この記事は2023年6月16日に「第一生命経済研究所」で公開された「ガソリン補助金縮小とCPI」を一部編集し、転載したものです。


ガソリン
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目次

  1. ガソリン補助金の縮減でガソリン、灯油価格が上昇
  2. CPIコアを0.2%Pt程度押し上げ
  3. (補足)補助金が25円超のケース

ガソリン補助金の縮減でガソリン、灯油価格が上昇

6月14日に資源エネルギー庁が公表した石油製品価格調査によると、6月12日時点でのレギュラーガソリン価格は169.3円(1リットルあたり)と、前週から0.6円の上昇となった。169円台となるのは22年10月31日調査以来のことになる。また、灯油価格も111.6円(1リットルあたり)と前週から0.4円上昇し、22年11月7日調査以来の水準となっている。

こうしたガソリン、灯油価格上昇の背景には、いわゆるガソリン補助金(燃料油価格激変緩和補助金)の額が6月(5月29日の週)から段階的に縮小されていることがある。従来は、1リットルあたりのガソリン価格が168円程度になるように補助金が支給されていた。たとえば、仮に補助金が無かった場合のガソリン価格が190円になる場合、168円との差額である22円の補助金を元売事業者に支給し、実際の小売価格が168円程度になるように誘導していたのである。また、灯油や軽油等にも同様の補助金が支給され、小売価格の引き下げに繋がっていた。

だが、この補助金が段階的に縮小されることになった。具体的には、補助金が25円以下の場合について、それまで100%だった補助率が、23年5月29日の週からは90%に引き下げられ、それ以降も2週ごとに10%ずつ追加で引き下げられていく。そして9月末で補助率はゼロとなり、(補助金25円以下の場合の)補助金自体が無くなる予定となっている。

5月時点では、補助金支給前の価格は概ね180円程度で推移しており、補助金は12円(180円-168円)程度となっていた。この先原油価格や為替レートの水準が変化しないと仮定すれば、6月以降、補助金が2週間ごとに1.2円程度ずつ縮小し、ガソリンの小売価格もその分だけ値上がりしていくことになる。そして、9月末には補助金が終了し、ガソリン価格は(補助金支給前の水準と同額の)180円程度になる見込みだ。同様に、灯油についても補助金支給額が2週間ごとに1円強程度ずつ縮減されていき、その分、灯油の小売価格も上昇していくことになる。なお、原油価格や為替レートが大きく変化する場合には少し複雑になるが、基本的には、補助金支給前の価格と支給後の価格差が徐々に縮小し、9月末時点で一致することになると考えておけば良い。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

CPIコアを0.2%Pt程度押し上げ

次に、CPIへの影響を考える。この補助金制度の対象となっているのはガソリン、灯油、軽油、重油、航空機燃料であるが、このうち消費者物価指数に採用されているのはガソリンと灯油だけであるため、この2品目のみの影響を見れば良い(軽油、重油、航空機燃料の価格は消費者物価指数に反映されない)。

前述のとおり、この先原油価格や為替レートの水準が変化しないと仮定すれば、ガソリン価格はこれまでの168円から、10月には180円程度まで上昇することになる。同様に灯油価格についても、これまでの111円程度から10月には123円程度に上昇する見込みだ。これは、ガソリン価格で+7%程度、灯油価格で+11%程度に相当する。これを元に計算すると、23年10月以降のCPIコアは、従来の補助金制度が続いていた場合と比較して0.2%Pt程度押し上げられることになる。影響度合いとしては決して小さなものではない。

消費者物価指数は23年後半にかけて前年比で鈍化していくことが予想されているが、企業の価格転嫁意欲は従来の想定以上に強い状況であり、鈍化ペースも緩やかなものにとどまる可能性が高まっている。本稿で述べたガソリン補助金の縮小の影響も考慮すれば、23年中にCPIコアが前年比で+2%を下回らない可能性が高まりつつあると言えるだろう。

(補足)補助金が25円超のケース

本稿では補助金が25円以下の場合(補助金無し価格と基準価格168円の差が25円以下)について述べたが、25円を超える場合には扱いが異なる。25円以下の場合には補助率が段階的に縮小されていく予定となっているが、25円を超えるケースでは、逆に補助率が段階的に引き上げられることになった。25円以下の補助金を廃止する分、25円超の部分について配慮を行うというポーズを示したものである。もっとも、トータルで見た補助金額が減額されること自体は変わらない。

具体的には、補助金が25円超の部分については、従来は補助率が50%だったが、これを2週間ごとに5%ずつ引き上げ、9⽉下旬に95%にすることになっている。

たとえば、補助金無し価格が203円(168円+35円)の場合、補助金25円を10円超過する。従来は、超過分である10円の50%である5円が追加され、補助金は25円+5円で30円となっていた(小売価格は170円)。しかし、今回の改定で25円超部分の補助率が引き上げられているため、超過分10円の95%である9.5円が追加され、補助金は0円+9.5円で9.5円となる(小売価格は193.5円)。

制度が複雑で分かりにくいが、簡単に言ってしまうと、ガソリン価格が193円以下であれば補助金無し、それを超えれば補助金が支給され、小売価格は193~195円になるという仕組みである。補助金発動要件が25円分切り上がった形だ。

なお、補助金が25円を超えるには、原油価格が100ドルを超えたり、為替レートが急激に円安になったりといった事態が生じることが必要となる。とりあえず、本稿前段で述べた25円以下のケース(9月末で補助金終了)のみを考えておけば良いだろう。

第一生命経済研究所 シニアエグゼクティブエコノミスト 新家 義貴