「死ぬほど死ぬかと思った」夏タイヤでのブレーキ

道路がシャバシャバしているうちはまだよかった。音を立てながらも、大地に食らいついている感があった。

地に足がついていた。轍から外れなければなんとかなるだろう、と希望があった。が、希望という名の轍は、あえなく雪に消えた。

真っ白。

積もりたての雪の上を走る。僭越ながら夏タイヤである。TPO的にまずいんじゃないだろうか。そろそろ、ブレーキが効かなくなるような気がしなくもない。

そういえば昔、珍しく東京に雪が降った日、この程度の雪で大騒ぎする東京は大袈裟だなあと雪国育ちの走りを見せていたら、つるーーーーーっと滑って反対車線に突っ込んだことがある。対向車がなくて九死に一生を得たが、すでにあのときの積雪量を超えていた。

試しにそーっとブレーキを踏んでみたところ、ぐぐぐっと雪を噛んで減速した。うん、効く。大丈夫だ。まだしばらくはなんとかなりそうです、と油断したところで、つるんっといった。心臓と股間が爆発的にきゅんっとした瞬間、つるーーーっと後輪が右に流れて、そっち方面は崖だった。ぷるんぷるんとお尻を振りながら自然に本線に戻ったからいいようなものの、ガードレールはなかった。

死ぬほど死ぬかと思った。血が逆流したまま戻らなくて、鼻から涙が出た。落ち着いたほうがいい。とりあえず止まろう。話はそれからだ。ブレーキは使用禁止にして、アクセルから静かに足を離した。

慣性の法則に従って、ゆっくりと路肩に止まった。

吹雪のシベリアで夏タイヤ。車中泊という名の遭難かも...【すみません、ボクら、迷子でしょうか?:第6話】
雲を作る工場。ここの雲が吹雪を招いたのではないかと疑っている

旅立ち前に中古屋さんの若旦那がくれていたモノ

見事な着地だった。グッジョブ自分。

あたりを見渡すと、右に崖があるのはいいとして(ちっともよくない)、目を凝らして前方を見ると、10メートルほど先から下り坂になっていた。

下り坂? ということは、ここは丘の上か、峠のてっぺんってこと?

いつの間にそんなところを走ってきたというのか。困ったである、ブレーキは使用禁止になったので、下りとなると、今日はもう進めなくなってしまったではないか。となると、今夜はここで車中泊。滅多に車も通らない名もしれぬ峠のてっぺんで?

やばくない?

この勢いで雪が降り続けば、明朝には雪に埋もれている。雪に埋もれたら来年の春まで発見されないのではないだろうか。もしかして、車中泊ではなく遭難しているのではないだろうか? 

立ち位置について悩んでいたら、いいことを思い出したのである。

旅立ち前、中古車屋さんの若旦那が「これ、持っていきなよ」とチェーンをくれたことを。いまどきチェーンなんか必要ないでしょうと気にしていなかったけれど、ごめんなさい。死ぬほど必要でした。

若旦那に心よりお礼を申し上げて、まさか捨てちゃいないよなと荷物の奥底を探しまくり、チェーンを発見した。

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車中泊なら、晩飯はカップ麺。美味しいけど、焼きそばの味はしない