創業からこれまでの事業変遷とターニングポイントについて
ーーまず、事業の変遷やターニングポイントについて教えてください。
石井食品株式会社 代表取締役社長執行役員・石井 智康氏(以下、社名・氏名略):当社は創業以来「食品業界の実験企業」として時代に合わせて様々な商品開発や研究を行い、第一創業期から第四創業期までの変遷をたどってきました。それぞれの変遷について簡単にご紹介します。
まず、1946年に佃煮メーカーとして創業をしました。戦後で食べ物のない時代に、なるべく多くの人に保存の利くものをおいしく食べてもらいたいと考え、千葉県の船橋で獲れた海産物でつくだ煮を作ることにしたそうです。祖父はもともと機械を扱えたため、つくだ煮や煮豆の真空保存商品でビジネスが発展していきました。この「真空包装技術」の取り組みは、当時業界では初めての技術であり、食品業界の発展にも貢献。石井食品自体も事業を大きく伸ばすこととなりました。
第二期は、70年代の高度経済成長期にあたります。急速に人口も増え、モノのない時代から「食」にも豊かさが出てきた時代です。それまでの主力事業であった佃煮事業に加え、洋食や中華などの新しい分野へもチャレンジをスタートしました。この時に誕生したのが、石井食品の主力商品であるチキンハンバーグやミートボールです。当時の売り上げ規模は圧倒的に佃煮が大きかったこともあり、これは当社にとっては非常に大きな転換点でした。
その後の1990年代以降、過当ともいえる「便利・低価格」の競争が世の中にあふれ、その反動から「商品自体の良さ」をアピールする表面上のマーケティングと宣伝競争が市場にまん延した時代でした。また一方で、狂牛病の問題や禁止添加物の発表が進むなど、世界において「食」に向き合う姿勢が変化しつつありました。私たちは、「食の安全」の実現に向け商品づくりの手法を一新し、添加物に頼らない食品加工技術があるはずだという問題意識のもと、当社独自の技術研究を開始し無添加調理に大きくシフトしました。そして同時に、お客さまに安心していただくため常に「使用原料、調味料、検査内容」について情報を開示することにしたのです。これが第三期に当たります。
そして現在が、第四創業期です。第四期は「地域と旬」をテーマに掲げており、各地域の生産者さんが、きちんと収益を上げることができる状態を仕組化していくことを目指しており、これは食品業界自体を変えていく大きなチャレンジでもあります。ここまでお話しさせていただいたように、当社は何度も変化をくり返しながら発展をしてきました。今後も、過去にとらわれすぎることなく、大事な伝統を継承し、さらに今の時代にあったものを大胆に取り入れていくという事が、私や今のメンバーに課せられたミッションだと考えています。
ーー佃煮事業からミートボールハンバーグ事業への転換は非常に大きなターニングポイントだったかと思います。なぜ、このような大胆な方針転換ができたのでしょうか。
石井:「お客様に喜んでいただくこと」を何よりも大切にした結果がこの大きなターニングポイントに繋がりました。当時の話を聞くと、ミートボールやハンバーグを初めて提供した際のお客様の反応が、それまでの商品と全く違ったそうです。現場でのお客様の飛びつくような反応を目の当たりにした創業者が、周囲や銀行の反対を押し切る形で舵を切ったと聞いています。
自社事業の強みについて
ーー次に、事業の変遷の中で培ってこられた御社の変遷について教えてください。
石井:当社の強みは三大原則である「品質保証番号」「厳選素材」「無添加調理」です。実はこの3つはそれぞれ独立したものではありません。
出発点は添加物を使わない食品加工技術を確立したいというものでした。添加物を使わない「無添加調理」を追求する中で「良い素材であれば添加物なしでも美味しく食することができる」ということに気づき、そこから「無添加調理」を可能にする「厳選素材」の追求に直結していきます。さらに、「無添加調理」であることを証明するには履歴管理システムを作り、それをお客様に公開することが必要です。その結果として「品質保証番号」の取り組みをスタートしました。
このように、「品質保証番号」「厳選素材」「無添加調理」の3つはそれぞれ繋がっていて、その根本には「良い食材で美味しいものを届けたい」という想いがあります。
思い描いている未来構想について
ーー今後の思い描いている未来構想についても教えてください。
石井:中期経営計画でも謳っていますが、既存のサプライチェーンとは全く異なる新しいサプライチェーンを作っていきたいと考えています。これまでは、人件費が安い地域で大きな加工場を作り、グローバルにものを集め大量生産するのが従来の製造業のモデルで、食品業界でもこれは共通しています。これは効率性や安さを追求した結果ですが、今後はこのような形では地域の農家さんはどんどん減っていき、日本の農家に未来はないと感じています。
一方で、当社が目指しているのは、各地域にサプライチェーンが存在しているようなイメージです。具体的には、フードマイレージを下げた流通でしたり、その地域でお金や生産物が循環していくようなサプライチェーンが理想だと考えています。特に食品業界において、現地の鮮度ある生産物を使用し、現地に住んでいる人たちの好みの味付けを知っているサプライチェーンの方が、より美味しいものを作ることができるんです。そして農家さんもきちんと収益が上がる持続的な形で、サプライチェーン全体を育てていくのが今後の大きな目標です。そのためにも様々な地域で、色々なプレイヤーを巻き込んでいきたいと考えています。
- 氏名
- 石井 智康(いしい ともやす)
- 社名
- 石井食品株式会社
- 役職
- 代表取締役社長執行役員