本記事は、毛利英昭氏の著書『だから、スターバックスはうまくいく。スタバ流リーダーの教科書』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

組織再編
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スターバックス流の考え方

「スターバックスにとっての最優先事項は社員を大切にすることである。なぜなら、社員はわれわれの情熱を顧客に伝える責任を担っているからだ。この第一の課題をクリアすれば、顧客を大切にするという第二の目標も達成されるだろう。そして、この2つが共に達成されてはじめて、株主に長期的な利益をもたらすことが可能になるのである」

ハワード・シュルツ『スターバックス成功物語』(日経BP社)より

スターバックスの人事制度の特徴

結束力の強い組織とは、信頼関係でしっかり結ばれている組織のことです。ヒエラルキー型の組織の中で、年功序列でポストが与えられ、終身雇用制度に守られるということだけが組織を維持する力となっているような時代は終わりつつあります。これからはスターバックスが目指す組織のように、お互いに尊敬し信頼し合う人間関係によって結束力を高めた組織と、人間同士の相互補完によって組織的能力を高めていくような組織作りが求められてくるのではないでしょうか。

こうした人間関係を大切にする組織運営のベースになっているのが、前述のコーチングでありコンピテンシーという考え方です。ここではスターバックスの人事制度全体について、まずその特徴を見てみましょう。

スターバックスコーヒージャパンの人事制度は、存在意義や価値観を表すミッションステートメントを最上位に掲げ、それをブレークダウンしたコンピテンシーを中心に置き、評価制度や人材開発などすべての人事制度が組み立てられています。

その柱として、4つの基本的考え方が示されています。

(1)Employer of Choice となるための仕組み作り
働きやすく魅力的な職場環境を作り上げ、働く人に選ばれる会社となるように人材マネジメントシステムを築くことを表しています。顧客価値の最大化をもたらすためには、顧客満足度を高める努力が必要ですが、顧客にそれだけの価値を提供するのは生き生きとしたパートナーであり、彼らを迎え入れ育てあげる仕組みを考えようということです。
(2) Pay for Fairness を実践するという考え方
期待される成果を明確にし、それを正しく評価し、処遇する仕組みを構築することです。ケーススタディによる評価者の研修を徹底的に行い公平な評価を行います。
(3)Psychological Benefit を創出する組織マネジメント
従業員の処遇は経済的な安定だけでなく、精神的に安心して働ける環境も提供する、人に優しい企業となることを目指しています。
(4)Mission Management を可能にする
企業価値を継続的に高めていくためにも、人事処遇の軸がぶれないようにするためにも、ミッションを機軸に人事諸制度を含めた社内のシステムを構築していきます。

(出典:神戸大学大学院経営学研究科社会人MBAコース・ビジネスシステム応用研究ミニプロジェクト発表会資料)

このようにスターバックスでは常に人を中心に据えた考え方に基づき、パートナーの成長を促す人材育成制度や評価制度が作られ、納得性の高い報酬制度に結び付いた人事制度が構築されています。

会社は従業員を大切にしているというメッセージを諸制度の中に取り入れ、それによって従業員は会社の思いを感じ、ミッションを理解し、ミッションに沿って行動するという好循環が生まれているのです。

自律型組織を目指すスターバックス

人材マネジメントを仮に2つに大きく分けるとするなら、「指示命令型」と「自律型」に大別できます。

「指示命令型」とは、ピラミッド構造を持つ組織の中で、トップからボトムに向かう指示命令を中心としたマネジメントが行われます。オペレーショナルレベルへの権限委譲は弱く、前線で意思決定されることも、ボトムアップで会社の方針が決められることもありません。日本がかつて米国に学んだチェーン理論にもこうした考え方が色濃く反映されています。

起業して間もない会社はその典型で、トップが社員に対して「何をすべきか」と「どのようにすべきか」について、逐一自分の考えを伝えて指示命令を下します。そしてそれが遂行されたかどうかを逐一チェックし、コントロールします。従って1人のトップによって動きが決まるため、カリスマである個人の求心力とマネジメント力によって組織の生死は決まります。

そして、会社が次第に大きくなり、複数の店舗を構え、まさしくチェーン化すると、組織の末端にまで目が届かなくなり、創業カリスマによる指示命令型の統制に限界が見えてきます。

そこで、繰り返し行われる作業を中心に仕事の単純化と分業化が進められるようになり、トップの指示命令に替わって、細かい部分に関してはマニュアルが仕事の進め方を代弁することになります。チェーン型をスポーツで例えると、サインプレーを中心とする野球チームといえるでしょう。

一方「自律型」とは、多店舗展開しているか、していないかにかかわらず、トップマネジメントからは基本的な方針や目標を示されるだけで、具体的に「何をどうやるか」についてはミドルマネジメント、あるいは各人が考えて行動します。

常に、会社のビジョンや方針と照らした上で何を行うべきかを自ら考え、相互に合意の上に数値、あるいは質的な目標を定め、自己統制しながら目標達成を目指すのが自律型の組織です。

スターバックスの目指す人材マネジメントスタイルはどうかといえば、このサッカーチーム的な「自律型」の組織です。

確かにスターバックスには、ハワード・シュルツというカリスマが存在し、その個人の価値観が組織の中でも唯一絶対のものとしてミッションステートメントなどのメッセージとなり掲げられています。しかし、何をどのように進めていくかについては、自主性を大切にした委任型のマネジメントにより自律型の組織を作っています。

ここ十数年で、こうした自律型の人材マネジメントを標榜する会社が増えました。しかし、マニュアルレスなど表面的なところだけ真似ている会社が多いように思います。

スターバックスに見られるほど、自律性とそれを厳しくマネジメントするシステムの両方を兼ね備える企業は少ないのではないでしょうか。

だから、スターバックスはうまくいく。スタバ流リーダーの教科書
毛利英昭
株式会社アール・アイ・シー 代表取締役
ITコーディネータ/キャリアコンサルタント/産業カウンセラー。
東芝グループのコンサルティング会社で業務改革やシステム構築支援、社員教育などの分野で16年間勤務したのち独立。
株式会社アール・アイ・シーを設立。小売、外食業界や中小製造業、ITベンダーのコンサルティングと社員教育などの分野で活動。現在は小売・外食業界の専門誌も発行している。

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