この記事は2023年4月24日に「第一生命経済研究所」で公開された「外食インフレに襲われる家計」を一部編集し、転載したものです。


レストラン
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目次

  1. 食費コストは年間5.4万円増
  2. ファストフードの値上がり
  3. 28年前に戻った価格水準
  4. 単身者のインパクトが大きい
  5. フード系の時給も上昇

食費コストは年間5.4万円増

物価高騰の中心は、食料品の値上がりである。2023年3月は、総合指数の前年比3.2%に対して、食料品は同7.8%であった。さらに一般外食(外食から学校給食費を除いたもの)は同7.6%だった。

第一生命経済研究所
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過去1年間について、2022年度の総務省「消費者物価」と、「家計調査」(2人以上世帯)を使うと、家計(2人以上世帯)に過去1年間でどのくらい値上げの負担増がのしかかったかが計算できる。2022年度の食費の負担増を計算すると、約5.4万円(月平均4,500円)になっていた。

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さらに、その内訳を調べていくと、一般外食(学校給食を除いた外食)が年間で約7,000円と大きかった(図表1)。次いで、調理食品、菓子類も大きい。原材料ではなく、加工された品目への波及が食品分野で進んでいることを示している。

食品値上げは、単なる輸入材料のインフレから、加工された国内製品へと価格転嫁されて、幅広く波及している。食品分野では、川上からのコストアップに耐えられず、すでに川下のサービス価格(一般外食はサービス価格)にまでインフレ圧力が伝わっているのである。

ファストフードの値上がり

一般外食の値上がりの内訳を調べてみた(図表2)。消費者物価では、外食には23品目があり、その中で2023年3月に最も上昇率が大きかったのは、ハンバーガーであった(前年比24.6%)。次に、フライドチキン(同16.0%)、すし(同15.1%)、ピザ(同10.1%)、コーヒー(同10.0%)と続く。外食のうちよく見かけるファストフード店での値上がりが著しいことがわかる。

では、なぜ、ハンバーガーの値上がりが目立つのだろうか。理由はその原材料になる品目の高騰を受けているからだ。輸入牛肉は前年比11.9%、食用油は同24.3%、ケチャップは同22.6%、鶏卵は同29.4%、パンは同7.5%と、ハンバーガーの原材料は軒並み上昇している。外食のハンバーグも前年比7.4%の上昇である。

フライドチキン、すし、ピザ、コーヒーの上位4品目でも、同様に原材料の品目の値上がりが大きいことがわかった(図表3)。2022年から世界的な市況高騰の影響を受けやすいのは、海外の外食フランチャイズであった。世界価格が上がるから、日本での販売価格もそれに引きずられやすい。

一方でまだ価格上昇率が小さいのは、和風の外食フランチャイズである。外食23品目のランキングでより値上がり幅が小さいものを挙げると、牛丼の前年比3.3%、中華そばの同4.7%、しょうが焼きの同5.5%、やきとりの同6.1%となる。もちろん、これは相対的な関係であり、和風の外食でも過去に比べて大きなコストアップ圧力にさらされている。しかし、値上げペースに違いがあるところをみると、そこには外資系企業と日系企業の間における値上げの許容度の差が表れている可能性がある。

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28年前に戻った価格水準

現在、価格上昇率が最も高いのがハンバーガーであることは、デフレの終わりを象徴している。なぜならば、1990年代後半以降、デフレ経済を象徴していたのは、ハンバーガーの値下がりだったからだ。その推移をみると、1995年以降の過去28年前の価格水準に戻ってきている(図表4)。ハンバーガーでは、一度の値上がりではなく、数度の値上がりによって価格水準がかなり上がっている。宅配ピザなどは、これまで安定してきた価格が、ここにきて上昇している。

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単身者のインパクトが大きい

家計の中で、外食の値上がりが大きな負担増になっているのは、どういった属性の世帯主なのだろうか。一般外食費/消費支出の割合(2022暦年)を属性別に調べてみると、若年層ほどその割合が高かった(図表5)。特に、若年・単身者の割合は高い。単身世帯の世帯主年齢が34歳以下では、男性が10.3%、女性が6.1%と高い割合だった。驚くのは、34歳以下の単身・男性は、食費のうち43.1%が外食費であった。食費の半分近くが外食だから、自ずと外食の値上がりの負担増も大きくなる。34歳以下の単身・女性は、より自炊する人が多いので、32.6%と男性よりは低い。それでも、この割合は高いとみられる。

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反対に、2人以上世帯でも、単身世帯でも、シニア層は外食/食費の割合は低い。2人以上世帯のうち、世帯主が70歳以上は10%未満である。これは、自炊することだけではなく、そもそもシニアは外食には多くのお金を投じないことを表しているのだろう。34歳以下の単身の男女は、食事に行って友人などと楽しむことが多いから、外食の負担がより大きいのだと理解できる。

フード系の時給も上昇

興味深いのは、外食サービスの価格が上昇すると、単に販売価格が上昇するだけではなく、そこで働くパート・アルバイトの時給も連鎖して上がっていることだ。リクルートが発表している3大都市圏のアルバイト・パート募集時平均時給調査レポートでは、全体平均よりも、フード系(外食)の時給が大きく上がっていた。全体平均の時給上昇率は、2023年1月は前年比2.9%、2月同2.1%、3月同2.1%であった。フード系は、2023年1月は同5.0%、2月同5.3%、3月5.2%と高かった。このことは、値上げの原因が原材料コストの上昇であったとしても、販売価格を引き上げることが可能になれば、人件費の引き上げも容易になるということだろう。これは、コストプッシュ・インフレが時間が経過していけば、賃金上昇を促していく可能性を示唆している。

第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生