株式会社タム・タム
(画像=株式会社タム・タム)
安藤 治(あんどう おさむ)――代表取締役社長
1970 年、愛媛県出身。社会人野球の企業チームでプレイ、健康食品等代理店事業などを経て、2003 年に株式会社タム・タムに入社。その後、2007 年に代表取締役社長に就任。
タム・タムは 1975 年、岐阜県で創業しました。プラモデル・ラジコン・鉄道模型・エアガン・ミリタリー商品・ミニカー・フィギュア・玩具を取り扱う総合ホビー専門店です。別業態のホビー専門リユースショップ『クルクル』やホビーのアンテナショップ『タムタムハーフ』も運営しており、北は札幌から南は福岡まで全国に 19 店舗を展開しております。12 月 7 日には 20 店舗目となる松山店をオープンしました。ラジコンサーキットなどを併設する店舗もあり、様々な年代のお客様にご利用いただいております。

目次

  1. これまでの事業変遷
  2. 自社事業の強みやケイパビリティ
  3. これまでぶつかってきた課題や変革秘話
  4. 今後の事業展開や投資領域
  5. メディアユーザーへ一言

これまでの事業変遷

—— 創業から現在までの事業の変遷についてお聞かせください。

株式会社タム・タム 代表取締役・安藤 治氏(以下社名、氏名略) 1975年に創業いたしました。創業者は私の義理の父で、当初は本当に小さな街の模型店としてスタートしました。その後、時代が平成に入った頃、創業者が大型店舗への転換、多店舗展開を目指して動き始めました。その第一歩として、名古屋に約210坪の店舗をオープンしました。当時、模型店の常識を覆すような規模の店舗で、まるでホームセンターのような空間を目指していました。

この動きをさらに広げ、東京・秋葉原という模型業界にとっての聖地に店舗を構えました。秋葉原出店は夢の実現の一環でしたが、同時に業界内での競争や圧力も強く苦労することもありました。それでも多くのお客様に支えられ、業績を伸ばすことができました。

その勢いで神奈川県相模原に500坪を超える大型店舗を開業しました。この店舗は現在でも当社で最大規模の店舗です。その後も大宮店、千葉店と関東各地へと店舗を拡大していきました。

—— ここまでの拡大路線の中で、特に困難だった時期や出来事はありましたか?

安藤 一番の苦労は、やはりリーマンショックの時期です。私が代表取締役に就任したのはリーマンショックが起こる直前の2007年8月でした。その頃、ディスカウント路線を中心とした経営を行っており、利益率が低い中で店舗展開を進めていたため、ショック後の売上減少で一気に経営が悪化しました。上場準備を進めていたこともあり、社内の経理・会計体制を整備している最中でしたが、ショックの影響で赤字が膨らみ、銀行からの融資も非常に厳しい状況に陥りました。金融機関からの支援を受けられず、資金繰りに苦労しました。そこで、創業者の頃の大胆な経営スタイルを見直し、経営体制をスリム化しました。そして適正な利益率を確保することを最優先に考え、多店舗展開を慎重に進めました。この苦境を経て、経営に対する考え方が大きく変わり、無駄を排除して効率化を図るようになりました。

—— それほどの苦境をどうやって乗り越えられたのでしょうか?

安藤 まずは値段設定の見直しと、スタッフ教育を徹底的に行いました。創業者の頃の大胆な経営スタイルを見直し、経営体制をスリム化しました。そして適正な利益率を確保することを最優先に考え、多店舗展開を慎重に進めました。この苦境を経て、経営に対する考え方が大きく変わり、無駄を排除して効率化を図るようになりました。

また、社員一人ひとりが状況を理解し、危機感を共有してくれたことが非常に大きかったです。店舗運営の中でお客様の信頼を一層得られるよう努力し、その結果、徐々に業績を回復させることができました。

—— 最近の新しい動きについて教えてください。

安藤 直近では愛媛県松山市に新店舗をオープンしました。この店舗は約200坪と比較的小規模ですが、初日には約400名のお客様が朝から並んでくださいました。現在の私たちの強みは、地域ごとの特性を理解し、そのニーズに合った店舗運営を行うことです。今回の松山店もその方針のもとで設計されました。

このように、今後もお客様とのつながりを大切にしつつ、新しい地域での展開を続けていきたいと思っています。

自社事業の強みやケイパビリティ

—— 苦境を乗り越えた今、改めてタム・タムの事業の強みやケイパビリティについてお聞かせください。

安藤 やはり私一人で何かを成し遂げることはできませんでした。当社の強みは、専門的な知識を持ったスタッフ一人ひとりにあります。タム・タムは専門店ですので、各スタッフが商品について深い知識を持っています。その知識と信頼が、これまでお客様との絆を築き上げてきたのだと思います。

特に、以前は「価格の安さ」が当社の特徴でしたが、近年は「専門的な接客」が強みとなっています。これはスタッフたちが自ら努力し、専門知識を磨いてきた結果です。

—— 具体的にはどのような仕組みや文化が、その「専門的な接客」を支えているのでしょうか?

安藤 一つの要因として挙げられるのが、スタッフの多くが元々は当社のお客様だったことです。当社のスタッフの約半数が、以前はお客様として通っていた人たちです。そのため、彼らはお客様目線を非常に大切にしています。

また、商品知識を深めるための仕組みも整えています。「マイスター制度」という社内資格制度がその一例です。この制度では、商品知識に関する試験を実施しており、合格者には手当てや認定バッジが与えられます。ただし、当社の独自性はその前段階にある「CSマナー判定」にあります。この試験では挨拶や笑顔、丁寧な接客など、80項目にわたる基準をクリアしたスタッフだけが、マイスター試験を受けられる仕組みになっています。つまり、専門知識だけでなく、接客マナーを徹底している点が、同業他社とは異なる強みだと考えています。

—— 元々お客様だった方がスタッフとして働くというのは、とても興味深いですね。それがタム・タムの魅力を支えているのでしょうか?

安藤 お客様が「この会社で働きたい」と思ってくれることは、何よりの喜びです。例えば、今取材に同席している広報担当の池田も、もともとは長年お客様として当社に通っていた一人です。このような背景を持つスタッフが多いことで、彼ら自身が商品やサービスに対する愛着を持って仕事に取り組んでくれています。

また、当社は「元気で活気ある店舗づくり」を目指しています。お客様が店内に一歩足を踏み入れた瞬間からワクワクしていただけるよう、商品の魅力だけでなく、店舗そのものの雰囲気作りにも力を入れています。

—— お客様とスタッフが名前で呼び合うような関係性が生まれるのも、そういった環境があるからこそですね。

安藤 当社では、多くのお客様が特定のスタッフを目当てに来店されます。例えば、「○○さんが今日出勤しているから行こう」という声を聞くと、本当に嬉しく思います。このような関係性を築けているのは、スタッフ一人ひとりが日々の接客を通じてお客様との信頼関係を大切にしているからだと感じます。

これまでぶつかってきた課題や変革秘話

—— これまで直面した課題や、それを乗り越える中での変革についてお聞かせください。

安藤 特にリーマンショックと東日本大震災は当社の歴史の中でも大きな転機となりました。リーマンショックの際には、当時の経営方針を大きく見直すきっかけとなり、社員の幸福を経営の中心に据えるようになりました。それまでは「会社を大きくすれば社員も喜ぶだろう」という発想でしたが、「社員が幸せであってこそ会社は大きくなる」という逆転の考え方に気づいたんです。

そこで年に 2 回、社長が全国にある各店舗を回り、希望する全ての従業員を対象に 1 対 1 の面談を行っています。約 90 名の社員全員が参加し、パート・アルバイトスタッフの参加率も非常に高いのが特徴で、中には 2 時間半にわたって面談を行う例もあります。 当初は、経営方針の説明が主目的でしたが、最近ではプライベートな相談も増えています。これにより、社内の風通しが良くなり、従業員のモチベーション向上につながりました。 このような取り組みを通じて、社員一人ひとりとじっくり対話できる関係性を築くことにより、「人財」である社員と一体となった店舗運営・会社経営を行い、会社と従業員が共に成長できる「共育」をめざしています。 また、震災では仙台店が大きな被害を受けました。お客様の生活に直接必要な商品を扱うわけではない当社が、この地でお店を再開するべきか悩みましたが、結果的に営業を続ける決断をしました。その結果、復興に向けた努力の中で、これまで以上のお客様が訪れてくださり、「ありがとう」と感謝の声をいただく場面に何度も出会いました。これが、単なる小売業ではなく、「感動体験業」としての意識を明確に持つようになった瞬間です。

—— 「感動体験業」という考え方は、具体的にどのような形で社内に根付いているのでしょうか?

安藤 当社では「スマイルピース」という本を通じて、感動体験業の理念を共有しています。これは、社員一人ひとりが体験した感動的なエピソードを文集としてまとめ、全社員で共有するものです。現在では4巻目まで発行しています。各巻には8人から10人のスタッフが寄稿しており、その内容はスタッフ同士やお客様との心温まるエピソードで溢れています。

—— そういった取り組みが、社員の仕事への向き合い方にどのような変化をもたらしたのでしょうか?

安藤 大きな変化は、販売という行為そのものに対する考え方が変わったことです。ただ商品を売るだけではなく、「お客様と一緒に楽しむ」という意識が根付きました。その結果、接客の質が高まり、社員自身も仕事に対してやりがいを感じるようになっています。

今後の事業展開や投資領域

—— 今後の事業展開や投資領域について、どのようにお考えでしょうか?

安藤 やはり「人」を基盤とした成長をさらに進めていきたいと考えています。人財 共育を一層強化し、社員一人ひとりが主体性を持って自立していくことを目指しています。その延長線上で、小売業から「感動体験業」への進化を遂げていきたいと考えています。

店舗展開については、しっかりと教育を受けたスタッフが配置される状態を作ってから新しい店舗をオープンしています。そのため、ここ数年は多くても2店舗の出店に抑えています。現在、当社が高く評価されているのは、自社で集客を行える点です。ショッピングセンターに出店しても、来館者に販売するだけでなく、自社のお客様を呼び込む力があると、デベロッパーさんからも高く評価されています。そのため、ほとんどの新規出店はオファーをいただく形で進められています。現状では国内展開が中心ですが、扱っている商品が趣味性の高いものであることを考えると、将来的に海外展開も視野に入れています。

—— 静岡への出店を検討されていると伺いましたが、具体的な理由を教えてください。

安藤 静岡市は、模型業界では非常に重要な地域です。国内のプラモデル出荷量の約87%が静岡で生産されています。「世界の模型首都 静岡市」というスローガンを掲げたまちづくりも進んでいます。例えば、小学校の授業でプラモデルを取り入れたり、市主催の「プラモデル大学」で一般の方が模型の知識を学べる場を提供したりと、市全体で模型文化の発展に力を入れています。私自身も時々、プラモデル大学で講師を務めさせていただいています。

にもかかわらず、静岡市内には模型専門の小売店がほとんどない状況です。そのため、当社へ出店の要望を強くいただいています。このような背景から、静岡市は当社にとっても非常に魅力的な地域であり、早く出店したいと考えています。

メディアユーザーへ一言

—— メディアユーザーの皆さんに何か一言いただけますか?

安藤 我々の会社では理念を非常に大切にしています。この理念を基に事業を進めています。もちろん、事業を行う上では採算性やビジネスの正しいやり方をしっかりと考える必要があります。しかし、経営においては人との心の通い合いが重要です。過去の失敗や経験を通じて、人を大切にすることが重要だと感じています。特に経営者であるならば、スタッフ一人一人の幸せを背負うつもりで関わることが、事業の継続と発展につながると確信しています。

また、そこには私利私欲を超えた本質が隠れていると感じています。そうすることで、一人一人の本来持っている力が発揮されるのです。人間性が人を束ねる力となることを理解しました。教える立場にある以上、自らが学ぶことに一生懸命取り組むことで、人が一緒にやってくれるのだと感じています。

氏名
安藤 治(あんどう おさむ)
社名
株式会社タム・タム
役職
代表取締役社長

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