本記事は、毛利英昭氏の著書『だから、スターバックスはうまくいく。スタバ流リーダーの教科書』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

自律性の高いチームを作る

自信
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サッカーチームを作る

サービスの語源は、ラテン語のServus(奴隷)にあり、お客様に仕えることだと言われます。しかし、へつらうことではありません。サービスとは、「心温かく親切に人をもてなす気持ち」です。「献身的にお客様のために尽くすこと」なのです。サービスは誰かに手取り足取り教わって、マニュアル通りに行動すればできるものではありませんし、清掃や品出しが終わって手がすいたから、さあやろうというものでもありません。
サービスは、突然必要になり、その一瞬を逸すると価値がなくなってしまいます。

だからサービスは難しいといわれるのです。個人の自発性が鍵となるからで、本当にお客様のために尽くすという気持ちや、そうしたいと願う意欲なくして、顧客の心を捉えるようなサービスは実現できないからです。まさに〝真実の瞬間〟です。

多くのチェーン店は、高度にシステム化された仕事の中で機能重視のサービスを提供してきました。しかし、顧客が当たり前以上の驚きや感動を期待し始め、考え方も多様化する中で、マニュアルだけに頼ったサービスに限界が見えてきました。

今求められているのは、高度にシステム化された機能的なサービスに加えて、マニュアルでは実現することの難しい、人間関係を深めるための情緒的なサービス要素といえるでしょう。

その場その場の状況に合わせて、ベストだと思う行動を即座に実行するサッカーチームのように動かなくてはなりません。スターバックスではマニュアルを否定するのではなく、マニュアルをあえて捨てることで、マニュアルに頼らず自分で判断し行動するサービス本来のあり方を目指しています。

情緒的なサービスは、マニュアルや命令によって高めることはできません。本人が、顧客のために尽くしたいという気持ちや、仕事への愛情など、いわゆる仕事に対してやる気を持って励む心なくして実現することは難しいのです。

だからこそ、「何のためにそうしなければならないか」「なぜそれが必要か」といった、Whyが十分考えられた上で、「何をすべきか」というWhatが必要です。「どうすべきか」のHowだけではお客様の心に響くサービスは実現できません。

しかし、もし仮にスピードや利便性など機能的なサービスこそが大切と考えるならば、テクニカルなマニュアルによって徹底的にその機能的要素に磨きをかけ、サービスレベルを上げていけばよいでしょう。

やりがいが人と組織を変えていく

「なぜそうしなければならないか」「なぜそれが必要か」を認識して行動する人とは、言い換えれば〝やる気〟を持っている人といえます。

やる気を広辞苑で引くと「物事を積極的に進めようとする目的意識」と書かれています。とするならば、何のためにという〝目的〟と、どのような状態を目指すかという〝目標〟が明確で、さらに、積極的にそれを成し遂げたいという強い思いや意思が働いている状態を「やる気の高い状態」というのではないでしょうか。

やる気を引き出すことは仕事の成果を高めるために不可欠ではありますが、それには〝やりがい〟が必要になります。

やりがいとは、「するだけの値打ち」と辞書に書かれています。値打ちがあると思うからこそ、やってやろうという意欲も生まれてくるのです。

しかし、仕事に価値を見出せない人が多いのは事実です。残念ながら自分の仕事が何の役に立っているかを理解せずに、表面的な部分だけを見て自分の仕事を卑下してしまう人もいます。

リンカーン元米国大統領は「世の中には卑しい職業はなく、ただ、卑しい人がいるだけである」と言っています。彼が言わんとしたことは、要は本人の気持ち次第だということです。

ディズニーランドで園内のゴミを掃除するスタッフは、自分の仕事に誇りを持っていることで有名です。彼らは、ネガティブに見れば誰もができる「掃除係」です。しかし、彼らはディズニーランドにおいて重要な役割を担っていることを自覚しています。周囲の人もそのことを認めていますし、お客様からのお褒めの言葉や賞賛もあります。これらが、彼らの仕事にプライドを与えているのです。

しかし、初めから周りの認知や顧客の賞賛があったわけではありません。初めは、自分たちの仕事が大切なものなのだという自覚から始まり、行動を変え、その仕事を価値あるものにしていきました。彼らは、やるだけの値打ちに気付いた人たちなのです。

仕事は、その人の心の持ちようでやりがいと誇りを持てる仕事にもなるし、逆につまらなくもなります。

有名な「2人の石工」の話を紹介しましょう。ある日、石切り場で石を切り出している石工2人に、「あなたは何のために仕事をしているのですか」と尋ねました。1人の石工は、「毎日つまらない仕事をしているんだ。生活のために仕方なくこうやって働いているのさ」と答えました。そして、もう一方の男に同じ質問をすると、「いいことを聞いてくれた。僕はね、ここで白亜の大聖堂を作る手伝いをしているんだ。素晴らしい仕事さ」と答えたということです。

どちらも同じ仕事なのに、その仕事の価値を認めてやりがいを持っているかどうかで、こうも仕事に対する認識が変わるのです。

スターバックスで働く人たちが生き生きとしているのは、自分たちの仕事の価値を知り、誇りを持っているからにほかなりません。

だから、スターバックスはうまくいく。スタバ流リーダーの教科書
毛利英昭
株式会社アール・アイ・シー 代表取締役
ITコーディネータ/キャリアコンサルタント/産業カウンセラー。
東芝グループのコンサルティング会社で業務改革やシステム構築支援、社員教育などの分野で16年間勤務したのち独立。
株式会社アール・アイ・シーを設立。小売、外食業界や中小製造業、ITベンダーのコンサルティングと社員教育などの分野で活動。現在は小売・外食業界の専門誌も発行している。

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