本記事は、毛利英昭氏の著書『だから、スターバックスはうまくいく。スタバ流リーダーの教科書』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

人の持ち味を活かして育てる

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教育の中にもミッションが息づく

スターバックスで行っている人材開発は、「OFF―JT」(Off the Job Training)の教育プログラムにしろ、日常業務の中で学んでいく「OJT」(On the Job Training)にしろ、教える側と教えられる側に分かれて教育するという単純なものではありません。教えられる側の主体的に学ぶ姿勢を大切にして〝学習〟しようとする意識を植え付け、学習する本人が意欲を持って学習に取り組む組織作りを目指しています。

また、すべてのパートナーは学ぶ人であると同時に学ばせる人、教える人となり、双方向の学習で相互に補完する関係を作り、互いの能力を高め合うことを大切にしています。

こうした人材育成の考え方のベースになるのも、やはり、お互いに尊敬と威厳をもって接しようという、ミッションステートメントの精神です。

スターバックスでは、「あいつはダメなやつだ」と見切ってしまったり、能力がないからといって諦めるようなことは一切ないといいます。「彼もきっとやればできるんだ」と相手の力を信じて教育に当たっています。

「君はやればできる。君は絶対できる」と、パートナーに自信を付け、行動と努力を促します。

自信が付けば一生懸命に努力するようになりますし、もっと高い目標を目指そうという意欲も湧いてきます。

そもそも、人間の能力はいつ花が開くか分かりません。「目から鱗が落ちる」ということわざがあります。あることをきっかけとして、急に物事の真相や本質が分かるようになることをいう例えですが、人間の能力についても同じことがいえます。

某オリンピック選手を育てたコーチによれば、選手の能力は緩やかな上昇線をたどって伸びていくようなものではないといいます。ある日突然、壁を突き破ったように大きく力を伸ばし飛躍するのだそうです。ですから、教育には忍耐が必要なのです。

いくら一生懸命やっても一向に伸びない時期が長く続くと、つい諦めそうになるものです。教えても教えても、何度も繰り返して口を酸っぱくしても、自分の思い通りにならないと嘆くリーダーもいます。しかし、忍耐強く決してあきらめずに努力を続ければ、必ず成果はついてきます。

女子ソフトボールの宇津木監督は、「相手のことを真剣に思うなら、自分の思いを伝えたいと心から願うなら、言葉にして、行動するしかない。受け入れられないこともある。拒絶されることもある。ただその思いが真剣で、誠実なものであれば、心は必ず通じる。必ずしも自分の思う結果に結び付くとは限らないが、少なくともその心の熱さや思いの真剣さは人の心を動かすだろう」と、教える立場にある者が誠意を持って事に当たれば、きっと相手の心を動かすことができると言っています。

後述するスターバックスの教育方法を見てまどろっこしいと思うかもしれませんが、教育が人を作り会社を支え、社風を決定付けていく大きな要因である以上、人の育成に手抜きはできないはずです。

教育に活かされるコーチング

人間は誰でも、良いところと悪いところを併せ持っています。心の中では良いところに目を向けようと思っていても、ついつい欠点ばかりに目が向いてしまうものです。

部下の仕事ぶりを見ては、動作が遅い、陳列が雑だ、言葉使いがぞんざいだなどと、どうしても問題を指摘し注意することが多くなります。中には心を鬼にして、愛情を持って叱ったり正したりする人もいるのは事実ですが、嫌味なチェックマンとなってしまっている管理者や教育係も多いのではないでしょうか。

しかし、完璧な人間などいるはずがありません。それぞれ持ち味があるわけですから、問題を注意する一方で、良いところにも目を向け褒めることで長所を活かすようにしたいものです。

褒めてもらえば自信が付き、やれる気持ちになります。やれる気持ちになり、やった成果が見えてくれば仕事が面白くなります。仕事が面白くなれば、もっとやってやろうと欲が出ます。それがやる気です。教育でもこうした気持ちをパートナーに教えていくことが求められます。

スターバックスでは、人材を育成するためのコミュニケーション技術としてコーチングを取り入れ、教育プログラムの中でも主要な要素として活かしています。

コーチングを簡単に説明すると、相手の良いところに目を向け、持ち味を活かして能力を引き出したり目覚めさせるための行動や言葉による働きかけのことです。具体的には、相手の存在を認めることから始まり、観察し、話を聴き、理解し、信頼し、任せてあげることです。そうすることで、相手の良いところを伸ばし、今まで眠っていた潜在的な力を引き出すのです。

「して見せて、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば人は動かじ」は、日本海軍を率いた山本五十六いそろくの言葉ですが、これはコーチングの極意でもあります。

スターバックスでは、教育の中でもミッションステートメントの精神に基づき、コーチングの考え方を取り入れながら教育システムを構築しています。

だから、スターバックスはうまくいく。スタバ流リーダーの教科書
毛利英昭
株式会社アール・アイ・シー 代表取締役
ITコーディネータ/キャリアコンサルタント/産業カウンセラー。
東芝グループのコンサルティング会社で業務改革やシステム構築支援、社員教育などの分野で16年間勤務したのち独立。
株式会社アール・アイ・シーを設立。小売、外食業界や中小製造業、ITベンダーのコンサルティングと社員教育などの分野で活動。現在は小売・外食業界の専門誌も発行している。

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