この記事は2023年7月20日に「第一生命経済研究所」で公開された「訪日外国人消費の急回復」を一部編集し、転載したものです。


消費
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目次

  1. 2019年のピークに接近
  2. 円安の追い風

2019年のピークに接近

最近は、東京都心でも訪日外国人観光客が急増している。観光庁「訪日外国人消費動向調査」では、2023年4-6月の訪日消費額が12,052億円になった(7月19日発表、図表1)。1-3月と併せた金額は、22,155億円まで増えた。これが2023年前半の1-6月の消費額になる。それを2倍にすると、44,300億円となる。過去最高の2019年は48,135億円だった。2023年は、2019年比▲8.0%まで回復している。もしも、中国人の団体旅行が解禁されれば、コロナ前の過去最高を抜くことができるだろう。

第一生命経済研究所
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訪日客の人数については、日本政府観光局が2023年6月までのデータを発表している(6月は7月19日に発表)。この6月は、コロナ後に200万人を初めて越えた(207.3万人、図表2)。1-6月の累計では、1,071万人に達する。2019年比で▲35.6%である。実数でみれば急回復である。

国別には、コロナ前の2019年の1-6月を上回る国が増えている。ベトナム、シンガポール、米国、メキシコ、中東は2019年比10%以上の増加である。23か国・地域のうち8か国が、2019年を上回っている。全体でみて、中国とロシアが大きく落ち込んでいる。もしも、この2か国を除くベースでは、2019年比で▲16.2%まで回復している。外国人にとって、日本旅行は、円安で随分と割安になっている。経済再開と円安効果が追い風になって、訪日外国人の急回復が進んでいる。

第一生命経済研究所
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今後、期待されるのは、中国人の団体旅行の解禁である。中国は2023年2月6日に20か国に向けて団体旅行を解禁した。3月24日には、それを40か国追加した。日本はそこに含まれていない。日本の水際対策は、2023年4月28日に外国人に対する制限が事実上なくなった。本来は、相互主義だから、いつ中国側の団体旅行の制限がなくなってもおかしくはない。筆者は、早晩、団体旅行の制限がなくなると期待している。そうなれば、いよいよ過去最高が現実味を帯びてくる。

円安の追い風

注目したいのは、1人当たりの訪日消費額の増加である。2023年4-6月の1人当たり消費額を調べたアンケートでは、204,509円になっていた(2019年比1.32倍)。1-3月の調査でも、211,040円となり、2019年比では1.43倍に増えていた。円安と海外物価の上昇によって、日本の物価水準は外国人からみて割安になっている。日米物価格差に注目すると、2018年1月から2023年6月までの日米格差は▲32.7%も開いていた。米国側からみれば、1ドルの実質価値は1.49倍(=1÷0.673)も高まっている計算だ。

2023年4-6月の国別消費額(=人数×1人当たり消費額)の2019年比の増減を調べると、中国とスペイン以外の主要国はすべてプラスに転じていた。増加率が顕著なのは、シンガポール(+95.8%)、米国(+83.7%)、カナダ(+57.7%)が挙げられる。

ところで、訪日客は増えた消費額を何に使っているのだろうか。まず、目立つのは宿泊費の増加である。2023年4-6月は4,218億円と、2019年4-6月を15.1%も上回っていた。交通費も8.2%増である。その背景には、2019年4-6月は1人平均の宿泊日数が8.0日だったのに対して、2023年4-6月は10.0日(1.25倍)と長くなったことがある。この数字には、観光客だけではなく、ビジネス客も含まれている。おそらく、背景にはコロナ後の働き方でリモートワークが進み、日本に滞在しながら仕事ができるようになったことがあると考えられる。訪日外国人にワーケーションという働き方が普及していると考えられる。

反対に減ったのは、買物代である(2019年4-6月4,135億円→2023年4-6月2,482億円、▲40.0%)。おそらく、買い物を重視して日本観光をする中国人の減少が響いたのだろう。確かに、訪日消費が伸びているという統計数字になってはいるが、東京都内でかつての「爆買い」という光景を目にすることは少ない。中国人以外に、1人当たり訪日消費額に占める買物代が多いのは、台湾人である。そのほか、韓国人もやや多めである。百貨店、ドラッグストアなど、かつての「爆買い」の恩恵を受けていた消費産業は、中国人の代わりに、台湾人や韓国人のニーズを取り込むことが業績拡大の鍵になるだろう。

第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生