政府からの「リスキリング支援1兆円投資」や「人的資本開示の義務化」の発表があり、企業というものの“人財”や“社員”への向き合い方が問われている。そんな中、“働くもの”に愛され、社員の力で成長し続ける企業に、その取り組みや今後の展望を伺った。

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(画像=株式会社ELEMENTS)
山田 洋輔(やまだ ようすけ)
株式会社ELEMENTS 執行役員CFO
1980年生まれ。東京大学卒業。大手通信会社、スタートアップを経て、日系プライベート・エクイティに転職し、複数のバイアウト案件を手掛ける。その後、農林中央金庫楽天キャピタル(楽天グループのCVC)、ならびにサイバー・バズのCFOを経て、22年にla belle vie株式会社のCFOに就任。翌23年4月には日本テレビホールディングによるM&Aを実現。23年10月、株式会社ELEMENTSにCFOとして入社。
岡村 一輝(おかむら いっき)
株式会社ELEMENTS 執行役員CHRO
1981年生まれ。海外大学卒業後、株式会社リクルートに入社。HRに関わるコンサルティング、アウトプレイスメントのほか各種新規事業部の立ち上げに関わる。株式会社ジェイエイシーリクルートメントでの外資消費財領域責任者を経て、ITスタートアップでの社長室マネージャ、CHROを歴任のうえIPOを経験。22年4月より株式会社ELEMENTS CHROとして従事。
「Know You ! Fit You ! 〜自分だけの要素を知ることで、より自分らしい生き方を選択できる世界に〜」をビジョンに掲げ、個人認証、個人情報管理、個人最適化の3つのソリューションを展開する会社です。金融犯罪や大量生産・大量廃棄などがもたらす社会課題の解決を目指しています。現在の主力サービスであるオンライン本人確認サービス「LIQUID eKYC」は、金融や通信など幅広い業界で200社以上に導入されています。

人的資本経営(ダイバーシティ、従業員エンゲージメントの向上、働き方改革 など)に対するこれまでの取り組み

当社は人的資本経営の推進について、現状主に以下の6点において取り組みを進めております。

1つ目は人材ポートフォリオの構築です。 当社は、人的資本経営に取り組むための土台として、タレントマネジメントシステムを導入しています。人材を資本として可視化し、人材ポートフォリオを構築することをベースとして、人的資本の最適化を推進することによって企業価値を向上させていくことに取り組んでおります。

2つ目は多様な雇用形態や多様な働き方の推進です。 これは当社の昔からのカルチャーとなりますが、年齢や性別、雇用形態にこだわらない採用方針をとっています。様々なライフステージにおいて多様なワークスタイルを希望する方々が働きやすく、中長期的にご活躍をいただけるよう柔軟な雇用制度を整えております。また、社員の生産性を最大化し、かつ働きやすさを保つという観点で、コロナ収束後もリモートワークの活用を継続しております。その一方で、出社して業務を行いたい人やグループワーク等で顔を合わせた方が効率がよい社員に向けて、いつでも出社してもらえるオフィス環境も整えています。

3つ目は社員に合わせた報酬設計です。 上場したことも契機となり、新しい方が入社する機会が増えています。現在の社員向けということだけでなく将来入社いただく方々に対する思考も含め、自分が事業や経営に関わっているという当事者意識を高めていただくための報酬設計に力を入れております。当社では、今回、全社員を対象とした業績連動型のストック・オプションを導入いたしました。本ストック・オプションの行使にあたっては業績の達成を条件としております。会社の業績と個人の金銭的なインセンティブを一致させることにより、より当事者意識を持った業務執行が可能になると考えております。

4つ目は裁量労働制の適用です。 当社は基本的には中途の即戦力人材を中心に採用活動を行っており、各自が自身の担当業務に裁量と責任を持って自走して仕事ができるという前提のもと裁量労働制を導入しております。これは生産性を高めるという観点でも重要ですが、働きやすい環境を作るという観点でも重要で、社員の柔軟な働き方の実現につながっています。あくまで自身の責任範囲である業務に十分貢献ができていることが前提になりますが、各自のライフステージに応じて満足度の高い働き方が実現できる環境だと思います。

5つ目は全社報告会の実施です。 当社では、全社報告会を毎月実施しています。本会議は、経営戦略や事業の運営方針を共有したうえで、各プロダクトの業務進捗状況等の共有や、そこに対して社員がどのように関わっているかを全体で共有しあう場となっています。自身の担当業務以外への知見や興味を醸成し、当事者意識を高めることを目的にしております。また、この会はオンラインとオフラインのハイブリッド型で開催しており、3か月に1度の大規模な会については対面参加をベースにしておりますが、それ以外は参加方法を各自で選べるように設計しています。加えて、コンテンツに関しても画一的なものでなく、会社や事業のフェーズに応じてアジェンダやコンテンツに随時変更を加え、少しでも一体感を高められるような工夫を加えながら運営をしています。またリモートワークが進んでいる環境ですので、リアルコミュニケーション促進のため、対面参加したメンバー向けに全体会終了後、任意参加の懇親会を会社主催にて毎月開催をしており好評です。

6つ目は、全社員に対する1on1人事面談の実施です。 人的資本経営の強化への取り組みにおいて、定量で計測可能な項目についての運用体制整備は重要ですが、定性情報として取得する「社員の声」も同様に、人事側面の業務改善において大切と考えて行う施策です。当社では人事1on1を始めてから数年経ちますが、普段仕事で関わる上長との1on1はどうしても業務の話が中心になってしまい、社員個々人の心身のコンディションや困りごと、キャリアはもちろんプライベートも含めた話などをフォローしきれないこともあります。人事との1on1では、普段業務上で関わりのない者同士が会話をすることで、特に業務以外のトピックについてフラットに新たな観点や情報を互いに共有できるようにしています。また、情報の共有を受けるだけでなく、お預かりした内容は今後の人事制度や経営に活かしていくための情報として活用を進めており、実際に1on1を起点として実現した施策もあります。

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人的資本経営の取り組みで苦労した点

当社は、これから更なる成長を遂げていくことが前提のスタートアップと考えていますので、表現の仕方によっては、人的資本経営という考え方や一連の取り組みが現場の社員にとっては足かせのように感じられる可能性もあります。 そこで当社は、会社が社員に対してトップダウンで一気に方向転換をするようなやり方ではなく、可能な限り現場の負担を低減しながら、人的資本経営の思想に適用していく方針で取り組んでいます。あくまで現場社員には事業の推進に集中してもらうことを前提として、バランスを取りながら改善施策を講じております。 べき論の対応だけでなく、社員からの血の通った意見やアイデアを積極的に吸い上げ各種制度に反映するボトムアップの形で、社会から求められる人的資本経営の指標に対して取り組みを進めております。

取り組みを行う前後の変化や取り組み後の影響

当社は様々な手段で社員間はもとより、会社と社員間をつなぐコミュニケーションを促進する取り組みを行っております。 会社成長の根幹となるエンプロイーサクセスを実現するために最適なコミュニケーションの頻度や質の実現を目指しています。その結果、会社の運営を改善するための機会や材料、またより良い会社を目指すための社員からの発信も増えている状況です。 会社も多角的な視点で社員と向き合うというスタンスでフォローアップを行うことで、中長期的に継続して当社で生き生きと働いていただくうえでの心理的安全性は日々高まっていると感じています。

今後の展望と社員に対して期待すること

現状の当社取り組みは、定性的なアクションがベースになっている部分が多いため、今後は定量的なアプローチも強化していく予定です。人的資本経営を推進するうえで、今後は上場企業として開示が求められてくる部分はもちろん、当社が向かいたい人的資本経営の指針において、明確にモニタリングが必要な項目に対して、定量的指標で定点観測を行う社内体制やオペレーションを設計のうえ、継続的な改善活動を可能にしていくことが重要と考えております。

また社員に対して期待していることは、変化を前向きに受け入れ、事業の主役は社員である自分たち自身という「当事者意識」をより高めてもらうことです。当社は多くの社員がリモートワークを活用しているため、社員全員で顔を合わせて集まれる機会も少ない状況ですが、当社の一員であるという一体感が希薄化しないように工夫しています。 会社発信の人事制度や働き方改革などの様々な施策を推し進めるだけでなく、「会社と社員が一緒に事業を作り上げていく」という意識の醸成にも注力しています。当社の一員として、会社からのメッセージを自分なりに理解のうえ解釈し、最初は明確でなくても良いので、どのように成長し活躍していきたいのか、「自分はどうしたいのか」という思考を自分自身で繰り返すことで、会社への貢献とともに本質的なエンプロイーエクスペリエンスの向上を体感いただけると思っております。 またそのような志向性を持つ方々に是非参画してもらい、共に当社の未来を作り上げていきたいです。

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ステークホルダーの皆様へのメッセージ など

当社は、当社が開発する個人認証等の技術を通じ、社会環境の変化への適応や社会課題の解決を目指しております。内容によっては長期間の開発や実証実験が必要なものも存在しているため、短期的には収益が出にくいものもございます。短期的な成果を出すということよりも、長期的な視点で取り組み続けることで、社会に対して大きな影響を与え、その結果、企業価値の最大化を目指しております。

一方で、人的資本経営に関しては、3P・5Fの中の経営戦略と人材戦略の連動という部分に積極的に取り組み、開示できる部分から開示していく予定で進めておりますので、そのような側面も含めて、長期的な目線でご期待のほどよろしくお願いいたします。

会社名
株式会社ELEMENTS
氏名/役職
山田 洋輔(やまだ ようすけ)/執行役員CFO
氏名/役職
岡村 一輝(おかむら いっき)/執行役員CHRO

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