本記事は、加藤俊徳氏の著書『頭が良くなっていく人のすごい習慣』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

社会,女性
(画像=Adriana / stock.adobe.com)

頭の良さには種類がある

学校の成績が良いのは「コピー能力」の高さ

以前、いわゆる「難関私立大学」の学生と院生を相手に認知科学の講義をしていた時期があります。毎回の宿題として感想文を提出させていましたが、可もなく不可もなく、どこかから模範解答をコピー&ペーストしたかのような感想文ばかり。

「加藤先生が〇〇と言った、それで〇〇だと知りました」というだけでそつのない文章なので不合格にはできない。しかし、私の講義をどう受け取り、どう思うのかということが書かれておらず、点数を付けるとしてもせいぜい60から65点ほどでした。

同じことがビジネスの世界でも横行しています。著作権侵害などは訴訟に至らないものを含めると、私個人の周辺だけでも頻繁に起こっています。そういうことをする人たちは先ほどの学生たちと同じく、コピー&ペーストの能力に長けています。

小中高校の定期テストで問われるのは「教科書をコピーする能力」です。超難関といわれる大学の入学試験でさえ、結局のところ、教科書に書いてあることをどれだけ正確に再現できるかで合否が決まります。

すでにあるものを寸分違わず写し取れる人=頭が良い人だという考えが(全員とは言わないまでも)多くの日本人の間に根深く浸透しているんです。クイズ王がもてはやされるのも、そうした考えの表れです。

私はそれを否定はしません。コピー能力も脳がもつ大切な機能のひとつであり、人間が生きていくために必要な能力であることには違いないからです。

ただ、それが脳が生み出した “完成された” 能力ではない、ということもまた事実です。

既成のものを写し取る能力が高いということは、言ってみれば「模写がうまい」ということです。
『モナ・リザ』を完璧に模写したならば、それはそれでひとつの才能ですが、模写はあくまで模写であり、ダ・ヴィンチを超えることはできません。

にもかかわらず、模写が上手にできることを最終到達点にしているのが日本社会の現状です。自分自身の絵が描けてこそ初めて本当に頭が良いと言えるのに、そうなる前の練習段階で止まってしまっているのです。

IQでは測れない頭の良さも社会活動では重要

学校の成績と並んで、頭の良し悪しを測る目安になっているのが知能指数(IQ)です。

世界で初めて知能検査が行われたのは1905年で、その後、様々な算出方法が考案され実施されています。

知能指数で測れるのは「早く正確にできる」能力です。社会生活で必要なコミュニケーション能力や忍耐力、創造力などは対象になりませんので、知能指数だけが頭の良さや仕事の成果に影響するのではないことは明らかです。

つまり、IQは人の総合的な能力を正確に反映するものではないのです。

また、知能検査と同じような課題を日頃から訓練していれば、当然ながら成績は上がります。IQが高い人が学校の成績も優秀である場合が多いのは、学校で勉強することと知能検査の内容が似通っているからにすぎません。

スペシャリストは頭の回転が速い

知能テストで問われるのは、頭の中で情報を処理するスピード、すなわち「頭の回転の速さと正確性」です。

脳の情報処理速度は、継続的に携わっていることに関しては上がっていきますが、やらなくなると確実に落ちます。頭の回転を速くしたいなら、繰り返し携わり続けるしかありません。スポーツ選手が毎日欠かさず練習するのはそのためです。

また、脳が忘れるスピードは筋肉が衰えるスピードよりも急速です。だから、野球選手は野球のことだけ考えろと言われるし、ピアニストならピアノのことだけ考えろと言われるんです。「意識を向けたものが引き寄せられる」とはまさにこのことで、投資家は儲けることだけ、受験生は合格することだけというふうに、あることを集中的に考えていると脳のパフォーマンスが上がります。

なんらかの分野で飛び抜けたスペシャリストになる人は、このような一点集中型の脳の使い方を徹底している人たちです。

その代わり、一点に集中しすぎると他分野からの情報が脳に入ってこなくなり、専門外のことに関しては柔軟な対応ができなくなってしまいます。

自分の得意分野とは別の物事が発生したときに、脳内で新しいネットワークをつくらなければならないため、混乱して時間がかかってしまうのです。

アイデアが豊富な人は頭が柔らかい

頭の回転が遅くても、様々な異なる状況において臨機応変に行動できる人は「頭が柔らかい」人だと言えます。

頭が固い/柔らかいというのは要するに思考が凝り固まっているか、柔軟に考えられるかの違いです。頭が柔らかい人ほど「これはこうあるべき」「こうしなければいけない」といった先入観や執着が少なく、物事を広い視野で、他の人とは違った角度で捉えることができるため、他にはない商品の開発や問題に対する意外な解決策など、独自のアイデアを思いつく能力につながっていきます。

自分の価値観を大切にすることは非常に重要ですが、過ぎたるは及ばざるが如しで、何が何でもコレだけが正しい! と過度にこだわると、頭が良くなるチャンスを逃してしまいます。

もう40年ほど前のことですが、大学受験に失敗した私に、叔母が突然「滝行をした方がいい」と言い出しました。最初のうちは苦笑まじりに聞き流していましたが、ふと思い直して、高尾山の滝場へ通い始めました。

受験勉強しかしていないガチガチの浪人生だった私の脳は、28日間の滝行中にいくつも初めての経験をし、それまでとはまったく違う情報に触れて、みるみる柔らかくなっていきました。世界を多角的に見られるようになり、お先真っ暗だった人生観が一変したのです。

山から降りる頃には、気持ちがすっかり前向きになり、自分自身への理解も深まり、医学部に行ってさらに、脳科学を極めたいという目標がますます明確になっていました。

回転の速さと柔らかさは、脳にとっては一種のパラドックスで、両立するのは簡単ではありません。しかし、頭を柔らかくするために新たな経験をすることは、脳全体を活性化する上で欠かせない習慣のひとつです。

ここがポイント
◎頭の良さは数値化できるものだけではない。非言語情報の処理能力、危機対応への柔軟性などテストでは測れない頭の良さもある。
頭が良くなっていく人のすごい習慣
加藤俊徳
脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニング、脳科学音読法の提唱者。14歳のときに「脳を鍛える方法」を求めて医学部への進学を決意。1991年に、現在、世界700カ所以上の施設で使われる脳活動計測fNIRS(エフニルス)法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、小児から超高齢者まで1万人以上を診断・治療。脳の成長段階、強み弱みの脳番地を診断し、脳番地トレーニング処方や進路・適職指導を行う。
著書に『ADHDコンプレックスのための“脳番地トレーニング”』(大和出版)、『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)、『一生頭がよくなり続けるすごい脳の使い方』(サンマーク出版)など多数。

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