この記事は2023年2月24日に「第一生命経済研究所」で公開された「米欧に比べて遅れる日本の物価ピークアウト」を一部編集し、転載したものです。


消費者物価指数
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24日に発表された1月の日本の消費者物価は、全国平均で前年比+4.3%と第二次石油危機時の1981年12月以来、41年1ヶ月振りの上昇率を記録した。長らく低迷が続いてきた日本の消費者物価は昨年4月に2%を突破し、その後も一段と上昇率が加速している。こうした動きは過去半年余りでピークアウト傾向が確認される欧米のインフレ率とは対照的だ(図表1)。米国の消費者物価は昨年6月の9%台をピークに上昇率が鈍化傾向にあり、1月は6%台で高止まりしているが、ピーク時対比で3%ポイント近く低下している。23日に発表された1月のユーロ圏の消費者物価の確報値は、集計の遅れで速報値で仮置きされていたドイツの計数が上振れしたことで、速報段階から僅かに上方修正されたものの、こちらも昨年10月をピークに約2%ポイント上昇率が鈍化している。上昇加速後も日本は欧米に比べて物価上昇率が相対的に小幅にとどまっているものの、歴史的な高水準に達している。年明け以降も値上げや価格改定の動きが広がっており、今のところピークアウトの兆しがみられない。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

ここでは、昨年7月20日付けレポート「日米欧の物価上昇率の比較」で取り上げた日本、米国、ユーロ圏の消費者物価統計の費目別分類に基づき、何が日本の物価上昇率のピークアウトを遅らせているかを確認する。ここでの費目別分類は、日本の10大費目区分を元に、「交通・通信」を「交通」と「通信」に細分化した11費目を比較した(図表2・3)。このうち、エネルギーに関連した費目は、「光熱・水道」に光熱費が、「交通」にガソリン代が含まれる。11費目とは別に「エネルギー」の計数も比較した。

第一生命経済研究所
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第一生命経済研究所
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米国の物価上昇率のピークアウトを牽引しているのは、ガソリン代を中心としたエネルギー料金の上昇率鈍化だ。エネルギー料金のピークアウトや金利上昇を受け、家具・家事用品の上昇率が鈍化傾向にある。新車納入の遅れで上昇が続いてきた中古車価格も下落に転じた。他方、住宅供給不足を背景とした住居費の上昇加速に歯止めが掛かっていないうえ、労働需給逼迫を反映してサービス価格が全般に高止まりしている。

ユーロ圏の物価上昇率の押し下げに働いているのは、光熱費を中心としたエネルギー料金の上昇率鈍化だ。但し、ピークアウトから日が浅く、その他費目の上昇一服には今のところつながっていない。昨年末以降、欧州のガス先物価格が大幅に下落しており、今後、エネルギー料金は一段と下押しされる公算が大きい。各種の労使交渉で物価上昇見合いで高めの賃上げ妥結で決着するケースも多く、当面はサービス価格の高止まりが予想されるものの、エネルギーの上昇一服により財価格の上昇に歯止めが掛かる公算が大きい。

日本はエネルギー価格の高止まりに加えて、食料品、通信、家具・家事用品などの上昇加速が、物価を押し上げている。食料品は、肥料価格の上昇などを背景に卵を筆頭に上昇が加速している。通信料金の上昇は、携帯通信料引き下げの影響が一巡したことが大きい。部品の品薄と円安による白物家電の価格高騰も目立つ。エネルギー料金の上昇率は僅かに鈍化しているものの、遅れて顕在化している値上げの影響が幅広い費目に広がっている。今月は全国旅行支援の割引率縮小も、物価上昇を押し上げた。つまり、政策変更などの制度要因、円安と資源高の二重打撃、価格改定のタイミングの遅れが、米欧に比べた日本の物価高止まりを招いている。2月以降は政府の電気・ガス料金値下げの影響が反映されるため、物価上昇率はピークアウトに向かうことが予想される。但し、大手電力会社が申請した4月からの電気料金の大幅値上げが認可されれば、エネルギー料金の再高騰を招く恐れがある。政府は厳格な審査を指示しており、値上げ幅次第で日本の物価上昇率の行方を左右しよう。

第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 田中 理