本記事は、毛利英昭氏の著書『だから、スターバックスはうまくいく。スタバ流リーダーの教科書』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

クエスチョン
christianchan / stock.adobe.com

競争力の高い組織を作る

「われわれがペプシと提携して設立した合弁事業は、2、3年のうちに瓶入りフラペチーノなど新製品の販売によって、現在のスターバックスの年間総売上を上回る10億ドル以上の収入を上げるだろう。しかし、われわれの企画は利益を上げることにとどまらない。わが社を支えている基盤は成長だけではないからだ。情熱と真心で結ばれた社員、顧客、株主との絆こそ、わが社の重要な基盤なのである」

ハワード・シュルツ『スターバックス成功物語』(日経BP社)より

コアコンピタンスとしての人材

これまで多くの企業は、職務中心の人事制度をとってきました。職務記述書によって役割、権限、責任を明確に示し、職務記述書を評価や処遇の基盤としてきました。しかし、職務(ジョブ)中心の考え方では、急速な市場の変化や技術革新に柔軟に迅速に対応することが難しくなってきています。

また、職務中心の考え方では、組織の柔軟性が失われ、ビジネスチャンスを逃しやすく改革も妨げられやすいという認識が広まり、脱ジョブ化が進み、職務記述書によって従業員を管理するといった考え方が弱まってきています。そして、企業が大切にする価値観や達成すべき目標を基軸として、組織目標に対しての高いコミットメントを原動力にする組織を目指すようになってきました。

また、それを達成するために従業員を雇用者として見るのではなく、共に目標に向かって進んでいくためのパートナーとして位置付ける考え方も広まっています。

市場のニーズにタイムリーに対応するには、複雑で何段階にもおよぶ階層構造で上から下へと指示や命令が伝わっていくような組織ではなく、顧客との接点において何をどのようにすべきかを即座に判断し対応できるような組織が求められ、それに応じた権限委譲も進んでいます。

またさらに、上が下を常に監視して管理するような組織マネジメントではなく、自己統制を軸にした自律型組織作りが必要になってきました。こうした組織では、チェックマンとしての管理者は不要であり、上司は管理、コントロールする役割から、コーチとして部下をサポートする役割を果たすようになります。スターバックスの組織もその1つといえるでしょう。

ポーターの戦略論に代表されるように、企業の外部環境を主たる分析対象とし、外部環境に存在する機会や脅威を認識し、それに対してどのように対応するかを中心的課題としてきた1980年代に代わって、1990年代には企業が内在する強みを焦点にした、内部環境を重視する戦略論へと変わってきています。

その理由は、曖昧模糊とした市場ニーズや多様化する環境要因に対して、外部環境重視だけでは競争優位を構築するのが難しくなったためです。

だから、スターバックスはうまくいく。スタバ流リーダーの教科書
『だから、スターバックスはうまくいく。スタバ流リーダーの教科書』より引用

持続的な競争優位を確立するには、企業に内在する中核的な力であるコアコンピタンスを基軸とした、他社に真似の難しい優位性を持ち、ビジネスを展開すべきであるという考え方が重要になったのです。

スターバックスの競争優位性は、自分たちのビジネスをピープル・ビジネスであると定義し、福利厚生など労働環境の整備だけでなく、優れた人材マネジメントシステムを作り上げたところにあります。組織風土に根ざした人材マネジメントは、形だけ真似してもうまく機能することはありません。ここにスターバックスの競争優位性があるのです。

企業は人なり

今、多くの企業が顧客本位の経営、競争優位、そして卓越した業績を目指すため、業務改革や情報マネジメントの再構築といった経営改革を進めています。ところが、「会社を変えよう」と旗印を掲げ改革を進めながら、いざ自分たちの仕事のやり方も変えなくてはならないと気付いたとたん、「時期尚早である」とか、「もっとよく考えてから進めよう」とか、抵抗を示すことがままあります。すなわち、「総論賛成・各論反対」がせっかくの改革を台無しにしてしまうのです。

なぜうまくいかないのでしょうか。「企業は人なり」という通り、仕組みだけで会社がはないからです。人がいて仕組みが機能します。すなわち、改革には企業風土や組織的能力、人の意識や人間性が深くかかわっているからにほかなりません。

かつてドラッカーは、人間関係論に対して「人間の側面だけに焦点を当てたマネジメントは危険である」と批判したことがあります。泣き止まない子供に飴玉を与えて黙らせるようなものだというのです。

人間関係論とは、人間は、同僚や上司との関係など、友情や帰属感、安定感などの社会欲求を持ち、それによってこそ動機付けられるという仮説に立つものでした。

しかし、ドラッカーが批判したのは、初期の人間関係論であり、今の社会では自己実現の欲求という、成長に対する欲求が最も高く重要です。

人間関係が良好なことだけで業績が上がることはありませんし、能率とコストだけ追求しても企業の繁栄はありません。感情を持つ人間の心をよく理解し、人間の欲求と組織の目標が結び付くような方向に導くマネジメントが必要です。

スターバックスでは、こうした考え方の上で人材開発が行われ評価制度が確立されている上、必要な知識や技能を自ら学習しようとする風土が醸成され仕組みが確立されています。業界や仕事内容にもよりますが、これほどまでに卓越したシステムを持つ流通サービス業界の会社は、そう多くはないように思います。スターバックスのコアコンピタンスはこの人材マネジメントにあるともいえるでしょう。

だから、スターバックスはうまくいく。スタバ流リーダーの教科書
毛利英昭
株式会社アール・アイ・シー 代表取締役
ITコーディネータ/キャリアコンサルタント/産業カウンセラー。
東芝グループのコンサルティング会社で業務改革やシステム構築支援、社員教育などの分野で16年間勤務したのち独立。
株式会社アール・アイ・シーを設立。小売、外食業界や中小製造業、ITベンダーのコンサルティングと社員教育などの分野で活動。現在は小売・外食業界の専門誌も発行している。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます。
ZUU online library
※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます。