この記事は2023年4月27日に「第一生命経済研究所」で公開された「新・将来推計人口がまさかの上方修正に」を一部編集し、転載したものです。
新・将来推計人口:なぜ総人口は上方修正となったのか?
26日に国立社会保障人口問題研究所から、日本の将来推計人口が公表された。将来推計人口は5年おきに公表される国勢調査にあわせて改定が行われる。前回は2017年に公表されており、今回公表されたものはその改訂版である。
本稿では、この改定された将来推計人口(出生・死亡中位仮定)が前回の推計からどう変わったのか、にフォーカスする。足元では、2017年推計の想定(出生中位仮定)よりも出生数の減少が加速している。しかし、2065年の将来推計人口は2017年推計では8,808万人とされていたところ、今回の2023年推計では9,159万人とされた(資料1)。現在から減少していく見込み自体は変わらないものの、まさかの上方修正となっている。
なぜか?外国人流入の仮定が大きく変更に
なぜ上方修正がなされたのか。細かく数字を見ていこう。人口増減は出生と死亡による「自然増減」と国内への流入・国外への流出による「社会増減」の大きく2つに分解できる。資料2は、2023年推計と2017年推計の出生数・死亡数・社会増減の値をそれぞれ見たものだ。これをみると、2023年推計の出生数は足元の減少を踏まえて全体的に下方修正がなされていることがわかる。死亡数はほとんど変化がみられない。大きな変化がみられているのは社会増減の部分だ。これはおおむね外国人の流入者数増加に対応する。今回の推計では外国人の国際移動について2016―19年の平均的な値が続くものと想定されている。この間、外国人労働者の受け入れ拡大などによって外国人の流入が増加しており、その反映がなされた結果として、2017年推計の前提よりも社会増が倍以上の値となっている。
資料3は自然増減と社会増減の各年の累計値について、2023年推計と2017年推計の差分をとった値の推移である。自然増減は下方修正されている一方で社会増減がそれを上回る形で上方修正されており、人口全体で上方修正がなされている。総人口に占める外国人の割合も大きく変わっており、前回推計では2065年時点で4.7%とされていたところ、今回は9.8%、2070年時点では10.8%と1割を超えている(資料4)。外国人流入が増える前提に変更されたことが、2023年推計が「まさかの上方修正」となった理由である。
年齢構成の変化は?
人口動態を考えるうえでもう一つの関心事は、人口の年齢別のバランスがどう変化したのか、である。資料5では「0-14歳人口」「生産年齢人口(15-64歳)」「高齢者人口(65歳以上人口)」が総人口に占める比率について、2023年推計と2017年推計の値を比較している。
これをみると、0-14歳や高齢者といった従属年齢人口の比率が2023年で下方修正され、生産年齢人口の比率が上方修正されていることがわかる。労働力や社会保障財政のバランスの観点でもポジティブな方向への修正となっている。
これも外国人の前提によるところが大きい。資料6は外国人人口の将来推計値の新旧比較である。外国人の流入は外国人労働者の増加によるところが大きく、流入するのは若い世代の人たちが中心である。将来にわたってもそうした若い外国人の流入が続くと想定されているため、生産年齢人口の上方修正につながっている。
楽観的だと考える2つの理由
基本的に、この将来推計人口は現状を踏まえた投影(Projection)であり、予測ではないものと説明されている。数値の仮定に恣意性が極力混じらないように配慮されており、機械的に作られる部分も多いものだ。ただ、実際の政策立案においては、将来人口の前提として用いられるケースも多く、数値が大きく外れるとミスリードを生むことにもなる。
筆者は今回の出生・死亡中位前提の推計値は、実際に見込まれる数字に比べるとやや楽観的でないかと考えている。まず、第一に今回の上方修正の主因となった外国人流入の前提である。2016~19年の比較的流入が多かった時期が前提に用いられているが、長期的にそれが続くかどうかは不透明な部分が大きい。日本の外国人受け入れ政策の動向にも大きく左右されるが、基本的に日本が外国人労働者を多く受け入れてきた新興国では成長余力が大きいため、自国の賃金水準が次第に日本に追いついてくることになる。資料7は日本の最低賃金/各国最低賃金の値を「出稼ぎ魅力度指数」としてその推移を見たものだ。長い目線では多くの国で低下傾向にあることがわかる。自国の賃金が日本の賃金に追いついてくることで、日本で働く魅力は薄れていくことになる。加えて、韓国など近隣諸国でも少子化・高齢化・人手不足といった同様の人口問題を抱える中で外国人材の受け入れを強化している。長期的に同様の流入が続くかどうかは慎重に見ておいた方が良いと思われる。
第二に、足元の出生数減少が「コロナ要因で一時的なもの」だと仮定されている点である。資料8では合計特殊出生率の仮定値を新旧比較している。目先は低下したのちに2030年ごろには1.3強程度まで戻るものとされている。しかし、合計特殊出生率の低下や出生数減少が加速し始めたのは、コロナは関係しない2019年からである。もちろん、21年・22年の出生数にコロナの影響は及んだと考えられるが、そのうちどれほどが「一時的なコロナ要因」なのかは判然としない。若者の子供を持つことに対する価値観の変化も取り沙汰される中で、出生率が想定のように戻らないリスクは大きいのではないか1。
推計値改定:他の政策への影響は?
今回示された社人研の将来推計人口は政府の行うシミュレーションにも用いられており、今回の2023年版が反映されることで影響が生じうる。将来推計人口が用いられている代表的なもののひとつは、内閣府・経済財政諮問会議で半年おきに公表されている「中長期の経済財政に関する試算」だ。潜在成長率を算出する際の労働投入の前提としてJILPTの「労働力需給の推計」が用いられているが、このベースにあるのが社人研の将来推計人口である。もう一つが5年おきに公表される年金の「財政検証」だ。ここでは年金の給付減額(マクロ経済スライド)がいつまで続き、将来の年金水準(所得代替率:年金額/現役世代賃金)がどうなるかを一定の前提の下で試算する。
今回の試算では労働投入を左右する生産年齢人口が前回推計から上方修正されているほか、それに伴って生産年齢人口/高齢者人口のバランスも改善している。程度はさほど大きくはないだろうが、将来推計人口の反映はこれらの値を改善させるだろう。