この記事は2023年3月20日に「第一生命経済研究所」で公開された「万博、IR、リニア建設がもたらす経済効果」を一部編集し、転載したものです。
はじめに
1964年の東京オリンピック、同年の東海道新幹線開業、1970年の大阪万博、1964〜70年の期間、日本では国をあげてのイベントが立て続けに起こり、いざなぎ景気と呼ばれる空前の好景気に国中が湧いた。
事実、2020東京オリンピックはコロナの影響などで1年延期の無観客開催となり、想定よりも小規模なものになったが、招致が決定した2013年度以降の建設投資は大きく盛り上がった。また、2025年の大阪万博を皮切りに、IRやリニア中央新幹線開業が控えており、万博・IR・リニアという巨大な建設投資が連続で続くと、複数の景気循環の波が重なり、好景気が生まれる可能性がある。
そこで本稿では、万博・IR・リニアという3つの巨大事業が日本の経済へどの程度の刺激となるのかについて分析する。
万博の経済効果は2兆円
23年には、万博の建設工事が本格化し、経済効果が期待できる。既に万博開催による経済効果は、1970年の大阪万博や1985年のつくば科学万博、2005年の愛知万博など国内で過去に万博が開催された時の経済効果等を基に、政府が約2兆円と試算している。その前提としては、150か国地域を含む166機関の参加が想定されており、想定来場者は国内から2500万人、海外から300万人の計2800万人と愛知万博の2200万人を上回ると見込まれている。そして、建設費と運営費が共に約0.2兆円、来場者による消費額が0.9兆円とされているが、万博のコンテンツや経済環境次第では、特にインバウンドを中心にさらに伸びる可能性もあろう。
なお、約155ヘクタールの会場は多様性を表現するため、1970年万博の「太陽の塔」のようなシンボルや中心施設は設けないようである。しかし、それでも会場となる大阪市の人工島である夢洲での土地造成や道路整備、パビリオンの設営などの建設費だけで約0.4兆円の効果が見込まれており、建設業界には大きな恩恵が及ぶことが予想される。
そして今回は、「空」と名付けた5か所の大広場で、ARやMR等の最新技術を活用した展示を行うこともあり、会場建設費は1250億円、入場料は大人前売り券約28ドル、期間中に何度も入場できるパスポートは125ドルと想定されている。
特に関西の域内総生産の全国シェアを見ると、前回万博が開かれた1970年度の19.3%をピークに低下しており、足元では15%程度まで下がっていることからすれば、万博は企業の東京移転などで地盤沈下が続く関西経済浮揚の起爆剤になる可能性があろう。
IRの経済効果は年1.5兆円
ただ、万博は25年5月3日~11月3日まで185日間の期間限定のイベントであり、大阪万博の経済効果は一過性に終わる可能性がある。このため、大阪府と大阪市が万博とセットで夢洲への誘致を目指してきたカジノを含む統合型リゾート(IR)の経済効果にも期待がかかっている。
事実、29年には大阪のIRも開業予定であり、大阪府市は整備計画で国内外の年間来訪者数を約2千万人と想定しており、近畿圏への経済波及効果は年間約1.1兆円、雇用創出効果を約9.3万人と見込んでいる。
また、IR計画申請に関しては、大阪に加えて佐世保市のハウステンボスへの誘致を目指す長崎県も申請した。審査や認定を経て長崎も2020年代後半の開業を目指すが、こちらは開業5年目の来訪者数を673万人、経済波及効果を約0.3兆円と試算している。このため、カジノや国際会議の開催などにより大阪と長崎を含めた経済効果は約1.5兆円と見込まれている。
IRの経済効果としては、建設業界以外にも、IRに紙幣の計算機などを納入する通貨処理機関連業界などにも恩恵が及ぶことになろう。また、大阪でIR誘致となれば、鉄道延伸の効果も期待されよう。事実、大阪府は2016年時点で鉄道整備などの関連事業費のうち、大阪市営地下鉄中央線の延伸などに640憶円を計上している。
そして、海外IRの事例などを参考にすれば、2025年の万博開催前後に1.5兆円程度の経済効果があるだけでなく、IR運営で持続的な経済効果が出ることに加え、万博跡地などのテーマパークや大型商業施設などができれば、大阪府市の試算のように年間1.1兆円規模の経済効果が続くと考えられる。特に、関西の経済規模が80兆円程度であることからすれば、年間1兆円規模の経済効果が持続することは大きいといえよう。
リニア新幹線効果は年平均1兆円規模
そもそもリニア中央新幹線とは、最高速度500キロで走行し、品川~大阪間を67分で結ぶ高速鉄道である。そして、計画当初の総建設費は約9兆円(品川~名古屋間のみでは5.5兆円)とされており、品川~名古屋間の2027年先行開業を目指して2026年に着工されることになっていた。
しかし、中央リニアの先行開業は、水資源の影響を懸念する静岡県と工事をめぐる協議が難航しており、当初予定の27年からの延期が決定的になっている。このため、リニアの建設による経済効果は万博開催年の25年以降にピークとなるだろう。しかし、リニア中央新幹線が開業すれば、品川-名古屋間を東海道新幹線に比べて約1時間短縮の約40分で結ぶようになり、交通インフラの利便性が飛躍的に高まり、産業や観光の活性化が期待される。
そもそもリニア開業の狙いとしては、東京-名古屋-大阪の三大都市を結ぶ路線を東海道新幹線と二重化し、災害時でも交通網を維持することだが、こうした時短効果によって企業の生産性向上やイノベーション、観光重要の誘発にもつながろう。
そこで、最新2015年の産業連関表を基に経済波及効果を試算すれば、2037年を目指す大阪までの延伸により、少なくとも累計で16.3兆円(年平均1兆円規模)の経済効果が生まれるとされている。
リニア開業に伴う利便性の高まりに伴う駅周辺の再開発や生産拠点の新設、周辺交通機関の整備などが既に進んでおり、ここに労働人口や観光客、さらには自治体の税収の増加が加われば、特に観光や物流などへの大きな波及効果にとどまらず、人やモノの流れ、ライフスタイルの変革を起こす可能性すらあろう。具体的には、東京~名古屋~大阪間の通勤が可能となり、2地域居住やコロナで普及したテレワークの更なる浸透等、新たなビジネスチャンスのみならず、働き方や居住環境を劇的に変えることを通じた経済効果も見込めるかもしれない。
以上より、特に万博の建設工事が本格化する2023年からIRの建設工事がピークアウトする開業前年の2028年にかけて、建設循環のゴールデンサイクルが訪れることが期待される。