◉住み慣れた自宅などを贈与する


次に、家族で住み慣れた自宅など家族との思い入れの強い財産を後継者以外の相続人に贈与(又は遺贈=遺言書で受取人と指定すること)することも有効な手段と言えます。
確かに建築から年月を経ている建物を贈与することでは、企業の事業承継の対象となる、株式や事業用資産との経済的なバランスは取れないかもしれません。しかし、長年、家族で住み慣れた家を贈与すれば、決して後継者だけを優遇しているという訳ではないという意識は伝わりやすくなります。また、自宅などプライベートな資産であれば、事業に影響しないためあえて後継者に承継させる必要はありません。

家などの思い入れのある資産を承継させることで感情的に納得を得るというのは一つの有効な方法です。この場合、先に述べました保険金とセットで用いることで経済的なバランスをとることも可能となります。ただ、家などについても贈与税・相続税の課税の可能性があることについてはご注意頂きたいポイントです。


◉遺言書を活用する


遺言書というとマイナスなイメージが強いかもしれません。しかし、遺言制度は、故人の最終意思として最大限尊重されるという、非常に強い法律上の効果が保障されています。ドラマであるように莫大な遺産を遺言者お一人の意思で第三者に渡すことすら可能とする強い効果を持つ制度です。
そのため、遺言書を毛嫌いされずに有効に活用されて、将来、経営者様が天寿を全うされた後にも適正な会社経営がなされるよう事業承継でも活用いただきたい制度です。

遺言書を事業承継の際に利用する場合には、例えば、後継者以外の相続人の方に対して、株式の全てを後継者に贈与させることを条件として預貯金全額を相続させるなどの使い方が考えられます。その他にも、後継者としてふさわしくない場合には、遺言書で株式の贈与を取り消すことを定めるなども可能です(ただし、あまりに経営に多大な影響を及ぼすような遺言内容は事業経営のためには差し控えられることが得策といえます)。

このように遺言制度を利用することで、後継者とその他の相続人間の公平感を保つ最終意思を残すということも、企業を次世代に譲るという事業承継においては重要な方法となります。なお、遺言書の方式については、最も安全な遺言方法として公証役場で作成する公正証書遺言制度の活用がおすすめできます。


◉後継者以外の相続人へ向けて配慮するべきポイントのまとめ


以上述べましたように、企業の事業承継手続においては、株式や事業用資産を集中させる必要性から、どうしても後継者に財産が集中してしまいます。そのため、決して起こって欲しくない「争続」を起こさないようにするため、様々な法律制度をご活用されて円滑な事業承継を進めていただきたいと思う次第です。

また、保険金や贈与などをした場合には税金の問題が生じることについては本文で述べましたとおりです。そのため、税理士などと相談し、可能な限り、税負担を軽減してあげる方策を取られることが相続人の方への大きな配慮となります。
後継者以外の相続人の方への配慮としては、感情的に不公平感を生じさせないことと、実際の生活に不便が生じないように金銭的な受益を受けることができるように配慮することの2点が大きなポイントとなります。

行政書士 S.K

photo credit: kevin dooley via photopin cc