街灯ひとつない真っ暗な空き地
そこは、街灯ひとつない真っ暗な空き地だった。
ヘッドライトに浮かぶのは、壊れた冷蔵庫とか穴の空いたソファとか、錆びついたコンテナ。人の気配はゼロ。麻薬とか武器を売ったり買ったりするのにほどよい雰囲気で、前科者とか業界関係者以外立ち入り禁止かもしれない。少なくとも、人さまが待ち合わせする場所には見えなかった。
騙されたってことはないよね?
怯えていたら、やってきたのである。マフィアに毛が生えたような人相の悪い、かつまた無駄に体格のいいおっさんが、ドカジャンを着て。
視線があったら、なにガンとばしてんねんって言ってきそうな目玉を見ないようにして、遅れてごめんなさいアイムソーリーと謝りながら9,000ルーブル(17,548円)を渡した。そのまま現金を持ち逃げされても追いかけないこと! と肝に銘じて。
ところが意外にも素直にタイヤをくれたのである。コンテナを開けて、これだよ、持ってけ!って。しかも、タイヤの交換をしたいなら、あっち行ってこっちだぞって、工場まで教えてくれて。
思わぬご親切に、ありがとう、ありがとうとくどくどとお礼をして握手をした手は、緊張で汗じっとり。目に涙を浮かべていたから、さぞかし気持ち悪かったでしょう。ごめんなさい。
タイヤの交換を終えたら、22時になってしまった。急いで予約していた民泊まで走り、ドアの呼び鈴を押したけれど誰も出てくれない23時。遅すぎて、キャンセルされてしまったのである。
なんてぇこった、宿なしだ。
車中泊できる場所を探して街をぐるぐる走ったけれど、真夜中で誰も歩いていない。誰か助けて! あの待ち合わせ場所しか思いつかない、深夜0時。
次回は、中央アジアの独裁国家カザフスタンに入ります。警察官に賄賂を要求されて……。(第8話に続く)
■本連載のこれまでの話、著者プロフィールはこちら:https://www.mobilitystory.com/article/author/000028/