これからの飲食業界に求められるDXとは何なのか?
前述の通り、飲食業界のDX化では「省人化」と「非接触化」が重要テーマになっている。
東京商工リサーチの調査によると、2022年のコロナ関連倒産のうち約1割は飲食店が占めている。283件のコロナ関連倒産は全業種でワーストとされており、新型コロナウイルスによるダメージが顕著に表れた結果となった。
また、コロナ禍をきっかけに顕在化した人材不足も、飲食業界が直面している課題である。飲食店ドットコムの独自アンケートによると、約7割の店舗が人材不足を実感しているようだ。
このように、現在の飲食業界は「コロナ禍のダメージ」と「人材不足」の2つの課題を抱えている。特に新型コロナウイルスの影響は深刻であり、2020年から続くコロナ禍は消費ニーズまでも変えてしまった。
○コロナ禍で変化した飲食業界のニーズ
・座席間隔の広い店舗が好まれるようになった
・配達プラットフォームを利用したテイクアウトが増えた
・個室の需要が高まった
・換気がしやすいなど、レイアウトを気にする消費者が増えた
・スタッフとのやり取りが少ない店舗が選ばれやすくなった など
上記のような新しいニーズに対応できるDX化が、今の飲食業界に求められているものだ。そのため、業務を円滑化する施策だけではなく、省人化や非接触化につながる施策を考えたい。
先進事例3社から見る飲食業DXの方向性とポイント
飲食業DXにはさまざまな方向性があり、企業・店舗の特性によって導入すべきツールは変わってくる。具体的なイメージをつかむために、ここからは飲食業DXの先進事例を見ていこう。
【事例1】非接触型の決済手段や注文システムを充実/ゼンショーホールディングス
飲食店を全国展開する『ゼンショーホールディングス』は、「IT総括部・AI推進室・DX推進室」を立ち上げて先進的なDX化を進めている。以下では、代表的な飲食チェーンであるすき家の施策を紹介しよう。
○すき家のDX事例
・仕入共通システムを導入し、調達コストの削減や安全性向上を実現
・電子マネーやスマートフォン決済など、非現金決済手段の拡充
・マルチチャネル(テイクアウトやモバイルオーダー、デリバリーなど)への対応
・キャッシュレスPOSや券売機の導入
コストダウンにつながるシステムも導入しているが、ゼンショーホールディングスは非接触型の決済手段や注文方法にこだわっている。特に決済手段は豊富であり、12種類の電子マネーや10種類のQRコード決済に対応している(※2023年2月時点)。
これらのDX施策を見ると、やはり省人化と非接触化に注力していることが分かるだろう。コスト面で難しいかもしれないが、DX化のために専門部署を立ち上げている点も参考にしたい。
【事例2】配膳ロボットで回転率や業務効率を改善/すかいらーくホールディングス
ガストやバーミヤンを運営する『すかいらーくホールディングス』も、全国の店舗でDX化を進めている。多角的な施策が展開されているため、以下では代表的なものを紹介しよう。
○すかいらーくホールディングスのDX事例
・デリバリー需要に対応するための配達員専用アプリの導入
・メニュー機能と注文機能を兼ね備えたデジタルメニューブック
・非現金決済手段や事前決済システムの拡充
・各テーブルに自動配膳するロボットの導入
・教育やコミュニケーションに役立つ、従業員用デジタルデバイスの導入
中でも配膳ロボットの導入は、同社ならではのユニークな施策だ。この施策によって非接触型のサービスを提供しているだけではなく、「ランチピーク時の回転率7.5%アップ」や「片付け完了時間35%削減」といった効果も実現した。
このように、店舗側・顧客側の双方にメリットがある施策は、コストをかけてでも積極的にとり入れていきたい。
【事例3】回転すし総合管理システムによる食品ロス削減/FOOD & LIFE COMPANIES
回転すしのスシローでお馴染みの『FOOD & LIFE COMPANIES』は、高い原価率を維持するためのDXに取り組んでいる。中でも以下の機能を備えた「回転すし総合管理システム」は、同社のさまざまな工夫が見られるツールだ。
○回転すし総合管理システムの機能
・ICチップにより、皿が取られたレーンや時間をデータ化
・収集したデータをもとに、各ネタの需要を予測
・高精度を実現するために、1年間で10億皿のデータを分析
・レーンを一定距離移動した商品の自動廃棄
・消費ニーズに合わせた供給指示
このシステムにより、同社はメニューの販売動向を細かく管理しており、食品ロスを減らすことに成功している。また、顧客側にもメリットが生じるように、新鮮な皿のみをレーンで流している点も参考になるポイントだ。
複数のメリットがあるシステムであれば、コストが高くても導入のハードルを下げられる。