ニデックが企てた同意なき買収を退けた工作機械大手の牧野フライス製作所。代替措置として、アジア系投資ファンドのMBKパートナーズによる買収提案を受け入れ、非公開化し、株式市場から「退出」することを決断した。TOB(株式公開買い付け)やMBO(経営陣による買収)を通じて、一旦、ファンドの傘下に入った後、再上場する事例はどのくらいあるのか。また、その顔ぶれは?
牧野、ホワイトナイトの買収提案を受け入れ
2025年前半のM&A戦線で最も注目を集めたニデックによる牧野フライスの買収案件。事前の通知や協議は行わず、1株1万1000円(総額2570億円)での買収を提案したのは昨年12月末。ニデックは当初の予告通り、TOBを4月初めに始めた。
牧野フライスは対抗措置として買収防衛策を導入。ニデックはこの差し止めを求める仮処分を東京地裁に申請したが、却下されたことで、5月初めにTOBを取り下げた。ニデックが矛を収めたことで4カ月半に及ぶ両社の攻防戦はひとまず決着した。
とはいえ、牧野フライスが単独路線を堅持することはかなわなかった。同意なき買収騒動の渦中、ホワイトナイト(友好的買収者)として名乗りを上げた投資ファンドのMBKパートナーズを招き入れるほかに選択肢がなかったからだ。MBKはニデックを上回る1株1万1751円での買付価格を提示した。
5~7年後をめどに再上場を目指す
牧野フライスはMBKの経営ノウハウや人材・資金面の支援などを受けることで企業価値の向上を実現するとしている。MBKは12月上旬に牧野フライスにTOBを始め、完全子会社化を目指す。TOBが成立すれば、牧野フライスは2026年上期中に東証プライム市場への上場が廃止となる。
牧野フライスは将来の再上場を視野に入れている。6月19日に東京都内の本社で開いた定時株主総会で宮崎正太郎社長は非公開化から5~7年後をめどに再上場を目指す考えを説明したとされる。ファンドにとっては投資資金の回収となる。
TOB・MBOで戦略的非公開化
上場廃止のパターンとしては①証券取引所の上場維持基準を満たせなくなった、⓶経営破綻、③完全子会社化ーに大別される。
このうち完全子会社化は親会社や他社によるものに加え、会社側や経営陣が投資ファンドと連携して行われる場合があるが、いずれも株式取得の方法としてTOBを活用するのが一般的だ。
自主的な上場廃止を目指すのがMBO。TOBの一環として経営陣(主に創業家・オーナー家)が単独、もしくは投資ファンドと組んで行われる。
大半のケースで非公開化は短期的な株価や業績に左右されず、大胆な経営改革を中長期で進めやすくすることを目的とする。いわば、戦略的非公開化だ。その後の再上場は一連の経営改革で生まれ変わった会社の評価を市場に問うことを意味する。