この記事は2023年5月12日に「第一生命経済研究所」で公開された「訪日外国人消費額が急劇に回復している」を一部編集し、転載したものです。


訪日外国人
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目次

  1. 中国以外は大幅回復
  2. 「安い日本」効果
  3. 宿泊業へのインパクトは大

中国以外は大幅回復

2023年の景気情勢で上振れ要因として、訪日外国人の消費拡大がある。すでに2023年3月まで実績が発表されている。日本政府観光局によれば、2023年3月の訪日客数は、181.8万人とコロナ前の2019年3月の276万人の65.8%(▲34.2%)まで戻している(図表1)。前年比があと34.2%分ほど戻せば、コロナ前のペースを回復できる勢いである。しかも、これを金額ベースでみれば、2023年1-3月の消費額(1次速報)では、10,146億円と、2019年(11,517億円)比で88.1%(▲11.9%)まで戻していることになる。

第一生命経済研究所
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注目すべきは、その内訳である。まず、国別の訪日客数は、ロシアと中国(除く香港)が2019年1-3月比でそれぞれ▲72.9%、▲93.4%と著しいマイナスである以外は、香港が同▲17.6%、台湾同▲33.9%、韓国同▲23.1%とマイナス幅は小さい。ベトナム同31.3%、シンガポール同15.2%、米国同1.5%のようにプラスの国々もある。要するに、特に中国が大きく押し下げていて、それを除くと▲21.0%にマイナス幅は縮小する。

これを金額ベースでみると、2023年1-3月は▲11.9%(2019年1-3月比)と小幅のマイナスになっている。驚くことにロシアと中国以外の主要18か国(観光庁資料の掲示国)はすべて2019年1-3月比でプラスになっている(図表2)。中国が▲74.8%、ロシアが▲54.6%である。ロシア・中国を除いた訪日消費額は、2023年1-3月は、9,062億円と2019年1-3月比で25.1%とすでに大きく増加している。

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今後、中国の訪日客が戻ってくれば、全体でも訪日消費額はコロナ前を上回っていくだろう。現状、中国は日本向け団体旅行客を解禁していない。しかし、中国は1月から段階的に団体旅行の対象国を増やしている。まだ日本は対象になっていないが、おそらく、それも5月8日のコロナ分類を5類に見直したことで、緩和へと進むはずだ。現状、まだ日本の水際対策に対して、対抗措置を採っているかたちだ。従って、中国の団体客の解禁も近いとみられる。

また、韓国からの訪日客数も大幅にプラスになることが期待される。コロナ前の2019年は、日韓関係が冷え込んでいて、前年比マイナスだった。だから、政権がユンソンニョル大統領に交代し、日韓関係が大幅に改善してくると、2023年は2019年を上回る訪日客が見込めると考えられる。2023年度における訪日消費の伸び代は大きくなると予想できる。

「安い日本」効果

訪日消費は、客数ベースでは2019年比の▲34.2%だが、金額ベースでは▲11.9%とマイナス幅が縮小する。訪日消費額=客数×1人当たり消費額、となっていて、1人当たり消費額が大きく増えていることを示している。

観光庁の「訪日外国人消費動向調査」では、2023年1-3月は1人当たり21.2万円と、コロナ前(2019年1-3月14.7万円)の1.44倍に増えている。理由としては、平均宿泊数が8.5泊から13.9泊に長期化していることがある。宿泊費は、コロナ前の1.7倍に急増している。ほかに、内訳では娯楽等サービス費の支出が3.1倍と大きくなっている。その背景には、円安と海外物価・賃金上昇によって、日本の円ベースの物価が相対的に割安になっていることがある。「安い日本」が、アフターコロナの訪日消費を大きく後押ししている格好である。

観光庁の調査で驚くのは、各国の1人当たり消費額のうち、宿泊費が欧米諸国を中心に、1人10万円以上で破格に大きい(図表3)。もともと欧米人はコロナ前から平均泊数が多いが、それがさらに長期化している格好である。コロナ前よりも長い旅行を楽しむ傾向が強まり、そこに相対的に割安感がある日本が旅行先に選ばれている可能性がある。

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宿泊業へのインパクトは大

筆者は、今後、訪日外国人が2019年と同じ水準(3,188万人)で戻ってくれば、単価の増加と相まって、年間の訪日消費額が6.4兆円まで戻るだろうと試算している(2019年4.8兆円、拙稿2023年4月28日「感染症分類見直しとインバウンド回復の経済効果」)。

おそらく、その恩恵が大きく表れるのは、ホテル・旅館などの宿泊業であろう。今後の訪日消費額の増加が全体で+2.6兆円だとすれば、そのうち3割の約7,800億円が宿泊費の増加に回ると予想される。

そのときには、宿泊業の就業者数も大きく増加することが見込まれる。総務省「サービス産業動向調査」では、2019年度(期中平均)の宿泊業の従業員数が73.5万人だったのが、2022年初は63万人にまで減っていた。直近2023年2月では67.1万人と、宿泊業ではまだ十分には従業員数の復元ができていない(図表4)。今後は、賃金水準を引き上げながらでも、宿泊業の雇用拡大が進んでいくことが展望できる。

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なお、宿泊業では、政府の支援策として全国旅行支援が継続されている。その期限は、各自治体で異なるが、おおむね6月末で終了することになっている。訪日客数が戻ってくれば、こうした支援の延長は行われなくなることも予想される。

第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生