本記事は、桐生稔氏の著書『説明の一流、二流、三流』(明日香出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。
話しはじめにやること
三流は、いきなり頭が真っ白になり、二流は、いきなり説明しはじめ一流は、いきなり何をする?
人前で話しているとき、聞き手が興味なさそうにしている、説明を聞かずに資料をペラペラめくりだす、眠たそうにしている……こんな経験はありませんか?
せっかく気合を入れて準備したのに、こんな状態だと心が折れるかもしれません。しかし、これはやむを得ないこと。人間は自分にとって興味があることしか聞かないからです。
心理学者コリン・チェリー氏が提唱した「カクテルパーティー効果」を簡単に解説します。騒がしいパーティーでは、誰が何を話しているかなど、まったく耳に入ってきません。しかし、自分が気になるワードがでた瞬間、急に耳に入ってきます。自分の名前がでた瞬間、「えっ、私のこと?」と振り返ったりします。不要なものには耳を傾けないし、必要なものには聞き耳を立てる。これが人間の特性です。
それを踏まえると、本題に入る前に必ずしなくてはいけないことがあります。それは、「この説明は自分にとって重要である」と認識させること。つまり聞いてもらう態勢を作ることです。
聞いてもらう態勢を作るには、人間の「快楽原則」にアプローチします。快楽原則とは、心理学者グスタフ・フェヒナーが作りあげ、フロイトが取り入れた概念で、人間は、「快楽を得るために」または「苦痛を避けるために」行動するというもの。快楽とは、楽しいこと、うれしいこと、得すること。苦痛とは、嫌なこと、恐怖を感じること、損をすること。
人前での説明に当てはめると、こうなります。
- 快楽=自分にとって得する情報
- 苦痛=聞かないと損失をこうむる情報
これを本題に入る前に聞き手に認識してもらうのです。
例えば、最近よく聞く、「ビッグデータ」という言葉。これを説明する際、「ビッグデータは、データベースソフトウェアが把握し、蓄積し、運用し、分析できる能力を超えたサイズのデータを指すもので、事業に役立つ知見を導出するためのデータとして問題解決や業務の付加価値向上を……」
なんてはじめられたら、おそらく聞き手は興味を失います。
聞く態勢を作るには、こんな感じです。
○ 快楽=自分にとって得する情報
「ビッグデータを使うと、コンビニなら1時間かけて売れ筋商品を分析して発注していたのが、1分で済むようになります。余った時間は、接客に力を入れたり、商品のポップを作ったりと、売上を上げる施策に使えるようになります」
○ 苦痛=聞かないと損失をこうむる情報
「多くの企業がビッグデータを活用しています。その結果、人件費を1,000万円削減し、削減したコストで新商品を開発しています。これからの新商品は、ビッグデータを活用している企業が80%を占めるという予測もでています。活用しない企業は完全に取り残されます」
話しはじめのほんの1、2分のトーク。これがあるかないかで、聞き手の前のめり感が変わってきます。だからこそ一流は、冒頭に全集中します。まずは注目してもらい、聞いてもらう態勢を作ること。そして、聞いてもらう態勢ができたら説明を開始する。これが身につくと、あなたの説明はいつもの何倍も相手に届くようになります。
Road to Executive
一流は、聞いてもらう態勢を作る
- 話しはじめに快楽原則にアプローチする
- 三流は、あいまいに説明し、二流は、詳しく長く説明し、一流は、どうする?
- 三流は、口頭で説明し、二流は、分厚い資料で説明し、一流は、 どうする?
- 三流は、何の根拠もなく語り、二流は、事実を並べて語り、一流は、どう語る?
- 三流は、話がバラバラになり、二流は、なんとなくまとめようとし、一流は、どうまとめる?
- 三流は、黙ってしまい、二流は、相手に合わせて妥協し、一流は、どうする?
- 三流は、いきなり頭が真っ白になり、二流は、いきなり説明しはじめ、一流は、いきなり何をする?
- 三流は、説明することで精一杯で、二流は、聞き手の耳に届け、一流は、聞き手のどこに届ける?
- 三流は、口頭だけで説明し、二流は、資料だけで説明し、一流は、どうする?
- 三流は、長いメールを送り、二流は、短くまとめたメールを送り、一流は、どんなメールを送る?