こんにちは。
以前、 富裕層によるエリート再生産教育とは?〜親から子への知的・文化的資本の継承〜 をお届けしましたM.Oです。
普段は金融関連の研究職をしております。

私は、経営者の立場に立ったことはありませんが、企業オーナーとお話をさせていただいたり、超富裕層と言われる方とお話をさせていただいたりすることも多くありました。
その中で、彼ら彼女らの労働に対する価値観や世界に対する価値観が一般の人と違うことを感じることがあります。

今回お伝えさせて頂きたいのは、そうした価値観の違いがどのような経済メカニズムから生じているかということと、結果としてどういった価値観の違いがあるかという二点についてです。

【参考】

尊敬されるお金持ちってどんな人?〜資本主義社会における成功者の意味〜
世界で活躍するプロフェッショナルの条件〜シンガポールでの採用活動を通じて感じる事〜
アジアの富裕層ビジネスにおいて必要とされる2つの信頼関係〜PBビジネスの魅力を感じる瞬間とは?〜


◉労働者の経済〜分業というシステム〜


経済学の父祖アダム・スミスが興味深く着目した経済原理であり、いまもなお、支配的な経済の仕組みがあります。それは「分業」です。

スミスは絶対優位という理論的な基礎から分業を考察しました。つまり、得意な人が得意なことをすることで、効率的な生産システムが実現される、ということです。現代の経済学では、絶対優位という概念は比較優位という概念に置き換えられて、分業は価格システムのなかであくまでも相対的に位置づけられるものになっていますが、ここではその仕組みについて詳しく論じません。

この記事の中で、私が問題にしたいことは、スミスが指摘していた分業の問題です。つまり、分業は社会を豊かにしますが、その中で働く人間は分業を推し進めていく中で、どんどんと狭量になっていき、つまらない人間になってしまう、という弊害の指摘です。

むろん、当時のイギリスの製造業の話を現代にそのまま当てはめることはできません。しかし、現代社会で行われている分業体制においても、非常に局所的な専門性を発揮することで、効率的な経営が実現されている点はそれほど変わらないと思います。ですが、専門家に求められる知識のレベルは、比類ならない水準になっているはずです。


◉資本家の経済〜社会との対峙〜


労働の中である一つの役割を果たす、という仕事への専念は、資産を持つ人の価値観と大きく異なります。

資産を持つ人は、そのお金を元に社会に対峙します。どのようなニーズが社会にあるか、社会にとって価値があるものは何か、ということを社会に対する考察を進めながら、投資を行います。
現代サラリーマンがジョブローテーションなどを行って、経営者の視線を身に付けようとしても、根本には、労働者と投資家(資本家)の見ているものの違い、価値観の違いがあるわけです。

ここで、富裕層が大事にしている教育に、価値観・生活スタイルの継承が含まれていることに着目して頂ければと思います。富裕層の子弟として育てられた人は、一流の設備や指導のもとで習い事を行ったり、海外のエリート用寄宿学校に留学したりすることで、価値観、振る舞いのレベルから、鍛え上げられます。

彼らの受ける教育が、決して、目の前のお金を追うものではない、ということに着目していただきたいのです。その教育の目的は、この世界の中で何に価値があるかということを親から子へ伝達することであり、その価値の成り立ちやメカニズムを教養として身につけることです。
富裕層の求める「本物」の教育、というのは、マーケターがニーズを捉える、という専門の市場調査能力ではなく、世の中において何に価値があるのかということを感性や知性をフルに動員して、世の中の流れを感じ取ろうとする教育です。

富裕層は、確かに、自分の「役に立つ」ことを学ぶことに熱心です。しかし、それは、労働者が専門職能に「役に立つ」ことを学ぶこととは異質です。
労働者が自分の手で稼ぎを得ようとして、技術や知識を身につけるときに、何が役に立ち、何が役に立たないか、という視点で世界を観察するのでは、資産を守ったり、事業を継続させようとする資本家の世界観をとらえることはできないのです。