この記事は2023年4月14日に「第一生命経済研究所」で公開された「値上がりしない食料品は何か? 」を一部編集し、転載したものです。


SDGs目標のフードロスと日本の現状 食品関連企業の廃棄対策は急務
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目次

  1. 和の食材は「物価安定の王様」
  2. 値上がりしにくい「お酒」
  3. 外食も上がりにくい
  4. 好循環に巻き込めるのか?

和の食材は「物価安定の王様」

最近の物価上昇の傾向は、食料品値上げに象徴される。たとえエネルギー価格が下がっても、今後とも食料品の値上がりは続くだろう。そこで、筆者は、コロナ禍(2020年1月~2023年2月)での価格変動が小さい品目のランキングを調べてみた(図表1)。総務省「消費者物価」の品目別指数を調べて、価格指数の変動係数(=標準偏差/平均)の小さい品目をリストアップした。その上位ランキングのトップ20品目では、和の食材が目立っていた。干しのり(1位)、梅干し(6位)、干ししいたけ(9位)、かつお節(10位)などがある。和の食材である。それらは、「ご飯のお供」の品目も多い。和の食材は、「物価安定の王様」という評価もできる。

第一生命経済研究所
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しかし、なぜ、ご飯=米に関連する食材の値上がりが見られないのか。その理由を考えると、米の需要が減退しているからだという見方ができる。米の消費支出額は、総務省「家計調査」では、20数年来、ほぼ一貫して減少している(図表2)。消費額を2022年/2000年で比べると、▲50.8%も減っていた。これは、需要減=価格下落という図式なので、あまり喜べない。米の需要が減ると、米の補完財である「ご飯のお供」もひきずられて需要減になる。

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調べてみると、米類の価格変化でも同様に下落していた。直近3か月(2022年12月~2023年2月)の価格水準を、コロナ前(2019年平均)と比較して、減少していた食料品の品目で値下がりランキングをつくると、生鮮食品を除いた分野では学校給食が最も下がっており、次いで米類が大きく下がっていた(図表3)。

なお、学校給食は、父兄の負担が重いという批判を受けて、自治体には給食費無償化を実施する先が増えていることがある。学校給食費は、値上がりどころか、公的支援によって平均値が値下がりしているのが実情だ。

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値上がりしにくい「お酒」

実は、変動係数が小さい品目には、お酒=アルコール飲料も挙げられる。ウイスキー(3位)、焼酎(4位)、ワイン・国産品(15位)、ワイン・輸入品(16位)である。非アルコール飲料では、緑茶(8位)、果実ジュース(19位)がある。

なぜ、アルコール飲料の価格が安定しているのかという理由は、和食と同じような事情がある。若者などの需要が低迷していることがある。消費額の2022年/2000年の比較では、▲11.2%の減少であった。すでに、若者のアルコール離れが言われて久しい。消費者の中で若者が増えなくなるとどうしてもシニアへの依存度が高まる。そうすると、年金生活者の所得は増えにくいので、値上げがしにくくなると考えられる。

外食も上がりにくい

巷間、ここ1・2年の食料品の値上がりの中で、外食分野の上昇が目立つようになったと言われる。しかし、統計データはそれをあまり支持しない。確かに、2022年に入って外食の価格上昇は進んだが、相対的にまだ変動率は大きくないのである。

その事情を考えると、コロナ禍で外食サービスの支出が著しく絞られた時期があるからだろう(図表4)。まだ、その打撃が残っていて、思うように値上げができない飲食事業者が多いのだろう。

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外食分野の価格変動を知るために、消費者物価の外食・品目に絞って、変動係数のランキングを作ってみた(図表5)。変動率が小さいのは、スパゲッティ、カレーライス、フライドチキンが挙げられる。小麦価格が2022年春から大きく上がっているが、それを使った外食産業では価格は比較的安定している。

ならば、今後、サービス活動が2023年春以降に復調してくると、それに連動して外食の値上げが進んでいく可能性が高いとみられる。

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好循環に巻き込めるのか?

以上のように、①和の食材、②アルコール飲料、③外食は、需要の弱さを背景にして、価格変動が相対的に小さかった。今後、仮に、物価上昇率が安定的に2%を超えて推移していくと、今まで値上がりが起こりにくかった分野でも価格上昇が起こるのだろうか。

仮に、そこで経済の好循環が生じるとき、やはり価格上昇は進むと考えられる。2023年春からは、年金受給額が68歳以上で前年比1.9%増額されている。大企業では、賃上げが実施されるところも少なくない。インバウンドの消費額も急速に増えるだろう。5月8日からコロナ分類が5類に見直される。これらの諸要因は、需要本位の物価上昇を促すだろう。中堅・中小企業の価格転嫁が促進されるということでもある。

筆者は、現在、まだそうした好循環が働いていないタイミングで、食料品価格の動向を調べてみた。今後、マクロの好循環が働き始めたとき、再び同じような分析を行ってみて、細かな価格変動の動向をレポートとすることにしたい。

第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生