この記事は2023年7月26日に「第一生命経済研究所」で公開された「急増する「副業者数」の分析」を一部編集し、転載したものです。
大幅に増加する副業者数
21日に2022年度の就業構造基本調査が公表された。この調査は総務省が5年おきに実施され、日本全体の就業の状況等が調査される。就業状況を調査したものには毎月公表される「労働力調査」があるが、就業構造基本調査はこれよりも調査サンプル数が大きいほか、調査項目も多岐にわたる。
本稿で注目するのはこの調査で公表される「副業者数」の動向だ。月次の労働力調査では調査されていない項目であり、政府統計でその状況を知ることはできなかった。昨今、政府が副業推進を打ち出す中で、実際の副業者数がどう推移してきたのか、その内容に注目していた。
副業者数は2012年234万人、2017年268万人と推移してきたところ、今回結果によれば2022年の副業者数は332万人と大幅に増加した。10年前から4割強の増加だ。副業のある人の数を有業者数で除した副業者比率は2012年3.6%→2017年4.0%→2022年5.0%とこちらも上昇した。
けん引役は高齢者、比率でみると若年層の上昇も目立つ
この副業者数の動きを年齢別にみると面白い。資料2上図では2012年と2022年の副業者数を年齢階層別にそれぞれプロットしたものである。この10年間の副業者数の増加をけん引しているのは2012年:32.7万人→2022年70.7万人と2倍以上に増えた65歳以上の高齢者だ。また、現役世代の年齢階層でも幅広く副業者数は増えており、副業が様々な年代に広がっていることが見て取れる。
資料2下図では同様に副業者比率の変化をみた。そもそも若い世代は分母の有業者数が小さい点には留意する必要があるが、15~19歳、20~24歳の比率上昇が目立つ。また、20代後半~40代前半の比率上昇も相対的に大きい。比でみると若い年代において副業の広がりを確認することができる。
「副業者」の属性を詳しく分析
資料3~5では同統計を用いて、属性ごとの男女別副業者数(2022年)をプロットした。資料3では年齢階層と本業の所得、資料4では本業と副業の雇用形態と年齢階層、資料5では本業と副業の雇用形態と副業の産業をまとめている。ポイントをまとめると以下の通り。
副業者数は今後も増える可能性が高い
以上、2022年の就業構造基本調査をもとに増加する副業者の実態を探った。特徴的な動きは65歳以上の高齢者層の増加が顕著な点だ。高齢者層では本業が正規雇用というタイプの副業者数は少なく、多くが非正規、自営業の組み合わせである。65歳までの定年延長等措置は企業に義務化されているが、正規雇用の職に就くことが難しくなった後については、複数のパートタイム労働や自営業によって働き続け、収入を増やすことを選択する高齢者が増えたと考えられる。
足元の動向に鑑みると、先行きも高齢者数の増加が続くことは、社会保障ニーズの増大で医療・福祉関連の労働需要が強まることも相まって、副業者数の増加に作用すると考えられる。人手不足の中で企業の人材への引き合いが強まること、政府が労働力不足の緩和等の観点で副業を後押しする方向にあることも追い風となろう。専門スキルへの引き合いが強まる中で、専門職労働の副業も拡大しそうだ。
新しい働き方をタイムリーに把握するための統計整備が必要
星野(2022)では2020年度税収がコロナ禍の景気悪化にも関わらず増加した要因の一つとして、事業所得の増加に着目し、副業やフリーランスの増加が影響した可能性を指摘した(*1)。今回の就業構造基本調査において副業者数が明確に増加した点は、この仮説をサポートするものといえよう。
本来は、副業などの新しい働き方が家計の収入等にどう影響しているのか、よりタイムリーに把握できる体制が望ましく、その確立が求められている。副業者数の動向をつぶさに把握できる政府統計はこの就業構造基本調査のみである。調査が行われるのは5年おきだ。政府は副業を推進しており、労働力人口の減少が見込まれる中での成長率底上げの役割も期待されている。しかし、現状ではその影響や政策効果をタイムリーに測ることが難しい状態にある。
GDPの推計にあたっても、QE(四半期速報)における雇用者報酬は、毎月勤労統計における各事業所における雇用者一人当たりの賃金と雇用者数の伸び率から推計されており、副業者数の変化などは考慮されない。より数値の精緻化が図られる年次推計では、この就業構造基本調査をもとに作成される副業者比率を用いて副業者数が推計されるが、副業者比率の変化が反映されるのは統計公表頻度である5年ごとである。労働力調査の調査対象拡大や民間データの活用などを通じて、副業、フリーランスやギグワーク、スポットワーク(*2)など、新しい働き方の実態をタイムリーに把握するための体制づくりが求められていると考える。
<参考文献>
山澤(2020)「フリーランスの数をどう把握するか ―シェアリングエコノミーの統計的把握」内閣府経済社会総合研究所 季刊国民経済計算 第166号 https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/snaq/snaq166/snaq166_h.pdf
星野(2022)「“コロナ危機なのに税収増の謎”を答え合わせ~まさかの税収増をもたらした4つの要素~」第一生命経済研究所 Economic Trends https://www.dlri.co.jp/report/macro/188979.html
内閣府(2023)「国民経済計算推計手法解説書(年次推計編)2015年(平成27年)基準版」 https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/reference1/h27benchmark/kaisetsu.html
内閣府(2022)「国民経済計算推計手法解説書(四半期別 GDP 速報(QE)編)2015 年(平成 27 年)基準版」 https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/reference1/h27benchmark/pdf/kaisetsu_q_20221129.pdf
(*1)フリーランスの人数についても今回の就業構造基本調査で調査が行われているが、今回分からの調査であり増減の分析はできない。2022年のフリーランスの数は209万人、有業者に占める割合は3.1%とされている。
(*2)短時間・短期間・単発、雇用契約を結びつつも継続的な雇用関係のない働き方。インターネットを通じた労使のマッチングサービスによって広がりを見せている。