本記事は、田中耕比古氏の著書『一番伝わる説明の順番』(フォレスト出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
説明する前にやるべき「思考」をまとめる4ステップ
「相手の知りたいことを相手が理解できる順番で話す」ために、何をすべきか。
それは、説明をする前に「思考をまとめる」ことです。
具体的には次の4ステップを行うことです。
ステップ1:相手の知りたいことを明確にする
ステップ2:自分が伝えたいことを明確にする
ステップ3:情報のギャップがないか確認する
ステップ4:ギャップを埋めるために、何が必要か考える
それでは、ひとつずつ見ていきましょう。
ステップ1:相手の知りたいことを明確にする
説明をするにあたって、相手が何を知りたいかを考えることが、もっとも重要です。
自分の言いたいことを、どれだけ伝えても、相手の心に響くとは限りません。
あなたの説明を聞きたいという人は、あなたの話ならなんでもいいわけではなく、必要な情報が聞きたいのです。
つまり、あなたに聞けば「聞きたい情報を聞ける」と思っているから、あなたに説明を求めているのです。
たとえば、営業先の顧客は、あなたから何が知りたいのでしょうか。
あなたが販売しようとしている商品やサービスの詳細でしょうか?
違います。その商品・サービスが、自分の抱えている課題を解決してくれるか、課題解決に少しでも役立つのかを知りたいはずです。
あるいは、上司は、あなたの行動をすべて把握しておきたいでしょうか。
おそらく違います。
上司は、期待した成果が出そうかどうかに興味があります。もし成果が出ないとしたら、どういう対策を行う必要があるのか。そして、その対策において、自分がどういう支援をするべきなのかを知りたいと考えています。
こうやって文章にすると当たり前のことのように感じるかもしれませんが、実際、説明やコミュニケーションがうまくない人は、自分が言いたいことばかり話してしまい、相手から突っぱねられてしまいます。
大事なのは「聞き手が知りたいこと」をまず明確にすることです。
あなたの説明する相手が「何を一番知りたいか」を考えてみましょう。
いくつかの候補をピックアアップし、その中から「一番」を選び出せれば、それを核として伝える順番を整理できるはずです。
相手が聞きたいこと、知りたいと思っていることがわかれば、どう伝えればちゃんと伝わるのかという筋道が見えてくるのです。
ステップ2:自分が伝えたいことを明確にする
一方で、「自分の言いたいことがない」というのも、説明として意味をなしません。
何かを説明するのであれば、常に、自分自身の主張が存在すべきです。
営業ならば、自社の商品やサービスが、他社商品と比べて何が違い、どう素晴らしいのかを伝えたいわけです。
業務の報告であれば、上司の期待に沿うように精一杯努力しているとか、顧客からの信頼をしっかり得られているとか、そういうことを伝えて、業務の状況をできるだけ正しく理解してもらいたいと思うでしょう。
だからこそ、「自分が伝えたいことは何なのか」を明確化しましょう。
ぼんやりと営業活動や業務報告、プレゼンテーションをするのではなく、自分が一番伝えたいことはなんなのかを、少し立ち止まって考えてみるのです。
なおこのとき、「伝えたい内容」には相手にどう動いてほしいのか、という視点を入れましょう。
この情報を受けて、相手にどう変わってほしいのかを考えながら、整理するのです。
なんとなく「自分が一番伝えたいのはこれだ」と考えるだけでなく、
「商品・サービスを買いたくなる」
「いい人事考課をつけたくなる」
「支援の手を差し伸べたくなる」
など、から逆算して、自分の主張を作っていくといいでしょう。
こういうと打算的な印象を受けるかもしれませんが、あなたの仕事のコミュニケーションの目的は、究極的には、人に動いてもらうことです。あなたが何かしらの言葉を伝えて、相手に行動や態度の変容を起こすことです。
だからこそ、相手にどう動いてほしいのか、変わってほしいのかも考えてみると良いでしょう。
ステップ3:情報のギャップがないか確認する
相手が知りたいことと、自分の伝えたいことがまったく同じであれば、問題はありません。しかし、多くの場合、そこにはズレ、すなわちギャップがあります。
営業の例では、顧客は自らが抱える業務上の課題を解決したいのに対して、営業マンは自社の商品・サービスの良さを伝えたいわけです。「顧客の課題の解決法」と「商品・サービスの特徴」では、明らかにギャップがあります。
あるいは、業務報告の例では、上司の知りたい「期待した成果の達成状況」と、自分の伝えたい「努力量」は、かみ合いません。
ステップ4:ギャップを埋めるために、何が必要か考える
ギャップが明確化されたら、それを埋める手立てを考えます。
「顧客の課題の解決法」と「商品・サービスの特徴」であれば、
・顧客が抱えている課題は何か
・それは、どうすれば解決できるか
・解決のために、自社の商品やサービスを使えそうか
といった情報が必要でしょう。
「期待した成果の達成状況」と「努力量」であれば、
・上司が期待している成果(おそらく期初などにすり合わせているはず)
・その成果の、数字上の達成状況(売上げ金額、受注件数など)
・今後の活動予定と、最終的な数字の着地見込み
・目標達成のために、現状の努力で十分かどうか
・もし不足している場合は、どのような行動でカバーするか
などが明確になっているべきです。
なお、ギャップの埋め方には、2つのアプローチがあります。
ひとつは、「自分の情報を補強する」という方法。
もうひとつは、「相手の期待値をコントロールする」という方法です。
まずは、「自分の情報を補強する」について考えてみましょう。
ギャップを埋めるために必要な項目を、すべて網羅するように準備するのが情報補強のアプローチです。
先ほど洗い出した項目を、相手の知りたいことから始めて、自分の伝えたいことにつながるように、しっかりと相手に伝えましょう。
それにより、相手の知りたいことに答えつつ、自分の伝えたいことを織り込んでいくことができるはずです。こちらのほうが正攻法といってよいでしょう。
もうひとつのアプローチは、冒頭に、手持ちの情報・伝えたい情報の範囲を開示して、「今日はこの話をします」と決め切ってしまうというものになります。これが「相手の期待値をコントロールする」という方法です。
営業の例であれば、
「本日は、弊社のサービスのご紹介をさせていただきますが、貴社の状況をお聞きするためのインプットとしていただきたいと思っております」と、商品紹介ではなく、相手の話を聞く場だと定義したり、「弊社の導入事例と、それによって解決された課題についてご紹介しますので、御社の状況に近いものがあれば、ご教示ください」と、商品の特性・特徴の紹介ではなく導入事例の紹介と位置づけて、課題ヒアリングを行う場にしてしまったりするわけです。
業務報告の場合は、「これまでの活動の経緯をご報告しますので、ほかのメンバーの活動と比較した際の、いたらない部分や改善点をご教示ください」と、期待値とのギャップ洗い出しを手伝ってもらうようにお願いする、というのも一案です。
こうして組み立てた「説明」は、「時系列(考えた順、経験した順)」とは違います。
相手の興味・関心を類推し、それに沿う形でストーリーを組み立てる、という準備段階を経たことで、あなたの説明は思いつきの行き当たりばったりから脱却し、適切な情報を効果的に伝えることができる状態になっていることでしょう。
相手の知りたいことと、自分の伝えたいことを明確にする
2000年、関西学院大学総合政策学部卒業。商社系SI企業に入社。米国ソフトウェアベンチャーへの技術研修員派遣により、サンフランシスコ勤務。
2004年、アクセンチュア株式会社戦略グループ入社。通信業、製造業、流通・小売業などの多様な業界の事業戦略立案からSCM改革、業務改革に至るまで、幅広い領域での戦略コンサルティングプロジェクトに参画。
2011年、日本IBM株式会社入社。ビッグデータのビジネス活用を推進。
2012年、株式会社ギックス設立。取締役に就任。戦略コンサルティングとデータ分析を融合した、効率的且つ実効性のあるコンサルティング・サービスを提供。※画像をクリックするとAmazonに飛びます