮設した。

次に、感染者1,000万人の生産力低下のインパクトを試算すると、現行では▲1.16兆円である。それが待機期間の変更で今春以降は▲0.36兆円になる。つまり、5類への見直しは+8,000億円の改善効果が見込めると考えられる。

サービス消費の改善

次に、別のルートでの改善を考えてみた。現在は、屋外で距離を保てばマスク着用は不要である。これが5類になれば、屋内でもマスク着用は原則不要になる。現状、屋外でもマスク着用は一般的であり、消費者には強い警戒感が根強くある。

サービス消費の分野を調べると、感染への強い警戒感があって、宿泊・飲食サービスと生活関連サービス・娯楽業の分野での活動は大きく停滞している。この2分野の活動を経済産業省「第三次産業活動指数」で調べると、2022年9~11月は2019年9~11月に比べて▲18.3%も減少していた。この落ち込み幅は、広義対個人サービスの平均(▲1.6%)よりも▲9.5%ポイントも下振れしている。もしも、感染への警戒感が和らげば、他の個人サービス並みにマイナス幅が緩和していくと考えられる。

具体的にサービス消費の内訳の動向をみると、旅行以外にも遊園地・テーマパーク、フィットネスジム、ボーリングなどが厳しい。外出したり、身体を動かす娯楽・レジャー消費には、まだ消費者の慎重さが根強いと考えられる。今後はそうした分野でも改善が見込まれるだろう。

そこで、2023年に新規感染者1,000万人が発生する前提で、2つの分野の消費押し下げがどのくらいかを計算してみた。すると、▲1.19兆円の減少が見込まれた。一方、感染への警戒感が他の個人サービス並みに改善することを考えると、それが▲0.58兆円に縮小していく。その差分の+6,000億円が5類変更に伴う改善効果が見込まれる計算になる。

2023年の経済への影響

以上のように、コロナの感染法上の分類を5類に見直すと、新規感染者数が1,000万人増加した前提で計算して、就労改善+サービス消費改善の合計で1.4兆円が見込まれる(図表2)。これは実質GDPに換算して+0.25%に相当する。

第一生命経済研究所
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現在のような長い待機期間を設けていると、2022年の年間2,722万人も感染者に対して、2023年も就労制限など巨大な社会的コストが発生していたのと同じような損失が生じるはずだった。政府は、5類に分類を見直すことで、その経済損失を相対的に軽減することを考えたのだろう。筆者はそうした決断は極めて妥当だと評価している。

第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生