本記事は、西剛志氏の著書『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

ステーキ
(画像=karnstocks/stock.adobe.com)

肉好きはなぜ長生きするのか

60代、70代の人と会食に行くときの話です。「何か食べたいものはありますか?」と聞くと、多くの人が「なんでもいいです」と答えます。もちろん遠慮したり、気を遣ったりしてもらっている部分もあるとは思いますが、「なんでもいいです」のあとにこんな言葉がよく続きます。

「最近、食べたいものが出てこないんですよね……」

食欲も生理的欲求のひとつなので、年齢とともに「減ってくる欲」に入ります。

一方でスーパーエイジャーには、食欲旺盛で肉が大好きという人が多くいます。

世界一の長寿者になったことのある北川みなさん(没年115歳)は100歳になるまで農家で働き、牛肉が大好きだったそうです。同じくスーパーエイジャーの中地シゲヨさん(没年115歳)も焼き肉、唐揚げが大好き。男性では中願寺雄吉さん(没年114歳)も1日3食は欠かさず、牛肉とかしわ飯(とりの炊き込みご飯)が好物だったそうです。ほかにも肉好きのスーパーエイジャーはたくさんいます。

そもそも、肉が好きだからスーパーエイジャーになれたのか? スーパーエイジャーだから肉が好きなままでいられるのか? どちらなのかも気になるところですよね。

その答えは、世界中のいろいろなリサーチを総合すると、「両方ある」が正解です。

まず、これを考える上で大切なことは、100歳を超えるスーパーエイジャーは、牛肉や乳製品などの動物性タンパク質をほとんど毎日とる人が、なんと約60%もいるという事実です。

男性で世界最高齢歴代1位の記録(116歳)を達成した木村次郎右衛門さんは、毎朝ヨーグルトを食べていました。また、3位のエミリアーノ・メルカド・デル・トロさん(没年115歳)も牛乳とタラが大好物だったそうです。

また、牛乳を飲む人はあまり飲まない人に比べて、10年後の生存率が高くなるというデータもあります。

牛乳や肉などの動物性タンパク質の中には、やる気ホルモンであるドーパミンの原料、チロシンというアミノ酸が含まれています。またリラックスホルモンのセロトニンを生み出すトリプトファンというアミノ酸も含まれています。肉や乳製品などのタンパク質から必要なアミノ酸を取り込めなくなってしまうと、脳内物質をつくることができなくなり、認知機能の低下を引き起こし、老人脳が加速してしまうリスクがあるのです。

また、動物性タンパク質は、筋肉をつくる原料にもなるため、フレイル(健康な状態と介護が必要な状態の中間の状態)を防ぐ効果もあります。また、筋肉を維持するためにも、動物性タンパク質が豊富に含まれる「肉・魚・卵」を、バランスよく定期的に食べることが最も効果的という報告もあります。

イタリア最高齢のエンマ・モラーノさん(没年117歳)は、長寿の秘訣は1日3個の卵を食べることだったそうです。100歳超えの長寿者が多く住むヨーロッパのグルジアの村の食事でも、毎日どんぶり一杯のヨーグルトを食べています。

高齢になると動物性タンパク質が脳にとっても体にとっても必要となることが、最新の研究でわかってきています。

ちなみに、野菜が体にいいからと野菜しか食べないのは、脳にはよくありません。

オックスフォード大学の研究では、ベジタリアンは脳卒中のリスクが高まることがわかっています。また他の研究でも、61歳~87歳の107人に対して記憶テストや身体機能のチェック、脳のスキャンなどを行い、その5年後に同様のテストを行った結果、ビタミンBが不足している人には脳が萎縮する傾向が見られたとのこと。これは肉や魚、卵に含まれるビタミンB12の欠乏によるものとみられています。この結果を見ても、スーパーエイジャーに肉好きが多いということの理由がわかります。

食欲がある人は長生きしやすい

食欲がある高齢者は長生きの傾向があることが明らかになっています。また別の研究でも、高齢者を食が細い人、普通の人、食欲が旺盛な人に分けて解析した結果、食が細い人は食欲が旺盛な人に比べて死亡率が2倍以上高いことがわかりました。咀嚼そしゃく力の低下や薬の副作用、孤独感や抑圧など心理的な要因、家族などの環境要因も食欲に悪影響を及ぼしますが、それらの要因を差し引いた後も死亡率は1.5倍高かったのです。また食欲が旺盛な人は食が細い人に比べて、肉、魚、卵、野菜、果物の摂取量が多く、ビタミンB1、ナイアシン、鉄、リンなどの栄養素の摂取量も多く、吸収率もよいことがわかっています。

肉や魚が食べたくなくなる、または肉や魚を食べられなくなるという人は、老人脳のリスクが上がります。肉には老人脳の予防に必要な栄養素がしっかり入っているからです。

80歳でも脳が老化しない人がやっていること
西剛志(にし・たけゆき)
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。
東京工業大学大学院生命情報専攻卒。博士号を取得後、特許庁を経て、2008年に企業や個人のパフォーマンスをアップさせる会社を設立。世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて1万人以上をサポートしている。テレビやメディアなどにも多数出演。著書シリーズは『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』(アスコム)をはじめとして累計22万部を突破。

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